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東京で学童バイト、新潟で僧侶…「昆虫芸人」が帰郷までに叶えたい夢
堀川ランプさん 「ステーキハウス五十嵐」で活動
春になり、入園・入学・入社と新しい生活が始まって緊張している人も多いことでしょう。緊張するのは、受け入れる側の人も同じようです。学童でバイトをして7年になる芸人の堀川ランプさんも「ナーバスになっている」と話します。どんな仕事内容なのか、聞いてみました。(ライター・安倍季実子)
「この春に、僕が芸人と学童バイトを始めた7年前に生まれた子がやって来ます。自分はあの頃とあまり変わっていなくて、時間の流れの残酷さをヒシヒシと感じますね」
そう苦笑いを浮かべるのは、自治体から委託を受けた社会福祉法人が運営する学童クラブでバイトをしている堀川ランプさん。今年、芸歴7年を迎え、アルバイト歴も7年になります。
子どもの頃からお笑いが好きで、大学時代はピン芸人としてライブに出演していたそう。会社員になってからも、週末はアマチュアとしてお笑いライブに出演していましたが、2017年の「THE VERY BEST OF FREE〜フリー芸人最強決定戦〜」で3位を獲得したことで芸人に転身しました。
「学童バイトは求人サイトを見て存在を知りました。前職が自然教育イベントなどを開催する会社で、子どもと触れ合うことも多かったんです。それに、一応教育系ですが、バイトは免許不要ということだったので、すぐに応募しました」
もともと昆虫好きがきっかけで就職した会社でしたが、二転三転あって学童バイトを始めることになった堀川さん。「日々、子どもたちの成長を感じられるので、とてもやり甲斐がある」と話します。
「例えば、小学校1年生の頃はやんちゃで言うことを聞かなかった男の子が、3年生になった時に、僕がくしゃみをしたのを見て『僕のティッシュ使う?』とポケットから出してくれたことがありました。すごくうれしかったです」
自分の主張を通しがちだった子が、年を重ねて妹や弟が入って来て、急にクールぶって、お兄さんお姉さんになるのを見ることもあります。
子ども達には子ども達のコミュニティーがあり、それに合わせてキャラクターを切り替えて生活しているのだと感じ、昔の自分を思い出すこともあるそうです。
「うちは厳格な家だったので、小学校時代に思いっきり遊んだことがあまりなく……。長男ということもあって、色々な習いごとをしていました。だから、目の前にいる子ども達には、楽しい思い出をたくさん作ってほしいと思いますし、そのお手伝いができていたらいいなとも思います」
学童クラブは放課後、自宅に保護者がいない子どもを預かる場所です。
堀川さんのバイト先が受け入れているのは、小学校1~3年生までの50~60人ほど。4~5人の指導員で担当し、主な仕事は子どもの見守りです。
「学校の先生ではないので、宿題のお手伝いはできません。僕は、外遊び中にケガをしないように見守ったり、ケンカが起きたときの仲裁役をしたりすることが多い」そうです。
普段は新潟に住んでいる堀川さんは、2週間の東京滞在時に5日ほどバイトをしています。
シフト制で、勤務時間は13時から18時過ぎまで。その後ライブに出演し、ライブ後に昨夏からコンビを組んだタイセイさんと新ネタの相談やネタ合わせをするのだそう。
「13時に出勤して、施設の掃除をしながら子ども達の到着を待ちます。宿題がある子には宿題を優先してもらい、終わったら遊びの時間です。天気がいい日はグラウンドに出て外遊びをして、15時におやつ、17時に終わりの会をして送り出し、18時までは残った子どもの遊び相手をします」
月の平均的なバイト代は3~5万円ですが、夏休み・冬休みは午前中から始まるので変動するそうです。
子どもとの接し方もケンカの仲裁も、今では慣れましたが、当初は要領がわからず、苦労したのだそう。また、懐きすぎる子もいて、線引きが分からずに戸惑うことも多かったといいます。
「まわりの先生方に相談しながら、自分なりの工夫も交えて子ども達と接していましたが、3年目の時に『放課後児童支援員』の資格を取得したことで、大きく変わりました」
放課後児童支援員とは、2015年に新設された準国家資格です。2年以上の実務経験があれば研修を受けて取得できるため、勧められたそうです。
「僕は大学で生物学を専攻していて、子どもの教育についての知識がなかったので、迷わず受けました。研修では、子どもの発達や思考を理解するための基礎知識や学童クラブの在り方、支援員の役割などを学びます。それまでの疑問が次々に解決していって、本当に受けてよかったです」
子どもと接することで学ぶことも多く、芸人活動にも大きなプラスになっているといいます。
「ダイレクトにプラスになっているのは、『昆虫芸人』としての活動ですね。夏になると昆虫イベントの出演が増えるので、子どもと接する機会も増えます。学童バイトで学んだ、子どもにとってのちょうどいい距離感や接し方が活きています」
また、ネタ作りにもいい影響があるそうです。
「子どもは、下品な言葉や下ネタで大笑いすると思っている方は多いのではないでしょうか。実は違っていて、先生や親などの『真面目そうな人が下品なことを言う』というギャップに笑っているんです」
子どもたちは、見た目や雰囲気からその人のキャラクターをイメージしていて、そのイメージにないことをするから笑うのだと分析している堀川さん。
「子どもって周りの人をよく見ていて、その人に合ったコミュニケーションの取り方をしていたりもします。例えば、この先生には冗談は通じないとか、この先生は怒らないなどをわかった上で、接し方を変えています。だから、他の先生には丁寧な言葉を使っているけど、あまり怒らない僕にはタメ口なんだと思います(苦笑)」
「それに気づいてから、自分がどんな見られ方をしているのかが気になるようになりました。そして、僕が周りに与えているイメージにないことをネタに盛り込めばいいのだと気づきました」
とはいえ、コンビ「ステーキハウス五十嵐」は結成したばかりな上に、堀川さんが月の半分は新潟にいるため、コンビで活動できる時間も限られています。
「僕が新潟にいる時は、それぞれがネタを考えて、僕が東京に行った時にネタ合わせをしつつライブに出演しています。主催ライブもあわせると、大体7~10回のライブを詰め込んでいて、大変ではありますが、ムダが少なくて、意外と充実しています」
コンビとしての当面の目標は、東京滞在時に着実にライブをこなし、「ステーキハウス五十嵐」の名前を定着させることです。
昆虫芸人としては、昆虫をテーマにした教育番組に出演することが目標なのだそう。
「昆虫も子どもも好きなので、夏休みの昆虫特集コーナーとかに出られたらうれしいですね。あと、僧侶の方も地道にやっていきたいと思っています。新潟では、フリップ芸の要領で、仏教の教えを分かりやすく伝えるイベントなどもしています。仏教の間口を広げる活動も続けて、いつか家を継いだ時に、たくさんの人に浸透していたらうれしいですね」
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