連載
#82 夜廻り猫
奨学金は借金「結婚前にきれいにしないと」と言われ…マンガ夜廻り猫
「奨学金は借金だものね。結婚前にきれいにしないとね」。結婚のあいさつのために彼女の家を訪れると、親からそう言われて――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、ツイッターで発表してきた「夜廻り猫」。今回は奨学金にまつわるエピソードです。
きょうも夜の街を回っていた猫の遠藤平蔵。心の涙の匂いに気づきます。
歩道橋の上でひとりたたずんでいた若者に、「そこなおまいさん泣いておるな?心で どうした」と尋ねます。
若者は、結婚を決めた彼女の家にあいさつに行った帰りでした。
「披露宴はどこでやるの」と尋ねる彼女の父に、「すみません、その辺は節約したくて。僕は奨学金の返済もあるし」と答えました。
彼女も「写真と挨拶状だけで十分だよ」と笑います。
しかし、それを聞いていた彼女の母は、「奨学金は借金だものね。そういうものは結婚前にきれいにしないとね」と言ったのです。
若者は「つまり、結婚したいならその前に奨学金を返せと。500万円だって言ったんだけどね」とつぶやきます。
「親に金がないと進学できないのは知ってたけど 結婚もできないのか」
遠藤は言葉を失い、ただ若者のとともに夜の街を見つめるのでした。
作者の深谷かほるさんは奨学金について「ゼロから生活を築こうという若い人に、背負わせていい重荷だとは思えません」と指摘します。
2022年9月に労働者福祉中央協議会が実施したアンケートによると、奨学金の平均返済額は310万円。4割弱が「結婚」において奨学金が「影響している」と答えています。
深谷さんは「返済の必要がないよう、奨学金は棒引きにしてほしい。返済のため無理に働き、病気になってから支援するよりも良いことではないでしょうか」と話します。
深谷さんも23歳の時に借金があり、つらい返済生活を送ったそうです。
「10万円の借金で、収入はアルバイトで月12万円。ひと月に1万円のお金を残すだけでも大変でした」と振り返ります。
「私は1年半で完済しましたが、それでも苦しかった。奨学金は数十年にわたる重荷です。私なら、結婚や出産も戸惑うどころか、明日の朝に起き上がる気力もなくしてしまいそうです」と心配します。
「生活が計画どおり順調にいくとも限りません。若い人に重すぎる負担を強いてはならないと思います」
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