ネットの話題
全国の泊まれる文化財をマイマップに、公開して知った「厳しい現実」
客足途絶え「そこは3日前に閉店…」
全国の「泊まれる文化財」を個人的に地図に落とし込んだ投稿が、ツイートで話題になりました。コロナの時代、海外旅行はしにくくなった一方で、「Go To トラベル」でこれまで泊まることがなかった場所への目が向いているようです。投稿者に話を聞きました。
「『ホテルニューグランド』に訪れてから泊まれる文化財熱が高まってます。
なので、泊まれる登録有形文化財(建造物)をまとめ通称『ぬまっぷ』というのを作っているから完成したらURL公開するので褒めて欲しい。〉
そして翌日には「みなさま。完成しました」として、「Googleマップ」の地図上に自分の行きたいところを落とし込める「マイマップ」を公開しました。
「宿泊できる登録有形文化財(建造物)をマップにまとめました。全111棟で写真付き。
抜け漏れあれば教えていただけると嬉しいです( ´ ▽ ` )ノ」
この二つのツイートには、「すごい地図で妄想が膨らむ」「旅に出る楽しみが増えました!」「遠出できないから、ワクワクしながら見てる」「毎年、少しずつ泊まりに行きたい」などコメントが寄せられ、「いいね」が計2万6000以上つきました。
「ホテルニューグランド」に訪れてから泊まれる文化財熱が高まってます。
— ぬま (@megane_numa) October 21, 2020
なので、泊まれる登録有形文化財(建造物)をまとめ通称「ぬまっぷ」というのを作っているから完成したらURL公開するので褒めて欲しい。 pic.twitter.com/55M2Hyu7Qb
投稿したぬまさんは、東京在住の長沼茂希さんで、旅の総合メディア「TABIPPO」でカメラマンなどとして勤めています。
今回の「マイマップ」の公開は、仕事とは関係のない、「趣味」の範囲でやったことでした。
きっかけは、横浜市にある1927年開業の「ホテルニューグランド」に宿泊したことでした。ツイッターのタイムラインに流れてきた、重厚感のある建物の美しさに心を奪われました。「文化財に泊まれるのか」
「泊まりに行ってみようかな」。ふと思いつき、予約が取れた10月8日木曜日、午後2時ごろに、会社を後にして、ホテルにチェックイン。美しいロビーで、パソコンを開き、残った仕事をしたそうです。
小雨が降るホテルは、とても静かで、独特な空気感に包まれていました。
濡れた路面にライトアップされた外観が映えました。「まるでヨーロッパにいるみたい」
ホテルに掲げられていた案内を見ると「マッカーサー元帥やチャーリー・チャップリンもお迎えした」とありました。
ホテルのスタッフに尋ねて、ほかの客の邪魔にならないよう、自分の記録用で写真を撮らせてもらいました。スタッフはホテルや町の歴史も教えてくれました。「古い建物は、町に根付いているんだと感じました」
ホテルを出て、深夜や早朝の町を散歩しました。何度も横浜には遊びに来ていましたが、宿泊しているからこそ出かけられる時間帯では、見慣れたみなとみらいや中華街の風景が違って見えました。
文化財の宿泊を満喫した長沼さんでしたが、コロナ禍前だったら「泊まる選択肢に入るホテルではなかったと思う」といいます。前は海外旅行が好きで、国内でも星空や朝日を撮るために車中泊、という旅がメインでした。
東京から宿泊せずとも遊びに行ける横浜。一泊数万円という宿泊費も「友人は誘いづらいし、1人で泊まるには手が出しづらい」。
そんな中、今回、気軽に宿泊できたのは「Go Toキャンペーンで割安だったことが大きかった」と言います。
文化財に泊まる魅力について、長沼さんは「立ち寄るだけでは過ごせない長い時間の中で、刻々と変わる町や、建物の雰囲気を味わえること。空気も景色も『独占』しているような気持ちになれることですね」と話します。
ほかの泊まれる文化財を探したところ、「けっこうあるな」。
一覧できる地図は、「地方ごとに分かれたものや、古いものはあったのですが、最新の全国のマップが意外と見つからなくて。自分でマイマップにピンを落としていきました」。
いつか自分が泊まるための「メモ」のつもりでした。ところが、公開すると、表示回数は8万回を超えました。
「こんなに反響があると思わなくて、マイマップに『ぬまっぷ』なんて適当な名前をつけてしまって、後悔しています」と苦笑します。
公開当初、ぬまっぷに記されたのは「111棟」でした。でも、公開直後から「ここも登録してください」と、見た人や宿泊施設から情報提供があり、長沼さんが一つ一つ反映しているうちに、約140棟になりました。
マップに落とし込む中で、痛感したことがあります。
歴史的な価値が高くても、客足が途絶えて存続が危うくなっている場所、休業に追い込まれているところがありました。公開直後には「そこは3日前に閉店されました。残念です」と指摘された施設もありました。コロナ禍の影響はじわじわと「歴史」も奪っているようです。
「まずは自分の足元にある国内から、少しでも多くの文化財に泊まりに行って、写真に残したいです。なくなっちゃうのは、さみしいので」
いま泊まりに行きたいホテルは、「NIPPONIA HOTEL 串本 熊野海道」(和歌山県串本町)、「川奈ホテル」(静岡県伊東市)、「能登屋旅館」(山形県尾花沢市)だといいます。「写真に映えそうな建物だったから」
趣味のマップがここまで注目を集めたことには驚愕しましたが、こう話してくれました。
「僕も、観光業に関わっているので、少しでも盛り上げられたら幸いです。これからも細々と、更新をしていきたいと思います」
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