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2017年12月31日

一発屋になると増える『家ロケ』 髭男爵「出番」に飢え身を削る日々

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カメラの前でおどける髭男爵の山田ルイ53世さん。“一発屋”になって『家ロケ』の仕事が増えたという

カメラの前でおどける髭男爵の山田ルイ53世さん。“一発屋”になって『家ロケ』の仕事が増えたという

 “一発屋”になると、むしろ増える『家ロケ』。引き受ける人間があまり多くないため、仕事を拾えることも。「あのー……もうちょっと汚く出来ます!?」。世間のイメージに合わせようと無茶なリクエストを受けても、一人孤独に「自撮り」に邁進し身を削る。“一発屋”芸人、髭男爵・山田ルイ53世さんの『家ロケ』事情をつづってもらいました。


自尊心に突き立った白羽の矢

Q:「2015年8月に、七転び八起きな人生を記した『ヒキコモリ漂流記』を出版した山田ルイ53世。彼がひぐち君と組む“ルネッサーンス!”のフレーズで知られるお笑いコンビの名前は?」

今より数年前の『パネルクイズ アタック25』における一幕である。

「髭男爵!」

回答者が叫ぶと同時に、我々コンビの宣材写真がテレビ画面の隅に、“ポンッ!”と映し出され、“ピポピポピポーン”……電子音が鳴り響いた。
見事、正解である。

長寿クイズ番組の題材に抜擢されたのは光栄なこと。
そもそも、件の番組は基本的に素人参加型番組。
僕如き一発屋が“出演”するには、“出題”されるくらいしか道はない。
有難いが、その反面、『“髭男爵”に関する人々の記憶が、回答者を試すのに丁度いい塩梅に風化した』との番組側の判断に、些か複雑な心境にもなる。
折角の白羽の矢も、突き立ったのは僕の自尊心といったところか。

とかく、メンタルを試される場面が多い我々“一発屋”。
仕事が減ると“一発屋”になるのか、“一発屋”だから仕事が無くなるのか。
さながら『卵が先か鶏が先か』……不毛な“チキンレース”の行方はさて置き、僕の経験上、“一発屋”と化すと、幾つかのカテゴリーの仕事はむしろ増える傾向にある。

山口市のイベントで出現した「アタック25」の体験コーナー=2015年10月10日

山口市のイベントで出現した「アタック25」の体験コーナー=2015年10月10日

出典: 朝日新聞

私生活を公開する『家ロケ』

俗に言う、『家ロケ』もその一つ。
文字通り、タレントの自宅で撮影や収録を行い、私生活を公開するロケ企画だが、一口に『家ロケ』と言っても色々である。

「うわー!こんな広くて綺麗な家に住んでるんだー!」
「えー、ソファーやベッドが○○○万円もするのー?」
大スターや大御所、会社社長などの豪邸を拝見し、その暮らし振りに視聴者が溜息を吐く定番のお宅拝見企画や、その年にブレイクした旬の若手芸人が、
「襤褸アパートから、家賃云十万円のマンションに引っ越しました!」
と自身のプチサクセスをお披露目するもの。
人気読者モデルが、
「私の大切な家族の○○ちゃんでーす!」
溺愛するペットと寛ぐプライベートを紹介すれば、コレクションで埋め尽くされた自室を公開し、“○○マニア”という意外な趣味を、新規の仕事へ繋げる兵(つわもの)もいる。

中には、
「掃除や整理整頓が苦手で……」
と“ゴミ屋敷”顔負けの汚い部屋を世間に晒す“売れっ子”も。
一見、イメージダウンに思える“汚部屋”も、バラエティー番組出演時には強力なキャラ。
更に、人間味溢れる隙を見せることで、お茶の間の親しみも増しと、良い事尽くしである。
勿論、この好感度の錬金術も、彼らが“売れっ子”だからこそ為せる技。
パッとせぬ無名のタレントであれば、
「ダラしないなー……だから売れないのでは?」
と一蹴されるだけである。
いずれにせよ、未だ『家ロケ』が芸能人の私生活を覗き見る“小窓”の役割を果たし、人々に何かしら夢のようなものを与えているのは間違いない。

中国に現れた160億円の大豪邸

中国に現れた160億円の大豪邸

出典: 「北京サザビーズ・インターナショナル・リアルティ」提供

「あれ、この部屋なんか見たことあるなー……」

しかし、問題もある。
テレビを眺めていると、
「あれ、この部屋なんか見たことあるなー……」
企画や番組は違うのに、同じ人のお宅を二度、三度とお見掛けすることが。
実は、『家ロケ』を引き受ける芸能人はさほど多くはない。
いや、むしろ少ない。
当然である。
普段暮らしている空間、プライベート最後の砦を自ら進んで公開する奇特な人間などそうはいない。
“家バレ”の危険も付き纏う。
「何かあの部屋、カメラ機材とか持った人が良く出入りするねー……」
『家ロケ』をやり過ぎ近所に訝しがられ、引っ越しを余儀なくされた芸能人も実在するという。
そもそも、私生活を切り売りし、世間に晒すリスクなど背負わずとも、テレビ出演の機会が存分にある“売れっ子”達には、『家ロケ』の旨味などほとんどない。
スターの私生活は謎めいていてなんぼ。
家賃や間取りまで詳らかになっている人間など、およそ一流とは言い難い。

そこで“一発屋”の出番。
元々、最高・最低月収、果ては通帳の中身までネタにし、身を削り過ぎて白骨化しているタレント。
テレビ露出に飢えた骸骨、もとい、“一発屋”にとって、『家ロケ』が孕む煩わしさなど屁の河童……躊躇はない。
“溺れる者は藁をも掴む”と揶揄されるかもしれぬが、厳密には藁とて浮力はゼロではない。
掴むのが身軽な骸骨なら多少は浮くのである。
かくいう僕も、“一度売れた”後、徐々に仕事が減って行く過程で、空白が目立ち始めたスケジュールを埋めるべく、盲目的に『家ロケ』のオファーを受け続けた。
最盛期には、週に二つも三つも違う番組のロケ隊が出入りし、我が家はまるで“モデルルームの内覧会”のような状況になったものである。

先述の通り、『家ロケ』は芸能人の私生活を覗き見る小窓。
人々に夢を与えるが、我々“一発屋”の場合、見せるのは主に“悪夢”である。
『自宅で暇を持て余す“一発屋”の日常』といった、一度売れて、今売れていない……その“落差”を粒立てた、ドキュメント感溢れるVTRでお茶の間のご機嫌を窺う。
その暇さゆえに、長期に渡るダイエット企画などに携わることも多い。
要するに、そこまで差し出さねば我々がテレビに露出する口実など見当たらないため、結果、『家ロケ』が増えるという図式。
“出番”……などと息巻いてみたが、別に“売れっ子”の分の仕事が、“一発屋”の元へ流れるわけではない。
いわば、自宅を担保につなぎ融資……当面の露出を借り受ける様なものである。
ヒエラルキー、格の低いものほど、身を削らねばならないのは芸能界の基本。
文句など無い。

ハロウィンの日、鼓笛隊と歩く髭男爵の山田ルイ53世さんと相方のひぐち君

ハロウィンの日、鼓笛隊と歩く髭男爵の山田ルイ53世さんと相方のひぐち君

出典: サンミュージック

(“一発屋”なのに、随分いい部屋に住んでるんですねーー!?)

とにかく、一度引き受けると、
「○○は『家ロケ』大丈夫らしいよ!?」
との認識が界隈で共有されるのか、自宅の撮影が前提のオファーが増える。
『嫁・子供の顔出し(テレビ露出OKの意)可』というオプションを付ければ、それは更に。
晴れて、『家ロケ』オッケーのブラックリストに名を連ねること叶うわけだ。
いや、テレビに出たい一心で、涎を垂らし自ら承知したこと。
“ブラックリスト”とは全くおかしな物言い……理不尽なクレーマー発言に他ならぬ。
重々承知の上だが、“一発屋”にとって『家ロケ』は禁断の麻薬。
一度手を染めるとなかなか止めるのが難しい上に、相応の苦み、代償を伴うのである。

2年ほど前。
(ピンポーン♪)
チャイムの音に、玄関のドアを開け、
「いやー、わざわざ来て頂いてすいません!」
愛想良く出迎えれば、
「へー……いい部屋じゃないですかー!?」
との第一声。
まるで、
「“一発屋”なのに、随分いい部屋に住んでるんですねーー!?」
とでも言いたげな口振りの男。
今回の『家ロケ』のディレクター、その人である。

無言で部屋を見渡し観察する様子には、何処か値踏みするような雰囲気が色濃く漂う。
我が家は只の借家。
ごく普通の賃貸物件だが、彼のイメージする惨めな“一発屋像”には物足りぬ、否、足り過ぎているのか、
「家賃って、いくらなんですかー?」
不躾極まるディレクタ―の問いに、
「いや、まあ大体○○万円位ですけどー……」
と反射的に答えると、彼の背後に控えたADの若い女性が、
「エー、スゴーイ!」
と“Siri”程度には人間味を感じさせるトーンで感嘆の声を上げた。

Siriについて説明するアップルのティム・クックCEO=ロイター

Siriについて説明するアップルのティム・クックCEO=ロイター

二人の訪問は、今日より一週間に及ぶダイエット企画の撮影のため。
僕が“一度売れた”時期の『家ロケ』には、
(何かの反対運動の集会でもやっているのか?)
と思うほど、靴が玄関に溢れたものだが、現在は“一発屋”。
肩書きの偉い関係者から順に現場、即ち我が家にはお越し頂けなくなり、今やこの有様……いや、静かで良い。
そもそも、人員など必要ないのだ。
撮影と言っても、
「痩せて、再ブレイクします!」
「娘の為にも長生きしたい!痩せます!!」
こじつけの意気込みを収録し、定点カメラの設置をするくらい。
後は、大量のテープと機材一式を残して立ち去り、大抵の場合、最終日まで顔を合わせることはない……基本、全て僕が自分で撮影する。

「いや、丸投げやん!」
驚かれる方もいるだろうが、それだけ僕の責任感、プロ意識を高く買ってくれている証……だろう。
何の音沙汰もない中、一人孤独に自撮りしていると、
(……これ本当に仕事だよな?)
(もし俺が怠けて撮影しなかったら、VTRどうなるの……)
と不安に襲われ正気を保つのにも一苦労。
何より、恥かしい。

夫婦揃って芸能人、家族全員顔出しオッケーといった、半ば劇団と化したファミリーなら自宅は常設劇場のようなもの。
仕事モードで喚きはしゃぐのに、何の躊躇もなかろうが、我が家の事情は異なる。
娘が成長してきたこともあり、妻子の露出は勘弁願っているので、カメラに映らぬよう外出時を狙って撮影したり、それが叶わぬ時はしばらく隣室に籠って頂いたりと何かと面倒である。
それとて、声は筒抜け。
「ルネッサーンス!さっ、今から○○健康法に挑戦するんかーい!!」
……気まずいのだ。

色々なことが起こる『家ロケ』。芸人自ら撮影することだってある

色々なことが起こる『家ロケ』。芸人自ら撮影することだってある

出典: https://pixta.jp/

スタッフが来るのに備え、朝から掃除に精を出していた妻

話を戻そう。
「大体、○○万円です……」
家賃を告げた僕に、
「へー……大丈夫なんスか!?」
と件のディレクター。
確かに玄関で靴を脱いだのはこの目で確認したが、心には土足でお邪魔するのが彼の流儀らしい。
その質問に敢えて答えるとすれば、『NO!』……勿論、大丈夫ではない。
支払い能力ではなく、僕の自尊心の方だが。
ディレクタ―氏には、分不相応な暮らしと思えたのかもしれぬが、僕とて自分の稼ぎで家賃を払い、真っ当に妻子を養っている。
『住みたい家に住む』……住宅販売の会社のCM然としたフレーズを頭に浮かべていると、
「いやー、綺麗にしてるじゃないですかー!?」
おそらく僕より年下であろう彼から、お褒めの言葉を頂く。
尽きることを知らぬ不躾の弾丸で蜂の巣にされる夫の姿は、傍らの妻の目にも焼き付いたに違いない。
しかも、今回は、何やら咎めるようなニュアンスを含んでいる。
「ちょっと綺麗過ぎるなー……」
誰に言うでもなく、呟き始めたディレクター。
嫌な予感がした。

案の定、
「あのー……もうちょっと汚く出来ます!?」
もはや、世界の“クロサワ”。
かつて、撮影に邪魔な山や建物を、
「今すぐ、動かせ!」
と命じた日本映画の巨匠さながらの無茶振りである。
(何やねんコイツ……)
心の中で毒づきながらも、娘の玩具箱を引っ繰り返し、妻が畳んだ洗濯物をバラ撒く僕。
物盗りの犯行に見せかけるため、偽装工作を施す殺人犯と何も変わらない。

マイクを手に指示を出す黒沢明監督=1992年2月24日

マイクを手に指示を出す黒沢明監督=1992年2月24日

出典: 朝日新聞

いやいや、小さな子供がいる家である。
実際、汚く散かった日もある。
言ってみれば、“原状回復”……嘘ではないが、僕は良心の呵責を感じていた。

“偽装”の件ではない。
スタッフが来るのに備え、家庭訪問の日の母親よろしく、朝から掃除に精を出す妻の姿を目撃していたからである。
「いや、そんなことしなくていいから……」
何度言い聞かせても、どこ吹く風。
『家ロケ』の際、彼女は必ず張り切る。
時には、掃除だけに止まらず、お茶菓子や飲み物を訪れる関係者の人数分用意し、夏場などは汗拭きシートやアイスクリームまで買い揃える念の入れよう。
流石にやり過ぎだが、暑い盛りなどはスタッフ、特にADの若者などは汗だくで、意外と喜ばれたりもする。
(そんなことしても、『家ロケ』で再ブレイクとかないのに……)
口には出さぬが、出したところで結果は同じ。
“一発屋”と呼ばれる彼女の夫、つまり僕の立場を慮っての行動だろう。
ただただ、不憫である。

『家ロケ』の撮影に備えた掃除も…

『家ロケ』の撮影に備えた掃除も…

出典:https://pixta.jp/

スタッフ二人だけの『家ロケ』

最終日。
機材諸々を撤収しスタッフは帰って行く。
不躾ディレクターが、
「ゴミとか大丈夫です?床とか壁とか傷ついてません?」
と僕に尋ねる。
正直、何かの袋や紙切れ、ガムテープといったゴミ、撤収時にAD女史がドアや壁に機材をドンドンぶつけていた……等々、『家ロケ』由来の気になる点は幾つかあったが、
(あー、この人もちゃんとしたとこあるんやなー)
気遣いの言葉に彼を見直した僕は、
「あー、大丈夫です!コッチでやっときますんで!!」
と満面の笑みで返す。
すると、
「あっ、そうですか。あざーす!」
……残念。
一回のラリーも成立せず。
『いや、それは悪いですよ!』、『いやいや、大丈夫です!』、『いやいやいや、そういうわけには……』。
かつては発生した、恐縮を通り越し煩わしく感じるほどの押し問答が懐かしい。
いずれにせよ、此方の遠慮は見事サービスエースとなりゲームセット……負けたのは勿論僕である。

12月25日に撮影されたのは…とっておきの『家ロケ』でした

12月25日に撮影されたのは…とっておきの『家ロケ』でした

出典: サンミュージック

2017年12月25日。
我が家で行われたとある撮影。
スタッフは、やはり二人だけ……妻と僕である。
「メリークリスマース!」
今朝目が覚めると枕元にあったという、“リカちゃん人形”片手に上機嫌の娘が出演者。
彼女曰く、“サンタ”なる人物からの贈り物だそうな。
「ちょっと!ちゃんと撮ってよ!!」
ディレクター、もとい、妻の指示通り、娘の表情やテーブルに並んだ御馳走をカメラに収めるのが僕の役目である。
些か面倒だが、当分、僕にとっての『家ロケ』はこれで十分。
一般社会も芸能界も同じ……家に仕事を持ち込むとろくなことはない。


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