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見取り図、ネタを作らずパチスロ通い…新人時代〝自業自得〟のどん底

チケット手売りから復活

見取り図の盛山晋太郎(左)とリリー=2021年5月、大阪市中央区、滝沢美穂子撮影
見取り図の盛山晋太郎(左)とリリー=2021年5月、大阪市中央区、滝沢美穂子撮影

目次

「M-1グランプリ2018」で知名度を上げ、全国区のバラエティーでジワジワと露出を増やしていった見取り図の盛山晋太郎とリリー。今年、オーディション&エンタメ情報サイト「デビュー」に掲載された『2021年ネクストブレイクランキング』芸人編で第1位を獲得するなど、その勢いはとどまることを知らない。彼らが期待される理由とは何か。これまでの足跡をたどりつつ、千鳥、かまいたちとの違いから考える。(ライター・鈴木旭)

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どこまでも抜け目のないコンビ

千鳥やかまいたちなど人気芸人の番組にたびたび顔を出し、若手の登竜門とも言われる『笑神様は突然に…』(日本テレビ系)でも存在感を示した見取り図。先月9月には、全国ネット初の冠特番『見取り図の間取り図ミステリー』(読売テレビ・日本テレビ系)も放送され、いよいよ本格的な東京進出が待たれるところだ。

その一方で、漫才にも磨きをかけている。今年もM-1にエントリーし2回戦を突破。ネタ中に盛山が発する「あたおか」(頭がおかしい)は2019年上半期の「インスタ流行語大賞」流行語部門で1位を獲得したが、ここ最近は2人の掛け合いをメインに笑いをとっている。キラーフレーズに頼ることなく、新たな武器を模索する姿勢も人気たるゆえんなのだろう。

どこまでも抜け目のないコンビだが、あまりに用意周到な気さえする。なぜ彼らは、ここまで全方位にアグレッシブなのだろうか。

コンビ結成後、4年目で単独ライブ

盛山とリリーは、2006年にNSC大阪校に入学。翌2007年5月にコンビを結成している。

当時からリリーは女性人気が高かったのに対し、盛山は大柄でヒゲ面のロン毛。劇場メンバー入りした盛山を見て、かまいたち・山内健司は「めちゃくちゃ柄悪いヤツ入って来た」と感じたという。(2021年6月11日に放送された『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBS系)より)

そんな2人が、2010年8月に「なんばグランド花月」で単独ライブを開催する。芸歴4年目では、異例とも言える大抜擢だ。期待の新人として一目置かれ、何より当人たちが「売れる」と信じて疑わなかった。しかし、順風満帆な日々は長く続かなかった。

見取り図の盛山晋太郎(左)とリリー=2019年11月18日、大阪市中央区
見取り図の盛山晋太郎(左)とリリー=2019年11月18日、大阪市中央区
出典: 朝日新聞

あまりの大きな転落に「1カ月休む」

新ネタを作るのは月に1本程度。盛山はパチスロに通い、身なりもまったく気にしなかった。すると、劇場出演をかけたネタバトルでトップクラスから急下降。ついには、素人のコンビばかりいる一番下のオーディション組にまで落ちぶれた。リリーの人気に頼り、ネタを磨かなかったしっぺ返しだった。

盛山は借金が膨れ上がり、一時期は月額7千円ほどのトランクルームで生活した。あまりの大きな転落による精神的なダメージも大きかった。盛山はリリーに「1カ月休む」と伝え、自宅にこもるようになった。もともと警察官を目指していた盛山は、大阪府警の募集がないか調べたりもした。ゲームに没頭し、現実逃避する日々。そんな中で、ようやく「漫才せなあかん」と我に返った。

ここから見取り図は、地に足の着いた活動を始める。週1本新ネタを作り、毎日公園でネタ合わせをした。盛山は食べる量を減らし、夜にランニングをして体を絞った。MAX125キロあった体重は、80キロまで落ちた。まさに身も心もリスタートし、目の前の階段を一歩ずつ上っていったのだ。

まずは盛山でいったほうがいい

2010年代中盤まで、よしもと漫才劇場の前でチケットを手売りした2人。寒空の下でも、負けずに道行く人に声を掛けた。

2019年12月18日に掲載された関西の最新情報を発信するニュースサイト『Lmaga.jp』のインタビュー『見取り図「憧れの人たちに近づけるように」』の中で、リリーは「ハングリー精神がそこで生まれました。早く手売りをしなくて良い位置までいこうって」と語っている。

またこの時期、盛山はさらば青春の光・森田哲矢にM-1で結果を出せないことについて相談している。そこで森田は「まずは盛山でいったほうがいい。お前がツッコミのフレーズ、ガンガンハメていくことが爆笑に持って行ける鍵になるんちゃうかな」と答えたという。(前述の『金曜日のスマイルたちへ』より)

森田のアドバイスが功を奏し、見取り図はメキメキと実力をつけていく。舞台の出番が増え、劇場から劇場へと駆け回る毎日。多い日は、1日11ステージをこなした。いつしか2人は、「劇場番長」と呼ばれるようになっていた。

見取り図の盛山晋太郎(左)とリリー=2019年12月4日、東京都港区
見取り図の盛山晋太郎(左)とリリー=2019年12月4日、東京都港区
出典: 朝日新聞

千鳥、かまいたちとの違い

ターニングポイントは、2016年のM-1準々決勝。結果こそふるわなかったが、初めて今までと違う手応えを感じた。すると、翌2017年から変化が起きる。「上方漫才協会大賞」で文芸部門賞の1組に選ばれ、「ytv漫才新人賞」で第4位、M-1で準決勝に進出。いよいよ体感と現実がシンクロし始めた。

そして、翌2018年からは3大会連続でM-1の決勝に進出。2019年から『お笑いワイドショー マルコポロリ!』、『うまンchu』(ともに関西テレビ)でレギュラー、『メッセンジャーの○○は大丈夫なのか?』(MBSテレビ)で準レギュラーに抜擢されるなど、関西の人気芸人へと駆け上がっていった。

賞レースで知名度を上げ、関西でロケやトークの技術を高める。これは、関わった番組の年数や本数による経験値の差こそあるが、千鳥、かまいたちとほとんど同じ路線と言っていい。しかし、彼らと大きく違うのは、拠点を移す前から十二分に環境が整っていることだ。

千鳥は2012年に東京進出したが、苦渋を舐めた数年を経て実力ではい上がった。かまいたちも、一度は東京進出したもののうまくいかず、賞レースの結果を残したうえで2018年に再進出した経緯がある。見取り図は、今まさに活躍するその2組に迎え入れられるのだ。ゼロから土壌作りする必要はない。

さらに東京には、ほぼ同じタイミングで人気に火がついた後輩のニューヨークがいる。見取り図は、彼らの番組にゲストとして顔を出したり、2組によるライブ『ピアス』を開催したりと共演も少なくない。また、一時期盛山は霜降り明星・せいやとルームシェアしていたこともある関係だ。つまり、先輩だけでなく人気の高い後輩ともつながりを持っている。これほど準備万端を整えた中で東京進出を図ったコンビがかつていただろうか。

東西がもっと“平たく”なるんかな

2021月7月22日に発売された「芸人雑誌 volume3」(太田出版)の中で、盛山は「ネットもあって活動の幅が広がりすぎて、今までの芸人さんの王道のスタイルと違うやり方がいっぱいあるじゃないですか。(中略)これからは東西がもっと“平たく”なるんかなと思ってます」と語っている。

たしかに一昔前と比べてYouTubeチャンネル、ネット番組など発信できる場も多い。この発言からも、焦って東京進出を考えたわけではないことが想像される。

また、同誌の中でリリーは「千鳥のノブさんと仕事したとき、番組によって結構顔が違うなと。セリフ選びも番組によってセーブできてるんでしょうね。僕らはたまに絶対言ったらダメなところで変なこと言ってしまうんすよ。そこのチューニング合わしていかんとダメっすよね」と自分たちの現在を冷静に捉えている。

つまり、一部の視聴者やファンからささやかれる不安の声をよそに2人は浮足立っていない。その姿勢が、業界内の信用を勝ち取っているのではないだろうか。

盛山晋太郎(左)とリリー=2021年5月、大阪市中央区、滝沢美穂子撮影
盛山晋太郎(左)とリリー=2021年5月、大阪市中央区、滝沢美穂子撮影

満を持しての東京進出が吉と出るか

リリーは、『マルコポロリ!』で共演した月亭方正や東野幸治から「かわいい」と慕われていた。ここ最近では、とんねるず・木梨憲武から「麻布十番に住め」とのアドバイスも受けている。現時点では盛山のイジられキャラやラップにスポットが当たることも多いが、今後は先輩に好かれるリリーの交遊やエピソードトークで脚光を浴びることになるかもしれない。

心配な点を挙げるなら、コンプライアンスが重視される中、リリーの持ち味がそがれてしまうことだ。先月、ABEMA初の冠番組『東京スケッチ』では、「留守中の女性宅に潜入する企画」が〝炎上〟し番組内容がリニューアルされることになった。

その一方で、同じようなお色気企画を行った『村上マヨネーズのツッコませて頂きます! 春の美女部屋一斉大捜索SP』(関西テレビ・2019年3月17日放送)では、リリーの暴走によって番組を盛り上げている。今後、慎重に役回りを意識しながら、リリーらしさを生かしていくことが求められそうだ。

ここ最近で関西の番組を次々と卒業し、今月10月から『ノブナカなんなん?』(テレビ朝日系)のレギュラーになるなど、さらに露出を増やした見取り図。満を持しての東京進出が吉と出るか。注目したい。

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