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本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)
広告特集 企画・制作
朝日新聞社メディア事業本部
福井県鯖江市にある社会福祉法人「光道園」では、「見えない」「聞こえない」盲ろう者専門の施設を半世紀以上前から運営しています。聴覚に障害がある職員も支援に加わり、それぞれの強みを生かしています。意思の疎通を支援し自己決定や生活をサポートしている職員の皆さんに伺いました。
豊住五十恵(とよずみ・いそえ)さん=写真左
1980年、福井市生まれ。小学生の時に聴力を失う。2005年から光道園勤務。現在はライフトレーニングセンターさくら館担当。介護福祉士。
髙村悠紀(たかむら・ゆき)さん=同右
1990年、越前市生まれ。動物看護師を経て、2015年から光道園勤務。2021年からライフトレーニングセンターさくら館担当。介護福祉士、盲ろう者向け通訳・介助員、手話検定試験3級。
JR鯖江駅から車で10分ほど。のどかな水田を望む里山のふもとに「光道園鯖江事業所」はあります。その中の障害者支援施設「ライフトレーニングセンターさくら館」は、全国でも数少ない盲ろう者の専門施設で、現在は約30人の利用者が生活しています。
光道園は、26歳で失明した故中道益平氏が1957年に設立しました。当初から視覚障害に加え、身体や知的などの障害がある人のために生活拠点を提供することに力を入れてきました。
中でも「見えない」「聞こえない」障害がある盲ろう者は、長く社会から隔絶され、教育の機会も奪われてきました。盲ろう教育関係者から相談を受けた初代中道園長が何としても専門の施設を作りたいと考え、全国に先駆けて、「さくら館」の前身となる「ヘレンホーム」が1970年に設立されたそうです。
現在、ライフトレーニングセンターには、「さくら館」と「きらら館」があり、定員110人の利用者を、約80人の職員が交代制で24時間サポートしています。
食事や入浴などの生活支援から、軽作業や趣味を楽しむお手伝い、外出時の同行援助などサポートは多岐にわたります。ひとりひとり抱える困難の程度は違うため、その人に合わせた支援やコミュニケーションが必要になります。
さくら館では、音声、手話、触手話、筆談、指文字、点字、ジェスチャー、オブジェクトキュー(行動や場所などの意味を象徴する物で表す)と主に8種類の方法を使ってコミュニケーションを図っています。
「手段は人それぞれで違います。たとえば手話や指文字を使って、ひらがなで表現するだけでは、相手に伝わらないこともあるので、組み合わせて使う必要があります」と同センター副施設長の嵯峨崎友華さんは話します。言葉の意味と概念が理解できていない人には、「な・す」(茄子)と伝えても通じません。形や食べ方などを身ぶりやサインで示して初めて、野菜の茄子のことだと理解できるのだそうです。
光道園では嵯峨崎さんのほか、事務局の吉田正樹さん、介護職員の豊住五十恵さんら聴覚に障害がある計5人の職員が働いています。嵯峨崎さんは「1998年に聴覚障害者として初めて職員に採用されたとき、『光道園にとって挑戦だ』と言われましたが、私は昔も今も特別なことだとは思っていません」と話します。吉田さんも「手話ができること、聞こえない人の気持ちがわかり、代弁できることは支援する側にとって強みになる」と指摘します。
さくら館を担当する豊住さんは、嵯峨崎さんの存在を知り、福祉の道を選びました。働いていたお弁当製造会社を退職し、専門学校に入り直し資格を取得。2005年から光道園で勤務しています。
小学生のころから徐々に聴覚を失った豊住さんは、手話も使用しますが口の動きを読むことができます。でも介助の現場では「見えない方たちは下を向いて話すことが多く、聞こえる職員に通訳してもらうことも。覚えることもたくさんあって、慣れるまでは大変でした」
転機になったのは、当時、50代だった盲ろうの男性との東京旅行でした。東京タワーなどを見物する1泊2日の旅で通訳・介助を担当。事前に情報を集めて準備したつもりでしたが、電車に乗り間違え、道に迷い、男性からは「疲れたよ」と触手話でぼやかれてしまいました。「仕事を始めてまだ間もない頃で、まさに冒険旅行でした。たくさん迷惑をかけてしまいましたが、見えない・聞こえない方たちへの支援方法を直接学ぶよい経験になりました」と振り返ります。
同僚の髙村悠紀さんは、以前は動物看護師をしていましたが、お年寄りの飼い主と交流するうち、高齢者介護に関心を持つようになり転職。手話を学んだこともきっかけになり、3年前から現在の担当になりました。
当初は戸惑うばかり。でも、覚えたばかりの指文字で自分の名前を伝えたとき、「返事がないので不安でしたが、利用者さんの表情が変わり、『伝わった!』と実感できたことで、やりがいを感じました」と振り返ります。
現在の髙村さんの目標は、豊住さんです。この春、弱視で耳が聞こえない高齢の利用者女性と一緒に、大相撲の福井場所を観戦したときのこと。取り組みの結果を伝えるために、豊住さんは観客席で女性と実際に組みあいながら「上手投げ」や「押し出し」といった決まり手を再現して伝えていました。「相撲に詳しくないので、やって見せたほうが伝わるかな、と思って無我夢中でした。周囲の視線が気になりましたけど」と豊住さんは笑います。
この体当たり「通訳」を間近で見て、髙村さんは「とても勉強になりました」と話します。「帰ってきてから、利用者さんがお相撲を観に行ったことを、とてもうれしそうに周囲に伝えていました。ご本人の思いや希望を、もっとかなえる支援ができるようになりたいです」
光道園では、盲ろう者向け通訳・介助員の養成にも福井県の委託を受け、2016年から取り組んでいます。吉田さんによれば、福井県には100~120人の盲ろう者がいると推定されますが、通訳・介助員制度を利用している人はごくわずかだといいます。
「いまだ盲ろうの当事者が気軽に外出できる環境にないこと、家族が制度の存在を知らないことが原因です。ニーズの掘り起こしや制度の認知度アップと共に、幅広く興味を持ってもらい、支える側も増やしていきたいですね。また、障害がある当事者も支援されるだけでなく、支援する側で活躍できる環境をもっと作っていきたい」と吉田さんは話します。
また、嵯峨崎さんは意思疎通支援にかかわる皆さんへ向け、「意思を伝える・伝わるということは、一緒に相手のことを考えるということです。支援する側は、当事者と共に楽しみや喜びを分かち合うだけでなく、障害があることで直面する怒りや悲しみにも寄り添える存在であってほしいと願っています」とエールを贈りました。
最後に「見えない」「聞こえない」人たちの思いに現場で向き合う二人からメッセージをいただきました。
「聞こえない人、見えない人……いろんな人がいることを、特に子どもたちに知ってほしい」と豊住さんは言います。「教えたり話したりするのは苦手ですが、小学校での手話教室や高校生向けの講演などを通して、自分にできることを伝えていきたいです。それがきっかけで将来一緒に働ける仲間ができたら一番うれしいですね」
髙村さんは「手話や点字でなくともコミュニケーションを取る方法はいろいろあります。まずは相手のことを理解したい、話したいと思う気持ちが一番大事だと自分の経験からも感じています。わからないからできない・話さないのではなく、興味があればぜひ挑戦してみてほしいと思います」
本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)