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知られざる真実を古館×トム×アーロン奇跡の鼎談で解き明かす
提供:ワーナーブラザース
クリント・イーストウッドの監督キャリア史上、最大のヒットとなった『アメリカン・スナイパー』。彼が次に選んだのが「ハドソン川の奇跡」。
未曽有の航空事故からの生還劇の裏に隠された実話です。その映画『ハドソン川の奇跡』が9月24日からついに公開となりました。そこで先日、アメリカから来日した、チェスリー・„ サリー“・サレンバーガー機長役のトム・ハンクス氏と、ジェフ・スカイルズ副機長役のアーロン・エッカート氏、そしてフリーアナウンサーの古舘伊知郎氏によるビッグ鼎談を開催。まさに奇跡が奇跡を生むスペシャル企画が実現しました。
古舘 私が一番印象に残ったのは、サリー機長が英雄から一転して容疑者にという流れの中、苦悩を抱えながらニューヨークをジョギングしているシーンです。橋の辺りで背後に映るサリーの影がとても巨大で……「えっ何?何?」と思ったら、その巨大な自分の影が後ろから襲ってくる。彼が置かれている立場、状況を見事に映像で表現しているなと感心しました。
トム ウエストサイド・ハイウェイにかかる歩道橋の場面ですね。私も完成した映画を観て初めて気づきました。私にも、サリーが自分よりはるかに大きい影から逃げているように見えました。撮影監督トム・スターンとイーストウッド監督の手腕ですね。
サリー機長の苦悩は眉間のしわからも伝わってきました。トムさんは今、私の中で世界一、眉間のしわが似合う男です。
そうですか?(笑)。実際、長い苦悩がサリー機長にはありました。国家運輸安全委員会(NTSB)の調査は約18カ月にも及んだそうです。その間、ずっと胸に重いものがつかえているようだったとサリー本人は言っていました。どう考えても自分たちは過ちを犯していない。それでも最終的に「カナダガンの群れに衝突すべきではなかった」と断定されたら、責任を問われるのではないかと苦しみ続けたそうです。
そういう苦悩の演技は見事だった。ジェフ役のアーロンさんにも同じことを感じました。映画前半でサリー機長との間に緊張感があって、正直、ジェフがどんな人物かよく分からなかった。でも後半、公聴会の前辺りからジェフの「いい人度」がぐわーっと上がるんです。機長との一体感が際立つと同時に、彼の人となりが伝わってきました。
アーロン 2人は事故直前まで、数回顔を合わせたぐらいの関係でした。でもあの瞬間、コックピットには2人しかおらず、お互いを頼るほかなかった。事故を通じて絆を深め、今も友情は続いています。
ジェフは調査期間中もフライトを続けていたのかな?
いや、建設現場で働いていたそうです。
18カ月間パイロットとして給与を受け取っていない。これも事実というわけですね。
当時、アメリカのエアライン不況は長く続いていて、2008年秋にリーマン・ショックが起きた。本当にいいニュースが全くなくて、アメリカの心理は英雄を求めていた。そんな空気の中、この事故が起きた。人々の心は動いた?
確かにそうかもしれない。飛行機が落ちてハドソン川に浮いているのを見て誰もが9・11(01年アメリカ同時多発テロ)を思い出した。また起きてしまったのかと。ところがそうではなかった。救助に向かった救援隊や警官たちは最初に「9・11に何をしたか」を思い返していた。彼らはあの時も救助に出ていましたから。だから、着水からわずか7分で155人の命を助けることができたわけです。これは本当にすごいこと。物質的な豊かさをどんなに享受しても、それだけでは生み出せない精神的に満たすものがある。それがまさに「ハドソン川の奇跡」です。この偉業は決してサリー1人のものではありません。
155人の乗客乗員と救助活動に関わったすべての人のチームプレーで起こした奇跡なんだと、この映画は教えてくれた。グッときた。
アメリカには今なお自らの信念で動ける人たちがいると証明した出来事。ゆえに、アメリカ国民にとって特別な意味があります。
今、世界では人工知能(AI)がどんどん発達しています。もしかして10年後には人間らしいコミュニケーションが排斥されて、こうしたインタビューも通訳なしで全部コンピューターがやってくれるかもしれない。でも最後に必要なのは人間の判断。この映画はそのことも教えてくれました。私は唐突にトムさんが主演した映画『フォレスト・ガンプ』の冒頭の大好 きなセリフを思い出しました。「人生はチョコレートボックスのようなもの。開けてみなければ分からない」。最後は人間が開けてみて、瞬時に判断する。
ああ、僕が言ったセリフだ。
どんなに素晴らしいコンピューターも、経験や優しさを含めた人間の判断力にはかなわない。
その通りです。事実、サリーとジェフはコンピューターの指示とは違う順序でボタンを操作し、155人を救ったんですからね。
あるパイロットが「僕らは陸路を運転しているわけじゃないということを伝えてほしい」と言うので、私はこう答えました。「コックピットには人間のパイロットが必要なんだと、この映画が証明しているよ」と。
先日、ニューヨークへ行き、ハドソン川を見て「ああ、ここなんだ」と。機長は最終的にあらゆることを微分積分して、自分の責任感の中で決断したんだと思ったら、人間って尊いなという気持ちになりました。
サリーは「あの時、エンジンの停止を体で感じ、飛行機に推進力がないことに気づいた」と。メーターを見なくても 「命のない飛行機」を操縦しているのだと直感し、自分にできるのは機体を川へ着水させることだと分かった。不思議なことに、決断した瞬間それが確信に変わったそうです。
なるほど。そういう彼らの生の声が生かされているから、観る者もこの映画に心を打たれるんですね。本当は人間は自分のためというより自分以外の人のために生かされているという根源的なことを示唆してくれる映画に出会え、とても幸せでした。あっ、お2人とも走ることが好きと聞いたんで、この公園(窓下)は早朝おすすめですよ。
ここは影にやられそうじゃないな(笑)。
ニューヨークを訪れた際、何人かに「ハドソン川の奇跡」のサリー機長のことを聞きました。返ってくる答えは「彼はヒーローだよ」。英雄から一転して容疑者になった真実は、アメリカの人もよく知らないわけです。この事故が起きた時、報道の場にいた私はガンガン伝えた。でも、その後の一変したサリーを取り巻く環境は、一切伝えていない。放送とは「送りっ放し」と書きます。イーストウッドは「ニュースのその後」に着眼し、「実はこうだったんだ」と伝えてくれた。映画はテレビがやりづらいニュースの真相に迫るメディアなんだと改めて思いました。
古舘伊知郎
フリーアナウンサー。1954年生まれ、東京都出身。立教大学卒業。77年にテレビ朝日にアナウンサーとして入社。84年に退社し、フリーに。2004年からテレビ朝日系「報道ステーション」のメインキャスターを務め、16年3月末に降板。今秋からトーク番組「フルタチさん」「トーキングフルーツ」(フジテレビ系)への出演が予定されている。
トム・ハンクス/チェスリー・“サリー”・サレンバーガー役
俳優、プロデューサー、監督。1956年生まれ、米カリフォルニア州出身。『フィラデルフィア』『フォレストガンプ/一期一会』で2年連続米アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した。その後も数々の作品で様々な賞を受賞。名実ともに世界的なトップ俳優である。近作は『ブリッジ・オブ・スカイ』など。待機作に『インフェルノ』がある。
アーロン・エッカート/ジェフ・スカイルズ役
俳優。1968年生まれ、米カリフォルニア州出身。『サンキュー・スモーキング』でゴールデングローブ賞主演男優賞(ミュージカル・コメディー部門)ノミネートされる。その後も『ダークナイト』『ラビット・ホール』『ラム・ダイアリー』など話題作に次々出演。近作は『My AllAmerican』『エンド・オブ・キング』など。待機作に『Bleed for This』など。
朝日新聞の速報Webサイト、映画『ハドソン川の奇跡』で明らかになる 知られざる真実。2016年9月24日(土)公開