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オリンピックの会場、最先端だけじゃない まさかここに…クマ注意!

公園内の看板
公園内の看板

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オリンピックの会場といえば、最先端の設備がそろう都心の会場をイメージする人が多いと思います。ですが、私の赴任している福島の会場は一味違います。2020年の東京オリンピックで野球やソフトボールが開かれる会場の近くにはクマが出ているのです。それも複数回。詳しく知りたくなって、現場のパトロールに同行すると、観戦客にとっては思わぬ危険があることが明らかになりました。(朝日新聞福島総局・飯島啓史)

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【関連記事】野球・ソフト五輪会場の県営あづま球場でクマ厳戒(朝日新聞デジタル)
 

多数の目撃情報

福島市の中心部から約10キロ、田んぼや雑木林に囲まれた公園内に県営あづま球場はあります。公園は東京ドーム約21個分という広大さ。球場だけでなく、陸上競技場や体育館、ピクニックができる広場もあります。オリンピックの開会式の2日前にあたる来年7月22日、全競技のトップを切ってソフトボールの開幕戦がこの球場で開かれる予定です。

そんな球場近くで今年5月、クマの目撃情報が複数ありました。

私の中で「東京2020」といえば、近代的な都市にある会場で、最新鋭の設備を駆使して開かれるというイメージでした。その会場の近くに、野生動物が、しかもクマが生息しているなんて…。北海道出身者(札幌の端っこの真駒内)の私自身、地元でクマが人里に下りてきたときには、先生に付き添われて集団下校していた記憶があります。クマが出たというあづま球場、どんな様子なのでしょうか。

公園ではクマが出没するたびに対策として、管理事務所の職員が朝夕の2回、パトロールします。5月30日、記者も車で同行させてもらいました。

あづま球場の地図
あづま球場の地図

パトロールに同行

午前9時、施設管理課の高橋政人さん(40)ら2人が車に乗り込み、ゆっくりと巡回し始めました。すれ違う来園者には「こんにちは」と声をかけながら、球場やテニスコートのそばを通り過ぎます。舗装された道から徐々に外れ、雑木林の中へ。

「川に近づいてきた。このあたりは出そうです」。高橋さんは車から降り、フンが落ちていないか草むらを注意深く見ます。道の脇には、「熊出没注意!」と書かれた看板があります。

「この辺がいいかな」。高橋さんは草木が踏みつけられた獣道を見つけました。

ポケットから取り出した爆竹に火を付け、道に放り投げます。「パン、パン」という乾いた破裂音が空気中に響き、煙と火薬のにおいが広がります。「クマも人や銃が怖いので、音で驚き、煙やにおいで近寄らなくなるんです」と高橋さん。この日は計1時間ほどのパトロールで、計3カ所で爆竹を鳴らしました。

五輪の会場となる県営あづま球場=2019年6月7日、福島市佐原、飯島啓史撮影
五輪の会場となる県営あづま球場=2019年6月7日、福島市佐原、飯島啓史撮影

「クマが先住民」

「そもそもクマが先住民。そこに公園を作ったのだから、出るのは当たり前かもしれません」。パトロール中の高橋さんの言葉が印象的でした。

パトロールはクマの出没後、1週間続けます。また、公園内にある屋外のスピーカーでBGMを流してクマに人の存在をアピールしたり、1時間ごとに園内放送で来園者に注意喚起したりといった対策もしています。

福島県によると、公園の周辺でのクマの出没情報は、昨年度までの3年間で48件あり、今年度もすでに5件ありました。

3年前には、古民家を展示する公園内の敷地にクマが侵入。芝居小屋の外壁を引っかき、障子を破りました。対抗するため、敷地をぐるりと囲むフェンスを設置しました。見学者にはクマよけの鈴の貸し出し、受付にはアメリカ製の撃退スプレーも常備しています。

公園内を巡回し、爆竹を鳴らしてクマを警戒する管理事務所の高橋政人さん=2019年5月30日、福島市佐原、飯島啓史撮影
公園内を巡回し、爆竹を鳴らしてクマを警戒する管理事務所の高橋政人さん=2019年5月30日、福島市佐原、飯島啓史撮影

職員は見た!

今回一緒に回った高橋さんも、実はクマを目撃しています。夕方、自宅へ帰ろうと公園脇のある橋を渡ったところで、思わず車を止めました。50メートルほど離れた河川敷の草むらから、体長1メートルほどのクマが頭を出していました。周りを物色するようにのっそりと歩いていましたが、目が合うと急に動きを止め、あっという間に走り去りました。球場から、東へ約900メートルしか離れていない場所でした。

「毎年この時期はクマが出るけれど、自分で見たのは初めて。すごい速さでダッシュしてびっくりした」と振り返ります。

公園の利用者にも聞いてみました。プールを毎週使うというパートの50代女性は「繁殖期の6月は子連れのクマがいるので、出くわしたら危ないかも」と話しますが、普段は特に意識しないそうです。

県警によると、県内でのクマの出没は昨年だけで514件。データが残っている中で最多です。今年もほぼ同じペースだそうで、5月には福島市から西30キロほどの北塩原村で旅行客が襲われ、あごを骨折。6月にも会津若松市でアメリカ人の観光客がかまれ、けがをしました。

県のオリンピックの担当者は「多くの人がいる場所には出てこない。また、球場のまわりにはフェンスも設置される」と安全性を強調します。また、地元にとって、クマの出没は日常の一部でもあり、県警も通常の注意喚起のほかは、オリンピックのためだけの対策は考えていないそうです。

5月にクマが出没した球場近くの河川敷。体長1メートルほどのクマが橋の下を歩いていたという=2019年6月7日、福島市佐原、飯島啓史撮影
5月にクマが出没した球場近くの河川敷。体長1メートルほどのクマが橋の下を歩いていたという=2019年6月7日、福島市佐原、飯島啓史撮影

広島の研究所に聞いた

ただ、東北地方の野生動物を長く研究してきた、日本ツキノワグマ研究所(広島県廿日市市)の米田一彦理事長(71)の見方は少し異なります。「地元の人は慣れていても、クマの知識が全くない地域の人も来て、思いがけない事故に遭うかもしれない。『周辺がクマの生息地だ』と看板やパンフレットなどでいま以上に注意喚起する必要がある」と指摘します。実は、野生動物の宝庫であるアフリカには、実はクマが生息していないそうです。現在のレベルの注意喚起では、そういった観光客に危険が十分に伝わらず、警戒せずに公園周辺の河川敷などを散策してしまい、事故に遭うかもしれない、と米田さんは危惧します。

私自身、5月に神戸市から福島市に赴任してきて、福島にクマが出ることも、五輪会場近くが生息地であることも全く知りませんでした。オリンピックの開催は、世界中の人たちが福島に来て、東日本大震災からの復興とまだ道半ばの状況を知る良いきっかけになると思います。そんな機会だからこそ、想定外の事故がないように更なる対策の必要性を感じました。

日本ツキノワグマ研究所の米田一彦理事長=2016年、秋田県鹿角市
日本ツキノワグマ研究所の米田一彦理事長=2016年、秋田県鹿角市 出典: 朝日新聞

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