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IT・科学

21年ぶり「新作ファミコンソフト」作った男 こだわりのカセット型

自作ソフトを、仕事部屋でプレーするRIKIさん
自作ソフトを、仕事部屋でプレーするRIKIさん

目次

 「5年間、仕事以外のすべてをゲーム作りに注いできました」。そう語る男性が、21年ぶりとなるファミコン向け「新作ソフト」を作り上げました。ファミコンの性能を限界まで駆使した音楽と映像が話題を呼び、5000本以上を完売。9月末には次作のアクションゲームの発売が決まっています。レトロなファミコンカセットに詰め込んだ、その技術を取材しました。

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部屋にファミコン20台

 入るとそこは「ファミコンの部屋」でした。

 新作ソフトを作った、埼玉県在住のRIKI(りき)さんは、2誌で連載を持つ漫画家です。趣味で集めたファミコンは新旧モデル計20台。ゲームのプレー用、画面の録画用、さらにゲーム音楽再生用などに使い分けていて、部屋のあちこちにディスプレーにつながれたファミコンがあります。

「3分だけ、聞いていただいていいですか」とRIKIさん。

 棚には、特殊な基板を組み込み「悪魔城伝説」や「ラグランジュポイント」など合計9本ものソフトをさしたファミコン2台が並んでいます。見慣れない光景に驚いていると、接続されたスピーカーから、激しいロック調にアレンジされた「ドラゴンクエストⅡ」のフィールド曲「遙かなる旅路」が流れ始めました。

 9本のソフトの内蔵音源をフル活用して、ファミコン単体では不可能な重厚な音色を作り出しています。これもゲーム作りに関係があるのか尋ねると、RIKIさんは「私はファミコンの限界に迫る表現を聴いたり、見たりするのが大好きなんです」と楽しそうに笑います。

ファミコン2台に計9本のソフトを接続。重厚な音を鳴らすことができる
ファミコン2台に計9本のソフトを接続。重厚な音を鳴らすことができる
部屋のあちこちにファミコン。テレビの脇には、コイン投入口のある謎の小箱が。
部屋のあちこちにファミコン。テレビの脇には、コイン投入口のある謎の小箱が。

カセットで発売にこだわり

 いすに座ると、今度はRIKIさんから100円玉を渡されました。目の前のテレビの脇に、コイン投入口のある箱がついています。100円玉を入れると……自動でテレビの電源が入りました。この演出も「来た人に、わくわくしてファミコンを楽しんでもらうため」。ファミコンにさしこんであるRIKIさん製作のソフト「8BIT MUSIC POWER」が、にぎやかな音楽とともに動き始めました。

 「8BIT MUSIC POWER」は今年1月に発売。カセットを当時の形状で再現し、ファミコンの実機でも動きます。内容は、操作できる音楽アルバムのような作りです。「ゼビウス」や「スターソルジャー」など往年の名作ゲームをてがけた作曲家たちに、オリジナル曲の制作を依頼。12曲をミュージックビデオのようなド派手な映像とともに聞くことができます。

 個人製作のうえ、任天堂のライセンス商品でもありません。しかし、1994年6月発売の「高橋名人の冒険島IV」以来、まとまった数量生産されたファミコン向けソフトは例がなく、すぐにインターネットなどで話題に。ネットショップなどで5000本以上を完売しました。

 RIKIさんは「私は、ファミコンからのゲームの劇的な進化を、子供のころから見てきた幸せな世代です。当時の衝撃と感動を忘れられなくて、ソフトまで作ってしまった。それでも、今どきファミコンソフトなんて売れるわけない、という気持ちもあって。売り切れるなんて、こんな奇跡ないなと思っています」

「8BIT MUSIC POWER」のタイトル画面
「8BIT MUSIC POWER」のタイトル画面
「8BIT MUSIC POWER」の楽曲再生画面
「8BIT MUSIC POWER」の楽曲再生画面

数百万円の貯金、使い込む

 しかし、発売までの道のりは山あり谷ありでした。

 ファミコンソフトの製作を始めたのは5年前から。プログラマーや作曲家に手伝ってもらいながら、内容の発案からビジュアルデザインまで、ほかの部分は自身で担当して開発を進めました。

 2年間の作業を経て、目標にしていたファミコン発売30周年にあたる2013年、アクションゲーム「キラキラスターナイト」が完成。しかし、悲願だったカセットでの発売はかないませんでした。

 理由は、すでに廃盤となったカセットを再現するにあたり、原価が予想以上に高くなってしまったため。販売価格が1万円を超えることがわかり「とても、買ってもらえる値段には抑えられなかった」。

 結局、作ったゲームをパソコンでも遊べるようにして、CD-ROMに収録。製作記録や裏技、54人の作家によるイラストをまとめた同人誌として販売しましたが、小規模に販売するだけで終わってしまいました。製作費や人件費が大きく、RIKIさんは「漫画家として儲かった数百万円を使うなんて、結婚してたらできなかったと思いますね」と振り返ります。

 そのときRIKIさんの活動を知り、声をかけてきたのがゲーム周辺機器メーカーの「コロンバスサークル」(東京・文京区)でした。アジアの工場でまとめて生産することで原価を下げ、定価3800円で発売することができました。しかし、RIKIさんは「発売前は、売れなくて在庫が積み上がるんじゃないかとびくびくしてました」。

「8BIT MUSIC POWER」のカセットとパッケージ
「8BIT MUSIC POWER」のカセットとパッケージ

時代の変化、追い風に

 RIKIさんは「8BIT MUSIC POWER」が予想外にヒットした理由を「時代の変化が追い風になりました」と話します。同作には「スターソルジャー」や「ゼビウス」「サマーカーニバル'92 烈火」など、さまざまなゲームの作曲家たちが参加しています。

 ファミコンの全盛期を支えたクリエーターがキャリアを重ね、定年を迎えるなど、続々とフリーの立場に。個人製作のゲームにも参加してもらいやすくなったといいます。RIKIさんは作曲家から作曲家を紹介してもらったり、イベントなどで声をかけたりして、新曲を依頼しました。「もちろん、断られた方もいました。でも、OKしてもらえたときの喜びといったら…みんな憧れのスターばかりですから。自分の好きな宝物を、集めにいくような気持ちでつくることができました」と振り返ります。

ファミコンでは難しい、一枚絵を美しく表示している
ファミコンでは難しい、一枚絵を美しく表示している

容量の壁、20年前と変わらず

 ファミコンの限界に迫る表現を盛り込めたことも、注目を集める一因になりました。

 「8BIT MUSIC POWER」は、ファミコンの実機で動かせるようにするため、ソフトのデータ量は768キロバイト。1993年発売の「星のカービィ 夢の泉の物語」と同じで、フロッピーディスクに入る程度のデータ量しかありません。しかし、音楽に合わせて、美しい一枚絵が画面いっぱいに次々と表示されます。これは、性能が低い当時のファミコンでは容量的に難しいことでした。しかも昔のソフトならステージ数を増やして、長い時間ゲームを楽しませることが最優先。RIKIさんは「音楽鑑賞に特化したソフトにすることで、一枚絵の大容量データを豪勢に詰め込む、当時ならありえない表現ができました」。

「8BIT MUSIC POWER」の画面。ファミコンの性能を駆使し、多数のボールが飛び交う
「8BIT MUSIC POWER」の画面。ファミコンの性能を駆使し、多数のボールが飛び交う

 音楽再生中の画面には大量のボールが、複雑な軌跡を描いて舞います。これも表示性能に限界があるファミコンでは、あまり見られない表現で工夫が必要でした。「『縦2倍モード』と呼んでいるファミコンの特殊な機能を使って、通常の2倍量のボールを出しています。さらに最大時にはボールの表示・非表示を高速で繰り返すことで、4倍量のボールをできる限り違和感なく表示させています」。

 RIKIさんは「8BIT MUSIC POWER」を発売後、収録曲を演奏するライブイベントを開いています。最も多い客層は40代。ファミコンに親しんだ世代が大人になり、お金を使えるようになった。そんな時代背景も、追い風になったと実感しているといいます。

 今、RIKIさんは9月末に発売予定の新作アクションゲーム「キラキラスターナイトDX」を完成させ、さらに「8BIT MUSIC POWER」の続編の製作を進めているところです。大人たちのファミコン熱は冷めそうにありません。

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