MENU CLOSE

話題

飲食店を〝脅した〟西村さん 「失敗」の矛先を憲法に向ける安倍さん

「なし崩し」と「場当たり」の犠牲になったロッキン中止

西村康稔経済再生相=2021年5月14日、国会内、池田良撮影
西村康稔経済再生相=2021年5月14日、国会内、池田良撮影 出典: 朝日新聞

目次

【金曜日の永田町(No.32) 2021.7.11】

新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからぬなか、菅義偉首相が4度目の緊急事態宣言を出すことになりました。要請に従わない飲食店の情報を金融機関に情報提供するという「脱法行為」まで打ち出されるなか、崩されようとしている市民の「基盤」とは--。朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

#金曜日の永田町
※クリックすると特集ページに移ります。

日本最大フェスの中止

7月7日、「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」の2年連続の中止が発表になりました。茨城県ひたちなか市の国営公園で8月に予定されていた国内最大級の野外音楽フェスです。

主催者は、公園を管理する国、県、市、地元関係者と話し合いを重ね、収容人数を例年の半数以下に絞り込み。「感染対策の本質は細部に宿る」として、1年以上かけて、ステージ前における参加者の距離や飲食エリアでの着席のルールなどを整えてきました。5月に千葉で開催したロックフェスも「クラスターが発生しなかった」と公表し、対策に手応えを感じていました。

しかし、7月2日になって、茨城県医師会が、さらなる入場制限措置や、今後の感染拡大状況に応じては開催の中止または延期を検討することを求めました。「観客の会場外での行動を含む感染防止対策に万全を期すること」といった要請まで含まれており、主催者側は、限られた時間で十分に対応する見通しが立たないと判断。やむなく中止を決断しました。

総合プロデューサーの渋谷陽一さんはコメントのなかで、「コロナ禍にあって医療関係の方の協力と理解は絶対に必要なものです。それを得る為には私たちは努力します」としたうえで、このように吐露しています。

「このタイミングに至っての『感染防止対策に万全を期すること』という包括的な要請に、何を以て万全とするのか、どのような新たな対策を提示すれば良いのか、残された時間の少なさを前に途方に暮れてしまいました」

【関連リンク】ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2021 開催中止のお知らせ (2021/07/07) 邦楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)
茨城県医師会がフェス主催者に出した要請書。7月5日にホームページに掲載したが、数時間後に削除。担当者は「主催者側からの中止の内示を受けて取り下げた。再掲載を検討している」という=同医師会提供
茨城県医師会がフェス主催者に出した要請書。7月5日にホームページに掲載したが、数時間後に削除。担当者は「主催者側からの中止の内示を受けて取り下げた。再掲載を検討している」という=同医師会提供

「エビデンスを持って対応していない」

政府のコロナ対策が後手に回り、東京五輪・パラリンピックの問題点が連日のように明るみに出るなか、懸命な努力を重ねている民間のイベントにまで様々な視線が注がれています。渋谷さんのコメントには、コロナ禍に苦しむ文化・芸術イベントの連鎖的な中止にならないような願いも込められていました。

「各地で夏フェスは開催されます。絶対に成功してほしいです。音楽を止めない、フェスを止めない、という思いは多くの音楽ファンが持つ共通の思いです。コロナ禍にあって障害はありますが、あの祝祭空間を私たちは守っていかなければなりません」

「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」の中止のショックは大きく、東京都に4回目の緊急事態宣言を出す国会報告が行われた7月8日の参院議院運営委員会でも取り上げられました。

自民党の山田太郎さんは、茨城県は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が出ておらず、「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」は中止になっても国の支援策すら受けられない状況にあることを指摘。8月に新潟で予定されている「フジロック」など、他のイベントも「補償金あるいは補助、支援もないままに中止になる可能性もある」と懸念を示した上で、次のように指摘しました。

「何でこんなことが起こるかというと、緊急事態宣言の発令とかまん延防止措置その他、方法とかが、新規感染者をもってするのか、重症者なのか、死亡者、あるいは病床の逼迫率なのか、それによっても現場の対応ってみんな違うと思いますが、非常によく分からない。イベント前のその感染拡大に対しても、やっぱりエビデンスを持って対応されているというふうには思えません」

一連のコロナ対策の基準のあいまいさを問題視したのです。山田さんは「今後開催が予定されているいろんなイベントに対しても大きな影響がある」として、「オリンピックを開催するのかしないのか、無観客でやるのかやらないのか。どのような基準でどうしてそういうふうにやるのか」を明確にするよう、政府に求めました。

しかし、政府の新型コロナ対策を担当する西村康稔・経済再生相は「東京大会に関する最終的な判断の権限はIOC(国際オリンピック委員会)にある」「観客数は(政府やIOCなどの)5者協議で決められる」という従来の政府答弁を繰り返しました。

東京五輪・パラリンピックに向けた5者協議に臨む(左から)東京都の小池百合子知事、大会組織委員会の橋本聖子会長、IOCのトーマス・バッハ会長、丸川珠代五輪相=2021年7月8日午後8時16分、東京都中央区、代表撮影
東京五輪・パラリンピックに向けた5者協議に臨む(左から)東京都の小池百合子知事、大会組織委員会の橋本聖子会長、IOCのトーマス・バッハ会長、丸川珠代五輪相=2021年7月8日午後8時16分、東京都中央区、代表撮影

「単なる脅し」

その日の夜、西村さんの発言が問題になりました。東京都に緊急事態宣言を出すことを政府が正式決定したことを受けた記者会見でのことです。

会見では「飲食店対策(更なる強化)について」と題した資料が配られました。資料には、「飲食店への見回り・働きかけ」「命令・罰則の厳正適用」「飲食店対策のための関係機関への依頼」の3本柱で、3番目の「関係機関への依頼」には次の三つの項目が書かれています。

7月8日の西村康稔・経済再生相の記者会見で配布された資料
7月8日の西村康稔・経済再生相の記者会見で配布された資料

「金融機関」などは目立つように赤字になっていました。西村さんは会見の冒頭発言のなかで、この資料に沿って、休業要請などに応じない飲食店に対して、「こうした情報を金融機関としっかり情報共有しながら、順守の働きかけを行っていく」と発言したのです。

「取引先の金融機関に知らせる狙いは何か?」

記者に問われた西村さんは「応じていただけない店舗の情報共有を関係省庁、金融機関とも共有して、金融機関からも応じていただけるように働きかけを行っていただくということで取り組みを進めたい」と説明。関係省庁から文書で要請をする方向を明らかにしました。

さらに「金融機関が店に対する融資の引き上げなど、資金面での圧力をかけてほしいと考えているのか?」と記者から問われましたが、西村さんは「(飲食店への休業要請などは)法律に基づく要請、あるいは命令でありますから、そういったことをしっかり遵守していただけるように、金融機関からも働きかけを行っていただきたいと考えている」と述べ、「圧力」という言葉を否定することすらしませんでした。

この西村さんの方針に対しては、野党が即座に反応。国民民主党代表の玉木雄一郎さんは自身のツイッターで、「飲食店に対して金融機関から締めつけさせるなんて悪手すぎる。法的根拠を欠いた措置だ。そもそも金融機関の優越的地位を行政が悪用するなんて筋が悪すぎる。安心して休める万全の補償を行うことが先だろう」と指摘しました。

立憲民主党国会対策委員長の安住淳さんは「金融機関に対し、言うことをきかない酒屋にお金を貸すな、みたいなことを政府側が言う権限は法律上どこにもない」「単なる脅し、締め付けだ。政権が感染対策に失敗したから、そのツケを酒屋や金融機関を通して払わせようとしている」と指摘。自民党の森山裕国対委員長に抗議した後、「強圧的な態度に出ることを考えているのなら、即刻辞任をした方がいい」と記者団に語りました。

野党だけではなく、専門家から「違憲」の疑いを指摘されるなど批判が高まるなか、政府は加藤勝信官房長官が7月9日午後の記者会見で「金融機関に対する協力はお願いしないことにした」と表明。わずか1日で政府方針の撤回をしました。

官邸に入る西村康稔経済再生担当相=上田幸一撮影
官邸に入る西村康稔経済再生担当相=上田幸一撮影 出典: 朝日新聞

抗議する基盤を失わせる緊急事態条項

新型コロナ対策は重要ですが、一方的に市民の生活などの権利が奪われることがないように、国民の代表が集まる国会で、明確なルールをつくり、政府などに守らせていくことは大切です。

しかし、最近、政府の方針は場当たり的で、国会で約束したこともなし崩しにする場面が目立ちます。

たとえば、緊急事態宣言に準ずる私権制限をかける「まん延防止等重点措置」について、西村さんは改正特別措置法を審議していた1月の国会で、「重点措置は、営業時間の変更の要請ができるにとどまり、いわゆる休業要請を行うことはできません」と答弁していました。しかし、4月下旬に突然、厚生労働省の告示を変えて、酒類とカラオケ提供の自粛要請を可能とし、その要請に踏み切ったのです。居酒屋やバーなどにとって、「事実上の休業要請」を意味する重い規制です。このときも国会で「告示で追加する形で重い私権制限をかけるのは法に逸脱する行為だ」(共産党の塩川鉄也衆院議員)といった批判が相次ぎました。

そして、コロナ対策がうまくいかない「失敗」の矛先を、憲法に向ける発言まで出ています。

「今回のようなパンデミックに対し、憲法に基づき、政府が非常事態のスイッチを入れれば、全ての法令が非常事態のルールに変わり、速やかに国民の生命や生活を守る手だてを講じることができたはずであり、現憲法にはその規定がないために、国民の命や生活に大きな犠牲を強いることになりました」

6月2日の参院憲法審査会。自民党議員が「今般の反省を基に、速やかに緊急事態条項の導入の議論を開始すべきだ」と訴えました。

緊急事態条項は、国会の関与なしに、内閣が国民の権利を一時的に制限できるようにするものです。菅さんも5月3日の憲法記念日、改憲派の集会に寄せたビデオメッセージのなかで「新型コロナ対応で緊急事態への備えに関心が高まっている」とし、「大地震等の緊急時に国民の命と安全を守るため、国家や国民がどのような役割を果たすか、憲法にどう位置づけるかは極めて重く、大切な課題だ」と語りました。官房長官の加藤さんも6月11日の記者会見で「新型コロナによる未曽有の事態を全国民が経験し、緊急事態の備えに対する関心が高まっている現状において、議論を提起し、進めることは絶好の契機」と述べています。

そして、安倍晋三前首相は6月18日に放送されたニッポン放送の番組で、「緊急事態では、まさに国民の生命安全を守るためには、私権の制限もあり得るということを、明確にすべきじゃないかと思います」と緊急事態条項の創設を主張。「私権を制限する上においては、(現行)憲法上は『公共の福祉に反するかどうか』ということをひきながら判断する。そうすると、どうしても政府の(内閣)法制局でもいろんな議論になります。党内でも与党内でも大きな議論になってしまう。『公共の福祉に反するかどうかで読めるのか』って」と発言。現行憲法の書きぶりが私権制限の支障になっているという認識を示しました。

しかし、憲法の規定は、金融機関への情報提供のように行き過ぎた政府の対策に「違法」「違憲」と抗議し、撤回を求めていく市民を支える基盤です。この基盤を崩し、政府に私権制限のフリーハンドを与えていくことでいいのか。次期総選挙に向けて問われる論点の一つだと思います。

深夜まで開店しているバー。政府は酒類販売業者に、要請に応じない飲食店との取引を停止するよう求める方針を示した=2021年7月9日午後5時47分、大阪市、新谷千布美撮影
深夜まで開店しているバー。政府は酒類販売業者に、要請に応じない飲食店との取引を停止するよう求める方針を示した=2021年7月9日午後5時47分、大阪市、新谷千布美撮影 出典: 朝日新聞
 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます