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お金と仕事

政府だけでしなくていい…虐待から逃れた男性が支援を受けるまで

「この人は信じられる」があるから…

「『この人は信じられる』とそのとき思いました」と、過去に虐待を受けいまは一人暮らしをしている男性は語ります=Getty Images
「『この人は信じられる』とそのとき思いました」と、過去に虐待を受けいまは一人暮らしをしている男性は語ります=Getty Images

目次

「役所に相談するのはハードルが高い」――。
コロナ禍で生活費などのやりくりが難しくなった20代の男性は、NPO法人の現金給付と食料支援を頼りました。ただ、男性は支援を受けるためにNPOに連絡をとったのではなく、以前からの「ツテ」があったからこそ相談できたといいます。支援者が「頼ってもらう」ためのハードルは、どうすれば下げられるのか。男性の経験から考えました。

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親からの支援なく一人暮らしで通信制高校

親から殴られたり首を絞められたりする虐待を受けていた男性は高校生の時、行政に保護されたことをきっかけに、実家から距離を置くことになりました。

通信制高校には、バイトをしながら家賃4万円の一人暮らしの自宅から通っていました。ただ、親からの支援もない中で勉強とバイトを両立させることは厳しく、金銭面でも苦しい生活が続いていました。
そんな中、コロナ禍の飲食店の営業時間短縮の影響を受け、バイトに入れる時間は少なくなり、深夜手当が出る時間帯の勤務も制限されるようになりました。そのため、コロナ禍前には月11万円ほどあった収入は5万円ほどに落ち込みました。貯金がなくなり、厳しかった生活はより厳しくなったといいます。

さらに男性を追い詰めたのは孤独でした。
「頼りにしていた人とも会えなくなり、孤立してしまったことで過去の虐待のことを思い出すようになりつらかった」

そんなとき、男性が頼ったのは、LINEなどを通じて生活相談ができ食料や現金給付などの支援も受けられるNPO法人でした。男性はそのNPOから食料支援や現金給付を受けました。
目に見える支援だけではありません。「毎日『おはよう』とLINEが来たり、雑談をしたりすることもありました。気にかけてくれる人がいて安心することができました」(男性)

D×Pによる食糧支援、発送前の山=D×P提供
D×Pによる食糧支援、発送前の山=D×P提供

「相談しよう」と思えたのは

ただ、支援が受けられるという理由で苦しいときにすぐNPO法人につながったというわけではなく、男性はそもそもそのNPOの代表とツイッターでやりとりを重ねていたからこそ「相談しようと思えた」と話します。

男性は実家にいた頃から、今回支援を受けたNPOの代表とツイッターでやりとりを重ねていました。
代表は以前、ツイッターで「かばん持ち」を募集していたといい、その募集を知った男性がメッセージを送ったことから親交が始まりました。

「当時は大人を信用していませんでしたが、仕事や就職には興味があったのでメッセージを送りました」

そして初めて男性が代表と直接会って話をしたとき、代表が自身の過去について苦悩したことを語ってくれたのだといいます。

「つっかえながらも、過去の話をしてくれた。大人もつらいことがあるんだなと思ったし、そういうことがありながら、いまは子どものために活動してくれている。『この人は信じられる』とそのとき思いました」

そして、「初めて相談しようと思えた」といいます。

男性は以前、行政機関に生活保護の相談に行っていました。ただ、申請する際には親族に連絡が行くと言われ「身の危険を感じ、諦めた」といいます。
(※扶養照会については、支援団体の活動もあり、現在は運用変更の通知が厚労省から出されている。)

また、行政への相談については「ハードルが高い」。「申請手順が難しくてわからない」と訴えます。

「暴力がない世界になってまだ数年」

現在、家を出てから数年が経過しているという男性。「『自立しないといけない』と周囲から言われるのもわかる。でも、高校生で保護されるまで暴力を受けてきて、暴力がない世界になってからまだ数年しか経っていないんです」
そのため、自分と同じような境遇にある人に対しては、成人してからも支援が受けられる制度がほしいと訴えます。

男性が頼った先のNPO法人であるD×Pは、「やさしい日本語などを使った、誰もが制度にアクセスできるウェブサイトの構築」「利用できる制度を検索しやすくするシステムの構築」などを、今後政府に訴えていくといいます。

数年前から男性とやりとりを続けていたD×P代表の今井紀明さんは、「(D×Pの支援対象である)15~25歳は、リアルな窓口に慣れていないため、オンライン化が必要」と指摘します。

実際、D×Pでの支援の最初の窓口はLINE(ユキサキチャット)です。
LINEでのチャットやビデオ通話でのやりとりを通じて支援を必要とする若者の現状を把握し、公的支援の紹介をしたりD×Pが実施している現金給付などのサポートに結びつけます。

D×Pの今井紀明代表=D×P提供
D×Pの今井紀明代表=D×P提供

NPOがアウトリーチを実践、行政は啓蒙を

行政による若者支援について、今井さんは「いじめ相談などは、行政もNPOと組んだりして普及してきた」とする一方、「困窮相談などについてはまだ整備がされていない」と指摘します。
ただ、その対策は政府だけでするものではなく、NPOなどと協力して進めていくべきだと話します。
「若年層はツイッターやインスタなど、様々なコミュニティーがあり、政府だけでアウトリーチしていくことは難しい。政府は(困り事を抱える若年層が)声を上げやすくする啓蒙部分を担い、NPOがアウトリーチを実践していく、という分担をしていかないと対応しきれない」

D×Pでは今後も支援者からの寄付などを原資に若者たちへの現金給付や食料支援を続け、「既存のセーフティネットでは拾い上げられなかった10代を社会につなげていく」としています。

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