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AKB48の恋愛に切り込む テレ東「家、つい」企画Pが取った奇策
テレビ東京で『家、ついて行ってイイですか?』『空から日本をみてみよう』などといった映像コンテンツを手がけてきた高橋弘樹さん。今夏から、AKB48が出演する番組制作に携わっています。リアリティを追求した面白さにこだわってきた高橋さんにとって、「どこまでいってもフェイク」なアイドルたちの魅力をどう引き出すか。苦悩のなかから生まれた、ある挑戦についてつづりました。
最近、『都会の異界 東京23区の島に暮らす』という、「東京23区の島」に関する書籍を出した。大田区や江戸川区、北区に実はひっそりと佇む「東京23区の島」とそこにいる人々を取材し、キラキラした港区や、浅草寺のような観光地としての東京のイメージでなく、その周辺で生きる、「リアルな東京人の人生譚」を描こうと思ったノンフィクションだ。
だが一方、本業のテレビ作りの方では、それとは真逆の苦悩に直面していた。
テレビ東京で様々な番組をやってきたが、「アイドル番組」というものを、初めて本格的に担当することになった。
アイドルを使った番組は、どうしても気乗りしない、という思いもあった。
いろいろ理由はあったが、もっとも大きな理由は、アイドルという存在がどこまでいってもフェイクだからだ。
「アイドル」という言葉は、その名の通り「偶像」。バラエティやドキュメンタリーでどれだけ赤裸々な魅力を描こうとしても、彼女たちは最後の一線、どうしても「アイドル」という仮面をかぶらなければならない。
「リアリティを追求した面白さ」を描きたい、と思って『家、ついて行ってイイですか?』、『ジョージ・ポットマンの平成史』、『空から日本をみてみよう』などさまざまな番組を作ってきたが、どうもそうした自分の好みからは程遠い世界に思えたのだ。
だがひょんなことから、AKB48の番組に携わることになり、スタッフのみなさんとお話しするうちに、その方たちの、本気でメンバーの皆さんを愛し、どうにかもっと売れてほしい、という思いに触れて、心を少しだけ動かされ、やってみようと思ったのだ。
入社16年目にして、アイドルさんの番組はじめてなんで日々勉強して頑張っていこうと思います!皆さんのご意見も参考にしながら、AKB48の魅力とはなんなのか考え引き出していければと思っております!ぜひ一緒にAKB48の魅力、広めていただけると幸いです!引き続きよろしくお願いします! 演出 高橋
— 乃木坂に越されました〜AKB48、色々あってテレ東からの大逆襲!〜 (@akb48_tvtokyo) July 20, 2021
AKB48の見たことのない魅力を引き出すにはどうしたらいいか。
フェイクではなく、真の素顔を引き出すにはどうしたらいいか。
AKB48の番組『乃木坂に、越されました』を7月から演出し始め、彼女たちと関わって、しかし、やはりそれは極めて難しいと思った。やはり、それは当初からのイメージ通り、どこまでいっても発言や仕草の一挙手一投足に、アイドルという偶像を演じるということからくる、フェイクが付きまとうからだ。
とくに、こと「恋愛」という部分に関してはそうだ。AKB48、そして男性・女性に限らず、多くのアイドルは「恋愛」に関する部分をベールに包み込む。
それはアイドルという職業柄しようがないことだと思う。
AKB48のメンバーで、センターをつとめ、グループの中で1、2を争う小栗有以さんは「12歳でAKB48に入って、そこから19歳の今に至るまでずっとそうなので、恋愛経験はない」という。
また、福岡聖菜さんも「恋愛には興味がない。人といると気を使ってしまうので、私に恋愛は向いていない」と答えた。
この2人は極めてしっかりしている2人だと、事務所のマネージャーからも聞いていた。たとえば小栗さんは番組を収録していても、撮影に極めてストイックにのぞむ方なのだと思った。『根も葉もRumor』というハードなダンス曲の練習を撮影していた時、倒れこむメンバーもいる中、一切倒れ込まず、飄々と、凛とした姿勢のまま休憩する。高い美意識をもっているように思えた。
「寝られない夜は、翌日の仕事の事を考える。仕事のシミュレーションをあれこれし、それが成功している姿を思い浮かべ、眠りにつく」。そうも話していた。
福岡さんも番組で宿題を出すと、いち早く提出してくれる。そして、こちらが求めるレベルをけっこう超えた分量や完成度で、その思いに応えてくれる。
それは期待した分量の、軽く5倍程度のボリュームだったこともある。
なのでやはり恋愛をする暇などなかった。そう考えることに、無理はないかと思う。
だが、もしアイドルの魅力の一つに、疑似恋愛という要素があるとするならば、彼女たちが恋愛をした時に、「好きな人に見せる、本来なら一番かわいいであろう顔」を、演技でなくリアルに描くこと。これが、もっとも本質的なリアルな魅力を引き出す試みの一つなのではないか。そうも思った。
それを描くにはどうしたらいいか。
もちろん、恋愛はしていないということだ。
AKB48の湯本亜美さんは「やはりアイドルとしては、恋愛はダメだと思う。したいなら、アイドルをやめればいいだけの話。もし、それでも、アイドルと恋愛を両立したい、というなら、少なくとも絶対ばれてはダメ!!!」。以前、番組での収録で、視聴者からの問いかけに対しそう答えていた。
というか、アイドルではなくたってタレントが、演技ではなく「好きな人に見せる顔」を、リアルに見せることは、ほぼないだろう。
では、どうすればいいか。逆説的だが、フィクションを使うことが、一番リアルな魅力を引き出せるのではないかと思った。
フィクションの中で演じるのだが、その演じるストーリーを、本人が作る。
具体的には、『AKB48!妄想まんが部』という番組とイベントを企画し、恋愛マンガの原作作りに挑戦してもらうことにした。そして、それをプロの漫画家さんが作画し、本人がそれに対して、全力でアテレコする。
そして、妄想でいいので、「こんな恋愛したら、絶対キュンとする!」という設定をふんだんにいれてみてください、とAKB48の皆さんにお願いしてみた。
「乃木坂に、越されました」の面談で佐藤さんが「声優になりたい!!」と言っていたのを聞いて、この冠特番が生まれました!まだまだ続報ありますので、お楽しみに! pic.twitter.com/I0NQrjKtCV
— AKB48!妄想まんが部【公式アカウント】 (@AKB48_manga) August 14, 2021
小栗さんは「自分の中でのイメージや、過去にみたドラマなどでキュンとしたシーンなどから想像して、自分がキュン!とくるシーンをたくさん取り入れてみた。仕事や部活を頑張っている人にときめく。たとえば髪の毛の短い野球少年とか。そういう要素をちりばめた」。
野球部の先輩に恋をするが、ややストーカー的に距離をつめる、高校生の物語ができあがった。
福岡さんは、「偶然」という要素の魅力を最大限生かした、幼馴染の恋物語を描いた。「わたしが、こういうことあったらいいな!と普段思っていることを描いた」。実際に起こるには、なかなかハードルが高い偶然的な出会いであり、起こる確率は絶望的に低い天文学的な数字だろうが、その偶然を語る時の表情は明らかに「リアル」さをまとった表情だった。
事程左様に、14人のメンバーが、マンガ原作作りにチャレンジしたが、その作品の妄想爆発度は、こちらの予想を超えていた。
作品のそこかしこに、「自分得」な、時にはフェティシズムチックなまでの、こだわりが描かれている。「400mリレー大好き女子」(AKB48・大盛真歩さん)、「前世で毒殺されました」(AKB48・坂口渚沙さん)など……。そこには、たしかにアイドルとしての外見からは想像がつかなかった、しかし恋物語を書いてもらったら大体こんな感じの恋愛ストーリーになるのかな、というこちらの想像をもはるかに越えてきた、ぶっ飛んだストーリーが出来上がってきた。
9/5に『AKB48!妄想まんが部』というテレビ東京の配信イベントで、これらの自作マンガに、自分で思いっきりアテレコをするのだが、あとはそこで演出サイドが、彼女たちの本気の演技を引き出せるかどうかにかかっている。
ドキュメンタリーのように見えて、やはり本質的にはフィクションの要素が混じるアイドルという存在だからこそ、フィクションという世界観の中でクリエイティブな作業を媒介とする事で、リアルな魅力を引き出す。
そんな試みが、少しでも成功して、見る人に楽しんでもらえたらいいなと思う。
【AKB48!妄想まんが部】
部員は小栗有以、大盛真歩、髙橋彩音、鈴木くるみ、佐藤妃星、田北香世子、道枝咲、福岡聖菜、込山榛香、岩立沙穂、坂口渚沙、佐藤美波、武藤小麟、岡田梨奈
《公式twitter》
https://twitter.com/akb48_manga
高橋弘樹 映像コンテンツを作っています。企画・演出作品に『家、ついて行ってイイですか?』『ジョージ・ポットマンの平成史』『吉木りさに怒られたい』など。ドラマ『文豪の食彩』『蛭子さん殺人事件』などで脚本・演出。
文字も書きます。最新刊に佃島、妙見島、城南島など「東京23区にある島」に暮らす21人の人生譚をつづった『都会の異界 東京23区の島に暮らす』(産業編集センター)。『TVディレクターの演出術』(筑摩書房)、『1秒でつかむ』(ダイヤモンド社)、『敗者の読書術』(主婦の友社)など。
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