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一般的な症状に潜む希少疾患… その1人をどう支える

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2月末日、「世界希少・難治性疾患の日」に行われたオンラインセミナー「希少疾患のこと、ともに考えてみませんか」のなかから、私たち一人ひとりが知っておきたいことをご紹介します。
2月末日、「世界希少・難治性疾患の日」に行われたオンラインセミナー「希少疾患のこと、ともに考えてみませんか」のなかから、私たち一人ひとりが知っておきたいことをご紹介します。

目次

先天代謝異常症「酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)」をテーマとした今回のセミナーでは、前半にこの分野の専門家である医師の井田博幸先生の講演、後半に井田先生とwithnews編集長・水野梓によるトークセッションが行われ、医療が進歩する今も依然として残る希少疾患の課題について考えました。

井田博幸(いだ・ひろゆき)
学校法人慈恵大学理事・特命教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業、2008年東京慈恵会医科大学小児科学講座主任教授に。19年から22年まで東京慈恵会医科大学附属病院の院長も務めていました。専門は小児科、なかでも先天代謝異常症の研究・臨床に長年尽力しています。

よくある症状のなかに隠れた難病 ASMD

私たちが食べたものは体のなかで分解され、体をつくる組織になったりエネルギーになったりしています。このように、体内で物質を変化させる化学反応を「代謝」といい、こうした変化の過程には「酵素」の働きが関わっています。

遺伝子の情報をもとに酵素が作られます。どの酵素をどのぐらいつくるかということは遺伝子が命令しているわけですが、遺伝子に何らかの異常があると、代謝に関わる酵素の働きが悪くなることがあります。この結果、通常であればAという物質がBになり、BがC、Dと変化していくべきところで、CからDへの変化がうまくいかなくなるとどうなるか。Cがどんどん蓄積され、一方でDは不足します。

このように、酵素の働きが悪いためにさまざまな症状が現れる疾患を「先天代謝異常症」といいます。本日お話しする「酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)」は、「スフィンゴミエリン」という物質を分解する酵素の働きが悪い、あるいは酵素がないために起こる先天代謝異常症の一種です。代表的な症状としては、肝臓や脾臓が腫れる「肝脾腫」、痙攣や神経症状、間質性肺炎、骨折や骨変形、発育障害、その他には眼底に「チェリーレッドスポット」と呼ばれる赤い斑が見られることもあります。

今の話を聞いて、みなさんあることにお気づきになったのではないでしょうか。それは、他の病気にも見られる症状が少なくないということです。「これがあれば必ず代謝異常症である」といえる特異的な症状がなく、他の一般的な症状のなかに希少な病気が隠れている。そのことが、早期発見や早期診断を大変難しくしています。

数は少なくとも、一人一人の声に耳を傾ける

ただし診断のポイントはいくつかあります。まずは家族歴です。遺伝子の異常による疾患ですので、家系のなかに同じような症状の人がいる場合は要注意です。また、初診時には目立たなかったのに数年後の再診時には肝臓が大きく腫れているというように、症状が進行性であることも特徴的です。その他には治療抵抗性であるということです。症状を抑える治療を続けていてもなかなか改善しない。そして複数の症状が現れる。これも代謝異常症を強く疑わせる所見です。

治療法としては、静脈から酵素を直接注射する「酵素補充療法」が一般的です。その他には骨髄移植や、まだ研究段階ではありますが遺伝子治療もあります。日本で最初に酵素補充療法が認可されたのは1996年のことで、ASMDと同じく「ライソゾーム病」の一種に分類される「ゴーシェ病」の治療法としてでした。ASMDの酵素補充療法が認可されたのは、それから20年以上も経った2022年のことです。

なにしろ希少な疾患ですので、新しい治療薬を開発しようにも臨床試験に参加していただける患者さんが非常に少ないという問題があります。また医師であってもこうした疾患の診断・治療に携わることはきわめて稀ですので、なかなか知見を広げることができません。ぜひ本日のような機会に、多くの方にASMDを含めた先天代謝異常症に対する理解を深めていただければと思います。

先天代謝異常症は、長い間「治療できない病気」でした。しかし今は治療薬がある疾患が増えていますので、今後はどうすれば早期診断できるか、治療のガイドラインをどう整備するかといったことがより重要になってくるはずです。患者さんの数は少なくとも、そのおひとりおひとりの声に耳を傾けながら、今後も希少疾患の診断と治療の進歩に貢献していきたいと考えています。

どう実現するか 一人一人を大切にする社会

水野 どうもありがとうございました。ここからは「一人一人を大切にする社会」と題して、引き続き井田先生にお話をうかがっていきます。ご講演のなかである患者さんの例を紹介されていましたが、先生が最初に診察をされたのはいつ頃ですか。
井田 この方は1歳過ぎに熱性痙攣で入院した際に肝機能異常を指摘されました。その後、外来で肝庇護薬の投与を受けていましたが改善しませんでした。そこで1歳6ケ月の時に入院して精査しましたが原因は不明でした。そこで色々な検査をしたところASMDの疑いが強いことがわかり、私のところに4歳の時に紹介されました。
 
水野 最初の受診から診断までに2年半ほど経っていたわけですね。
 
井田 ASMDは肝機能の異常と同時にHDLコレステロールが低下するという特徴もあるので、すぐに HDLを調べていればもっと早くわかった可能性はありますが、ただ診断まで2年半というのは比較的早いと思います。
 
水野 それが2006年のことですね。
 
井田 そうです。その頃すでにゴーシェ病などの酵素補充療法は始まっていました。この方ももっと早く治療ができていればよかったのですが、結果的に16年ほど待たなければならなかったことは、医師として非常にもどかしい思いでした。
 
水野 ご講演のなかにもありましたが、希少疾患は患者数が少ないので治療法や治療薬がなかなか進歩しない。一方で製薬会社にとっては新薬を開発しても使用する人が少ないので、開発費を回収するのも容易ではないですよね。
 
井田 そこは大きなジレンマだと思います。有効な治療薬を強く求めている人がいるにもかかわらず、ビジネスとして成り立ちにくい。難しい問題です。
 
水野 私たちwithnewsでも、医療的ケア児のケアを担うご家族の負担が重い問題などを繰り返しお伝えしています。患者さんやご家族を支える社会の仕組みがまだまだ十分ではないと感じます。
 
井田 成人に対しては介護の制度やサービスがある程度整っていますが、小児の場合はまだそうした部分の多くをご家族の努力だけで支えているのが現状です。しかしいくら家族でも24時間・365日のケアなどできるものではありません。
 
水野 動画にご登場いただいたご家族の方は、「一人一人の“あったらいいな”に応えてくれる企業がもっと増えてほしい」とおっしゃっていましたね。
 
井田 本当にその通りだと思います。患者さんもご家族も孤立しがちですので、患者会のような横のつながりも大切にしていただくのも良いと思います。医師や研究者、製薬会社、患者会、そして政府。そうしたネットワークの中心に常に患者さんを置いて、みんなで支えていく。そんな社会であってほしいと願っています。
 
水野 希少疾患をめぐる問題を今回初めて知ったという方も、これを一歩として今後も関心を持ち続けていただけたらと思います。
「ASMDに関する情報はこちら」
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