マンガ
テレビ通話後、娘がポツリと言った本音…家族の「距離」描く漫画に涙
「早く落ち着くように、と願わずにはいられない」
新型コロナウイルスが全国に蔓延(まんえん)した今年のお正月。感染を広げないよう、自宅で過ごしたという人も多いかもしれません。同じ経験をした、ある親子のエピソードを伝える漫画が、ツイッター上で人々の胸を打っています。別居する家族と会えなくても、互いのつながりを感じたい。そんな思いから生まれた、切ない物語を描いた理由について、作者に聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
1月3日、「今日泣きそうになったこと」と名付けられた4ページの漫画がツイートされました。
主人公は、ウイルスの感染拡大を受け、自宅で年末年始を過ごす母親です。離れて暮らす親やきょうだいと、テレビ通話をする場面から、物語は始まります。
「あした いくね!」。母親のひざに乗った娘が、スマートフォンに向かって言います。そして、通話を切る間際にも「いま いくね!」。
終了後、しょんぼりした様子を見せる娘に、母親が声をかけました。すると、目に涙を浮かべ、こう話すのです。「あいたい……」
娘は2歳。最後に母親の家族と顔を合わせたのは、一年前のことでした。大事な人たちのことを記憶し、好いてくれているのに、対面させてあげることができない――。母親の胸に、様々な感情がこみ上げます。
そして、抱き合う母子のイラストと、こんなセリフで締めくくられます。
「我慢が報われてほしい」「娘さんが優しくて泣いた」。漫画には、共感のコメントが連なっています。描いた経緯について、作者のうさささん(@usasa21)を取材しました。
漫画のエピソードは、年明け2日に体験したことです。うさささんの住まいから実家に行くには、新幹線を使わなければなりません。高齢の祖母が実家近くに住んでいることもあり、帰省を諦め、自宅からテレビ電話で連絡を取ったといいます。
スマートフォン越しに見える、両親と姉、そしてめい、おいの姿。子どもたち同士、目いっぱい画面に顔を近づけて語らい、家族全員で楽しく新年のあいさつを交わす。10分ほどでしたが、うさささん親子にとって幸せな時間となりました。
そんな中、娘の口から飛び出した「あいたい」という言葉。わが子が自分の大切な家族を覚えていたことへの驚きと喜び、寂しさを味わわせてしまったことへの切なさが、うさささんの心にあふれます。その日のうちに、漫画を完成させました。
「私たちが家族と会えるのは、年に2回ほどです。そのたび、娘は年齢の近いいとこたちと動物園に行ったり、両親に可愛がってもらったりしています」
「”私の故郷”での出来事が、娘の内に楽しい思い出として刻まれている。そのことに驚き、うれしく思いました」
ところで、うさささんは、読者から寄せられた感想に、こう返信していました。「テレビ通話はムスメのためでもあり、私のためでもある」。どんな心境で書き込んだのでしょうか?
「私は生まれつき耳が聞こえない『ろう』の当事者です。他の人より、コミュニケーション面で頑張り過ぎてしまうことが少なくありません。でも故郷に帰ると、自然とリラックスできた。実家は、疲れた心を癒やせる場所だったんです」
「大学生の頃から、夏と冬には必ず帰省していました。でも、今年はウイルスのせいでかなえられず……。せめて両親や姉の顔を見ることで、少しでも安らぎたい。そんな思いでテレビ電話を使ったことから、あのコメントを書き込ました」
2011年に東日本大震災が起きた際も、うさささんはテレビ電話経由で、両親に無事を知らせました。二人の顔が確認できた途端、心がほぐれ、自然に涙が流れたといいます。
「耳が聞こえる人は、電話越しに相手の声を聞き、相手の感情を受け取るのだと思います。彼ら・彼女らが、親しい人の声を聞いて安心するのと同じように、私たちは互いの顔を見ることでほっとできるんです」
「その意味で、テレビ電話は精神を支えてくれるツールと感じています」
大切な誰かの命を守るため、距離を取らなければならない。ウイルスがもたらした現実に、歯がゆさを覚える人々は少なくありません。
うさささんは「全員が力を合わせて乗り越えるべき課題。早く落ち着くように、と願わずにはいられない」と話します。その上で、こう語りました。
「これからは、テレビ通話をしながら、私の家族とコミュニケーションをとる機会を増やしていきたいです」
「そして、また娘が寂しいと泣いたら『ママも寂しい』と共感した上で、『会いに行けたら何しようか?』と、ポジティブな声がけができたら。今は、そう思っています」
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