連載
#27 眠れぬ夜のレシピ
「完璧」な日にとびきり似合うお菓子を調達して #眠れぬ夜のレシピ
狙うはピンクのパッケージ
皆さんの街で、サクラは咲きましたか? SNS作家・午後さんが描く「眠れぬ夜のレシピ」は、「完璧」なタイミングを迎えた昼下がりの楽しみ方です。手紙を添えて、お届けします。(漫画・コラム、午後)
午後さんのプレイリスト
眠れない夜。午後さんの身近にあった音楽を教えてもらいました。
あなたの夜の隙間も、少しでも埋められたら、幸いです。
こんばんは、午後です。
いよいよ桜の季節がやってきましたね。今回の花見の話を描いてからもう一年近く経つのかと、時間の経過に驚いています。描いた時の高揚感を、つい最近のことのように思い出すからです。同じ季節の記憶はしばしば、時系列があべこべになってしまいます。
今ではお花見を始めピクニックなど、外でごはんを食べることが大好きな私ですが、実は昔はあまり好きではありませんでした。というより、苦手でした。なぜ、わざわざ地べたの近くでお弁当を広げなくてはならないのか。なぜ、風や砂埃や、日差しなどの、たくさんの刺激が邪魔をして、到底味に集中できないような環境で物を食べないといけないのか。様々な刺激がカットされた快適な室内で、地面から遠いテーブルの上に広げて食べた方が良くないか。昔の私には理解不能でした。
しかし大学生くらいの頃に、その感覚は一変します。一人でお昼を食べることが多かったのですが、色んな学生がいる食堂では食べづらく、よく外で食べていました。寒いなあとか暑いなあとか思いながら食べていたのですが、よく晴れたある秋の日のこと、キャンパス内の大きな木を眺めながら食べていたら突然、外で食べることの良さに気づきました。
空きコマの時間だったので、外にほとんど人がおらず、静かで、秋の穏やかな気候で、温かな日差し、涼しい風、木のざわめき、枝葉の揺れ、木漏れ日、土の匂い…その全てが、食べているおにぎりの上にふりかけのように降り注いで、より美味しくさせてくれていました。決して人間には作り出せない味わいでした。
そして土や木の傍でお米を食べていると、食べているお米が、土や水や日光ですくすくと育ち、様々な過程を経て今、私の手元にある、その旅のことを改めて意識させられました。そう思って齧りかけのおにぎりを眺めると、光に当たって、ツナマヨと海苔と、お米一粒一粒がピカピカと輝いて見えました。
『外で食べるとより美味しい』という言葉をよく耳にしてはいましたが、こういうことか!と、ひどく衝撃を受けたことを覚えています。(成長とともに味覚が変化し、味だけでなく香りや旨みなど、様々な美味しさを理解できるようになったおかげかもしれませんが)何にせよ、理解することができて良かったと心から思います。
万人が口にする言葉には、ある種の普遍的な価値があると思っています。その価値を、自分なりに気づくことができてラッキーでした(自分には理解ができないその事実に孤独を感じるので…)
いずれこのお話も漫画に起こそうと思っておりますので、その時がきましたら、見ていただけたら幸いです。
温かくなったと思いきや寒さが急激に逆戻りしたりと、なかなか気の抜けない日々が続きますが、どうかお身体に優しくお過ごしください。
今夜も素敵な夢を見られますように。おやすみなさい。
午後
SNS作家。2020年5月からTwitterに漫画を投稿をしている。著書に「眠れぬ夜はケーキを焼いて」、「眠れぬ夜はケーキを焼いて2」(ともに、KADOKAWA)がある。Twitterアカウントは@_zengo。
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