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2016年12月09日

ボブ・ディランの何がノーベル賞なのか? 中川五郎×萩原健太対談

  • 提供:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル/ユニバーサル ミュージック

 10日(日本時間11日未明)に授賞式を行ったノーベル賞。今年の目玉はなんといってもボブ・ディラン。反戦、反体制のイメージが強いディランですが、中川五郎さんは「プロテストソングに脚光が当たったわけではない」と強調。萩原健太さんは「もはや時代を超えた存在」と話します。ディランに関する著作や論評も多い2人に「ディランとノーベル賞」について語ってもらいました。

ノーベル文学賞の懐の深さに驚いた

──今回のボブ・ディランの受賞は予想していましたか。

中川五郎中川 7、8年前からうわさは毎年ありましたが、正直僕は彼の受賞はないと思っていました。やっぱりディランはミュージシャン、シンガーであって文学者ではないので、その枠を超えて賞を与えることはしないだろうと。しかしスウェーデン・アカデミーのコメントを読むと、彼の歌詞や文章だけでなく、ちゃんと声、歌、音楽を含めて文学賞に値すると評価しているんですね。これは素晴らしい、ノーベル賞もなかなかやるなと思いました(笑)。

萩原健太萩原 ようやくわかったか、と(笑)。レナード・コーエン(カナダの国民的詩人、シンガー・ソングライター)がディランの受賞について「エベレストの頂上にメダルを飾るようなもの」とコメントしていますが、あれがすべてを表してますよね。誰もが知ってる世界最高峰に新たなメダルをひとつ置いたところで、その評価はまったく変わらない、ということだと思います。

中川五郎中川 ただ今回の受賞を伝えるメディアのなかで、今のこんな時代だからこそ、ディランのプロテストソングに脚光が当たったという解説をしている人もいましたが、僕はそうじゃないと思うんです。


萩原健太萩原 ディランが戦争や資本家への批判をストレートに歌ったのは初期の数年だけですからね。むしろそこから後、彼の作品は誰にもまねできないイメージの広がりを持つようになっていきます。よく名前が挙がるのはランボーですが、ギンズバーグなどのビート詩人やフェリーニの映画からの影響、絵画のような色彩感も彼の言葉にはあるといわれます。

中川五郎中川 しかもディランがあの声で歌うと、言葉以上の意味や感情が伝わってくる。おそらく本人も、紙に書かれた文字としてだけ自分の歌詞を味わって欲しいとは思っていないはずです。今回、書店がノーベル賞受賞を記念したフェアをやりたかったのに、並べるほど彼の詩の本が多くなかったというのは非常に「らしい」というか(笑)、この受賞がいかに特別かを示していると思います。

──アカデミーがディランの受賞理由として挙げた「偉大なアメリカ音楽の伝統の中で新たな詩的表現を生み出した功績」というのは、具体的にどんなことでしょう。

中川五郎中川 誤解を恐れずにいえば、ディランの歌にはすべて「元」があります。それは古いトラッドやフォークソング、黒人霊歌、ゴスペル、ブルースといった民衆の音楽です。そうしたものを下敷きにしながら、自分なりに手を加えていく曲作りを彼は一貫して続けています。じゃあ独創性がないかといえば決してそんなことはなく、彼が魔法の粉をふりかけると、眠っていた古い曲が時代と共振・共鳴する新たな歌になるんです。

萩原健太萩原 最近ではもう、自分自身もスタンダードの一部になったということを十分自覚していると思います。古い曲も自分の曲も、そこに差はなくて、いってみれば全部俺の曲だ、みたいな(笑)。もはや時代を超えた存在ですよね。

中川五郎中川 特に2000年以降は、彼の特徴がさらに明確になった気がしますね。カバー曲もあるけど、オリジナル曲でも以前よりはっきりと「元」をわかりやすく提示して、素晴らしい作品に仕上げている。


アメリカ民衆音楽の文化的価値への評価

萩原健太萩原 本人も別に内緒にする気はないんですよね。2001年に『ラヴ・アンド・セフト』、つまり「愛と窃盗」というタイトルの作品を出していますが、これ、「愛を持ってパクる」とも解釈できますから。

中川五郎中川 宣言しちゃったね(笑)。最近はアメリカ人みんなの共有物である曲を、代表してディランが歌っているようにも聞こえます。僕は今回の受賞というのは、彼の業績だけでなく、アメリカ民衆音楽の文化的豊かさ全体への顕彰だという気がするんです。

──では、母語も文化的背景も異なる日本人が、ディランの歌を本当に楽しむことは難しいでしょうか。


萩原健太萩原 彼の代表曲には印象的な決めフレーズが多いんです。「Like a rolling stone」とか「Tangled up in blue」なんて、途中まで何いってるか全然わかんなくても、その一節を聴くと「そうだそうだ」と納得したりして(笑)。最初はその気持ちよさだけでもいいと思います。でも、英語を勉強したりトラッドを聴いたりしてから向き合えば、もっと多くの果実を返してくれるのがディランの世界です。深く分け入る価値は、絶対にありますよ。

中川五郎中川 僕はディランの歌詞や詩集の訳をずいぶんやらせてもらったし、歌手として日本語で歌ってもいますが、違う言語に置き換えることでこぼれ落ちるものは確かに多い。でも最初の手引きとしては、そうした訳詞も役立つだろうと思っています。何々を知らないから楽しめないなんて、ディランはそんな小さな存在じゃないし、賞をもらおうがもらうまいが、僕らのディランは最高なんですから(笑)。


萩原健太(音楽評論家) はぎわら・けんた/1956年生まれ。出版社勤務を経て81年に音楽評論家として独立。米米CLUB、憂歌団、山崎まさよしなどのアルバムプロデュースも手がける。著書に『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』『ボブ・ディラン・ディスク・ガイド』(共著)『アメリカン・グラフィティから始まった』『70年代シティ・ポップ・クロニクル』など。

中川五郎(フォーク歌手) なかがわ・ごろう/1949年生まれ。60年代半ばからアメリカのフォークソングの影響を受け曲作りやライブ活動を開始。アルバムに『25年目のおっぱい』『また恋をしてしまったぼく』など。来年1月には新作『どうぞ裸になって下さい』が控える。『ボブ・ディラン全詩集』、ブコウスキー『詩人と女たち』など訳書も多数。

ボブ・ディラン 1941年、米ミネソタ州生まれ。62年アルバムデビュー。翌年、名曲「風に吹かれて」を含むセカンドアルバムを発表。フォークからロックへとサウンドを転換し、『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』『追憶のハイウェイ61』『ブロンド・オン・ブロンド』などの名盤を次々に生み出す。全世界アルバムセールスは計1億枚以上。88年ロックの殿堂入り、グラミー賞最優秀アルバム賞など受賞多数。2004年発表の『ボブ・ディラン自伝』も世界的なベストセラーとなった。08年には音楽界で初のピュリツァー賞(特別賞)を受賞、12年に米国の文民最高位である大統領自由勲章を授与された。

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ボブ・ディラン写真提供:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

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