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心霊ロケで、手抜きお祓い 髭男爵を襲った呪い “一発屋”の代償

とりあえずガッツポーズをする髭男爵の山田ルイ53世さん。「手抜きお祓い」をされても「呪い」にかかっても、前向きに生きています
とりあえずガッツポーズをする髭男爵の山田ルイ53世さん。「手抜きお祓い」をされても「呪い」にかかっても、前向きに生きています 出典: サンミュージック提供

目次

 心霊スポットのロケ、長引いた収録のあおりで「手抜きお祓い」の仕打ちを受けた髭男爵の山田ルイ53世さん。案の定、翌日は謎の高熱に。CM撮影では現場の監督にドヤ顔でネタをパクられ…。それでも「地縛霊」としてギリギリの戦いを続ける“一発屋”の日々です。

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近隣でも有名な“心霊スポット”

数年前。
ロケで訪れた、関東近郊の廃墟。
かつては、学校だったか、病院だったか・・・記憶は定かではない。
とにかく、何かの施設、その跡地。
人の背丈程も、生い茂った雑草。
敷地内は荒れ放題である。
建物、それ自体も、随所で劣化が進んでいる。
コンクリートの壁面、その崩壊箇所からは、幾本も突き出した鉄筋。
赤く錆びつき、ねじ曲がった、そのシルエット。
異常な成長の果てに、宿主を喰い破り、のたうつ寄生虫、その触手。
あるいは、人間の血管や骨か。
凄惨な事故の犠牲者、その損壊した肉体。
心が痛む。
地面に打ち捨てられた、「関係者以外立ち入り禁止」のプレート。
今や、その“関係者”とは、命ある人間、つまり我々ではない。
そう。
ここは、近隣でも有名な、“心霊スポット”。
その探索が、今回のロケの趣旨。

心霊スポットで撮影も大事な仕事 ※画像は本文と直接関係ありません
心霊スポットで撮影も大事な仕事 ※画像は本文と直接関係ありません 出典:https://pixta.jp/

アイドルは体調不良、女芸人は頭痛に

他の出演者と共に、廃墟の中を歩く。
デジカメで撮影すれば、写り込む正体不明の光。
怪しげな呻き声。
頻発する、機材トラブル。
グラビアアイドルが、体調不良を訴え、地面にうずくまる。
負けじとばかりに、頭痛をアピールし出す、霊感があることが売りの、女芸人。
お芝居とも思えぬ。
もし、嘘であれば、照れ臭さ、恥ずかしさの余り、笑ってしまう。
僕、いや、“芸人”であれば。

とにかく、盛り沢山。
妙な物言いだが、撮影は順調そのもの。
“心霊ロケ”の定番も、一通り出揃い、“撮れ高”も十分。
終了と相成る。

次々と起こる怪奇現象… ※画像は本文と直接関係ありません
次々と起こる怪奇現象… ※画像は本文と直接関係ありません 出典:https://pixta.jp/

「えいっ!」「シュッ!!」

後は、ロケバスに乗り込み、家路につくだけ。
だが、その前に。
“霊能者”による“お祓い”。
これは、必須である。
この手のロケには、彼らの同行が“憑き物”・・・もとい、付き物。
その存在無くして、企画の成立はない。
ご多分に漏れず、今回も、“霊媒師”の肩書きを持つ男性が一人。

“心霊スポット”を、傍若無人に闊歩した、その代償。
被ったかもしれぬ、何らかの穢れ、悪影響の類。
それを、綺麗に祓って頂く。
ゴルフを楽しんだ後、シャワーを浴び、さっぱりした後帰宅。
何も変わらない。

それは、番組MCの“売れっ子”芸人から始まり、女性タレント達へと続く。
僕の順番は最後。
「えいっ!」
「シュッ!!」
発せられる気合い。
同時に、出演者の背中に、指先で綴られる文言。
首筋から腰の辺りまで。
お経か何かか。
仕上げに、清めた塩を肩口に。
晴れて、ロケバスに乗り込めるという段取り。

お祓いも本格的だったというロケ ※画像は本文と直接関係ありません
お祓いも本格的だったというロケ ※画像は本文と直接関係ありません 出典:https://pixta.jp/

他の出演者達に比べて、余りにも「短い」

いよいよ、僕の番。
「よろしくお願いします!」
緊張しつつ、彼に背を向ければ、ほどなく指の感触が。
しかし、それは、すぐさま消え、塩の件(くだり)へ。
おかしい。
他の出演者達に比べて、余りにも短い儀式の時間。
というより、明らかに“少ない”。
背中に書かれた文言、その文字数、あるいは、画数。
ゆえの、儀式の短さ。

仮に、他の出演者の背中に綴られた文言が、
「南無阿弥陀仏」
だとすれば、僕の背中のそれは、
「ナムー」
・・・もはや、漢字ですらない。
勿論、背中の感触頼り。
正確な文言、その判別は難しい。
しかし、文字の数、画数・・・その“多少”は分かる。
「一粒に、レモン三百個分!!」
御利益が“ギュッと”凝縮された、特別な文字。
そんな、サプリメント的なワードが、突如、僕の時だけ使用された訳でもあるまい。
そもそも、指先の感触が消失したのは、肩甲骨の間のゾーン。
腰など、遥か彼方・・・天竺の如し。
言わずもがな。

まさかの「手抜きお祓い」に… ※画像は本文と直接関係ありません
まさかの「手抜きお祓い」に… ※画像は本文と直接関係ありません 出典:https://pixta.jp/

“売れっ子”の早く帰りたそうな視線

「手抜かれたな・・・」
終了予定時刻を、大幅に過ぎた撮影。
傍らで“お祓い”を見守る、ディレクタ―の苛つき。
ロケバスの窓からは、“売れっ子”の、一刻も早く帰りたそうな視線。
そして、目の前の背中、その持ち主は“一発屋”。
責めはしない。

「被害妄想!」
「手抜きなんてするはずないでしょ!」
窘められ、笑われるかも知れぬ。
・・・証拠になるだろうか。
ロケの翌日、僕は高熱に見舞われ、寝込んだ。
しかも、二日間。
“一発屋”の弊害は、“お祓い”にまで及ぶ。

「手抜かれたな・・・」。案の定、翌日は謎の高熱に
「手抜かれたな・・・」。案の定、翌日は謎の高熱に 出典: サンミュージック提供

台本に「○○やないか~い!(乾杯)」

そもそも、“一発屋”の芸能界における立ち位置は、むしろ心霊寄り。
たまに、テレビ番組に“化けて”出れば、
「最高月収は○○○万円です!」
「でも、今は、スケジュールまっしろですー!!トホホ・・・」
披露するのは、“一回売れた”話と、惨めな現状、それに対する愚痴ばかり。

つまりは、うらめしや・・・“あの時”から一歩も動けぬ、地縛霊。
存在の希薄化、その進行に、歯止めが効かぬ。

とあるCM撮影。
久しぶりの大仕事。
“コスプレキャラ芸人”はCM案件が舞い込み易い。
数少ないメリットの一つ。
実際、“売れっ子”の時分には、その数、十本を優に越えた。
“一発屋”となった、今でもなお、時々、オファーを頂く。
有難い。
今回のCM、その台本は、
「とある“売れっ子”女優さんの後方で、踊る“髭男爵”」
勿論、メインなどではない。
だが、
「○○やないか~い!(乾杯)」
台本にしっかり盛り込まれた、我々の芸風。
俄然、気合も入る。

ワイングラスを掲げ「ルネッサ~ンス!」という持ちギャグで知られる髭男爵の山田ルイ53世さん
ワイングラスを掲げ「ルネッサ~ンス!」という持ちギャグで知られる髭男爵の山田ルイ53世さん 出典: 朝日新聞

「面白いでしょ!?」「いや、俺が考えたやつや!!」

本番前の打合せ。
「この、“○○か~い!(乾杯)”・・・どんな感じでやれば!?」
台詞のニュアンス、込めるべき感情。
“呆れ”なのか、“怒り”なのか、“悲しみ”なのか。
役者気取りで恐縮だが、それが、僕の質問の意図。
仰いだのは演技指導。
あくまでも。

「ああ、実は、これ乾杯が、“ツッコミ”になってるんです!」
「“か~い”の部分は、長く伸ばして下さい!」
「面白いでしょ!?」
監督からの返答に、背筋が凍る。
「いや、俺が考えたやつや!!」
突っ込まずには、いられない・・・勿論、心の中で。
自分の考案した芸風、その“やり方”を、他人の口から説明される。
もはや、恐怖。
周りのスタッフも、誰一人として、指摘する様子はない。
我々の事を、知らないのか。
いや、しかし・・・確かに、オファーを頂いた。
“貴族”、“ルネッサンス”。
表面的なキャラクターは承知しているが、ネタの中身、芸風に関しては、忘却の彼方。
一体、どういうことだ。
分からない。

グラス越しに見る相方のひぐち君
グラス越しに見る相方のひぐち君 出典: サンミュージック提供

過去に遡っての、存在の抹消

大ヒット映画、「バックトゥ―ザフューチャー」、そのワンシーン。
未来で撮影した写真、その中の人物が、足から徐々に消えて行く。
過去に遡っての、存在の抹消。
全ては、無かったことに。

「了解です!」
簡潔に答え、やりとりを打ち切る。
矮小な自尊心、著作権争いなど、誰の得にもならぬ。
とにかく。
少しでも早く、本番を終える必要が。
何しろ、こちらは、地縛霊。
いつ、足が消えぬとも限らぬ。
そうなっては、ダンスも上手く踊れないではないか。

     ◇
 やまだ・るい53せい 本名・山田順三。兵庫県出身。相方のひぐち君と結成したお笑いコンビ「髭男爵」でブレーク。ワイングラスを掲げ「ルネッサ~ンス!」という持ちギャグで知られる。2015年8月、真の一発屋芸人を決定する「第1回 一発屋オールスターズ選抜総選挙 2015」で最多得票を集め、初代王者に選ばれた。自身の経験をまとめた『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)を出版。ラジオ番組「髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」(文化放送)などに出演中。

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