連載
#44 夜廻り猫
味方のいなかった僕、褒め続けてくれたおばさん 夜廻り猫が描く感謝
「ここでいつも絵の具を買わせてもらってました」。そう言って街の商店を訪ねてきた青年。図工の成績はよくなかったけど、店主のおばさんはいつも――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが「感謝」を描きました。
街角の小さな商店の前をそうじするおばさん。「あの…僕、昔そこの小学校に通ってて…」と青年が声をかけます。
「いつも絵の具を買わせてもらってました 絵が好きだったけど、図工の成績は悪くて、いじめられっ子で味方もいなくて」
自分の絵を手に通学路をとぼとぼ歩いていると、いつもおばさんが「まぁ上手! きれいね~小学生でこんなに描ける子いないわよ」と褒めてくれました。
「絵を続けて専門学校に行って 今度アニメの会社に就職できました」
そう言ってにっこり笑う青年。おばさんは「――!!よしや君ね!?」と青年のことを思い出し、笑顔で抱きつきます。
夜周り帰りの猫の遠藤平蔵と重郎は、ふたりをそっと見守りながらほほえむのでした。
作者の深谷さんは「新型コロナウイルスの影響で、学校の式典も中止が相次いでいます。日々の〝節目〟や人生を大事にするってどういうことだろう?と商店街を歩きながら考えました」と言います。
「大事に出来ることも、出来ないこともありますが……。『あのときは誰かと笑ったな』『あの時、目を合わせたな』という思い出があったら幸福なんじゃないかと思いました」
先が見えず、不安な思いでいっぱいになることも多い日々です。深谷さんは「つらいこともありますが……誰かと笑顔になれる春を、引っ張り寄せたいものです」と話しています。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞。単行本6巻(講談社)が2019年11月22日に発売された。
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