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「おかまに行政支援は不要」発言、地方のLGBTが抱える生きづらさ
おかまに行政支援は不要――。新潟県三条市が制作委託料を出しているFM番組のパーソナリティーをめぐる市議の発言が議論を呼びました。その後、市議は撤回しましたが、発言は地方に住む性的少数者(LGBT)の生きにくさを考えるきっかけになりました。「おかま」発言のきっかけとなったラジオパーソナリティー、さとちんさんは「ここは渋谷区ではない。田舎に行けば行くほど大変」と話しています。
「僕は逆にまあ、市議さんに、ありがとうございました、という感謝の気持ちもあるんです」
さとちんさんは、今回の騒動を振り返り、そう語りました。見附市出身のさとちんさん。19歳の春に上京し、作曲家の平尾昌晃さんの音楽学校でレッスンを受け、タレントとして大成することを目指しました。しかし、約20年前、父の死を受け新潟に戻ります。自称「永遠の28歳」。本当の年齢や本名、実際にLGBTかは「ベールに包まれている」。
ただ、さとちんさん自身、様々なLGBT当事者たちから悩みを聞いてきました。女性優位と思われるファッション業界で活躍する男性もいるし、「男社会」と言われる場で活躍する女性もいる。LGBT当事者の中にもデザイン、建築など様々な分野でめざましく活動する人たちがいる。「『男性だから』『女性だから』という区別はもうこの時代、古いのではないですか」と考えています。
そんな中での「おかま」発言でした。
三条市議会3月定例会の市民福祉常任委員会で、自民党三条支部長を務める西川重則市議(66)=自民クラブ=がさとちんさんについて「おかまと聞いている。行政が支援することはないのではないか」などと発言しました。
市が2016年度一般会計当初予算案に、さとちんさんが出演予定の番組を放送する燕三条エフエム放送(燕市)への番組制作委託料約286万円を盛り込んだためでした。西川市議はその後、不適切だったとして撤回しました。
取材に対し、西川市議は「不勉強だったし、話が脱線してしまった。自民党公認で選挙をしている私としては、党の『男は男らしく、女は女らしく』という伝統的な家族観を広める立場にあるが、不愉快に思った人がいたこと、会ったことがない方について発言したことは申し訳なかった」と話しました。
さとちんさんはその後の取材に対し、こんなことを話しました。
「結婚なさって家族がある方の中にも(同性愛者は)いらっしゃいます。世間上、やっぱり結婚して子どもができて、でも実際は男性が好き。実際、たくさん見てきているし、そういう知り合いもいる。それをやっぱりずっと、墓場まで持って行くことになる」
「幸せな家庭を作り上げていかなくてはならない。でも、それは、自身にとってはすごく、一生引っかかっていく。海外や(同性カップルを結婚に準じる関係と認めるパートナーシップ条例のある)渋谷区ではないので、田舎に行けば行くほど大変だと思うんですよね。現状はもっと厳しい」
それもあって西川市議の発言については、「全国的に広まってくれる良いきっかけになったかな。何かしらそういうことがないと発信できなかったのかなと思っているので」と感謝しているそうです。「こういったことについて全国で悩んでいる人はものすごくいると思うので、機会があればこれからの活動の一端として、出て行きたいなと思っています」と話しました。
新潟県内で開かれているLGBT当事者の交流会。参加者は、LGBTにとっての地方暮らしがいかに大変かを語ります。その交流会には、運営者の誰とも面識がないのにフェイスブックページなどを見つけてやってくる人が少なくありませんでした。ある参加者は「東京などと違って地方では当事者の出会いの場が少ないから、参加者に知り合いがいないくらいのハードルは気にしない」と話しました。
東京だったら新宿2丁目などに当事者の集まる飲食店がいくつもありますが、地方ではそれも難しい。ゲイの30代男性は「ゲイの出会いの場は他にもあるはあるのだが、そこは性的関係に直結しやすかったりする。自分は当事者の友達が欲しいからここに来た」と語りました。
三条市と接している政令指定都市・新潟市の篠田昭市長はLGBTへの差別や偏見の解消に積極的に取り組んでいく意向を示しています。
「LGBTについては今、こういうことをやってはいけない、こういうふうにしていくべきだという国際標準の方向性がかなり見えてきている。国際都市を標榜(ひょうぼう)する新潟として、国際的な基準に合わせていく必要がある」
さとちんさんについても「おいでいただけるということならば、お話を聞いて偏見、差別の状況などを確認していきたい」と話しています。
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