連載
#106 #withyou ~きみとともに~
中学生路上シンガー「いじめ経験バネに」 前向きな歌詞に隠れた本心
ストリートライブが多く開催されている大阪の「城天」で、ライブを続ける中学1年生がいます。小学生の時にテレビの歌番組で披露した歌声が話題になり、いまも路上に立つと多くの人が足を止めます。作詞作曲も手がける彼はいま、自らのつらい経験をもとにした楽曲を通して、悩みを抱える人に思いを訴えています。
橋詰昌慧(はしづめ・まさと)君は、大阪・高槻市に住む13歳で、4歳から音楽を続けています。テレビ番組でも歌を披露し、話題になりました。
そんな橋詰君はいま、悩みを抱える人に向けた楽曲作りに取り組んでいます。
たとえば、2017年の12月に作詞作曲した「Future is Beautiful」の冒頭。「死なないで」というストレートな歌詞で引きつけます。
「同世代の子がいじめで自殺したというニュースを見て、作った曲です。自分も嫌がらせを受けたことがある体験から他人事ではないと思いました」。橋詰君は、ぽつりぽつりと語り出してくれました。
橋詰君によると、テレビの歌番組で歌を披露した頃から、学校でいじめを受けることがあったといいます。SNSで中傷されたり、持ち物を壊されたり、――。
「自分に言い聞かせているというのもありますが、『Future is Beautiful』の歌詞は、今は苦しいこともあるけど、将来きっといい出会いがあるという思いを込めています」
橋詰君は、これまで11曲ほどの曲を作っていますが、「自分の身の回りに起きていることをテーマにしていることが多い」といいます。
「Pastel Pepper Magic」もそのうちのひとつです。
嫌がらせに耐えかね、学校を休んだとき、橋詰君と仲の良い友人から自宅に一本の電話が入ったといいます。電話をとったのはお母さん。
橋詰君がいまは電話に出られないことを伝えると、友人はこう訴えてきたと言います。
「お母さんに言いたいことがある」
「(橋詰君に)つらいことがあるのを知ってる。私はまさとの事信じてるし、負けんといてと伝えてほしい」
そしてこう続けたといいます。
「私たちが守るから、学校に来させてください」
「Pastel Pepper Magic」では、そのときの心情を歌っています。
「その子たちがいるからまだ自分は大丈夫なんですよ」と橋詰君。「少しでもそういう友達がいれば、だいぶ気持ちが変わります」と話します。
橋詰君は、幼い頃から両親から「いじめられることは恥ずかしいことじゃないしなにかあったら言いや」と聞かされてきたといいます。学校の先生にいじめの被害を訴えたこともあり、「よう我慢したな」と声をかけてもらい、力になってもらったことが「助けになった」(橋詰君)といいます。
「先生や親に相談すると、余計迷惑をかけちゃうという気持ちもよくわかる。周りに頼ることができなかったときは、『(嫌がらせを受けていることを)言っても結局何も変わらない』と思っていた」と橋詰君。
ただ、両親や教師に相談をしたときに、共感してもらえたことで「一度相談して大丈夫だとわかると、2回目以降も安心して相談することができる」といいます。
「つらいことがあったときは自分だけで悩まず、両親や学校の先生、もしくは専門の相談機関で是非相談してほしい」と橋詰君は強く訴えています。
頼れる人が周りにいることに加え、橋詰君を支えているのが音楽です。「嫌がらせを受けてもこれをバネにして歌詞にしたらいい」という思いがあるといいます。
一方で、そんな自分を客観視し、「かっこつけて言ってますけど、嫌がらせをうけることはもちろん悲しい。でも、自分の音楽を聴いて共感してくれる人がいることが励みになっている」。
実際、Youtubeで公開した動画のコメント欄に「死のうと思っていたけど勇気をもらえた」という内容のコメントがつくこともあります。
「思いが届いたと実感できる。共感してもらうことで、自分の気持ちが晴れるという面もあります」
「人の心を楽にするために音楽を続けたい」と話す橋詰君。「悲しいことがあったときに『乗り切ろう』というメッセージではなく、『とりあえず生きよう』というメッセージ発信していきたい」と話します。
◇ ◇
橋詰君は、NPO法人国際ビフレンダーズ大阪自殺防止センターが3月17日に開催するチャリティーコンサートに出演する予定です。大阪女学院へールチャペル(大阪市中央区)で午後2時開演。入場料3500円。問い合わせは大阪自殺防止センター(06・6260・2155)へ。
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