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 朝日新聞社メディア事業本部

「視覚障害者の困りごとを減らしたい」
代筆・代読支援というサポート

「見えない・見えにくい」人を対象にした、代筆・代読という福祉サービスをご存じでしょうか。視覚障害者にとって重要な支援ですが、一般的には十分な認知と理解は得られていないかもしれません。視覚障害があり、利用者の視点で代筆・代読支援者の養成に取り組む藤下直美さんに伺いました。

プロフィル

藤下 直美(ふじした なおみ)さん

1974年生まれ、愛知県犬山市出身。先天性弱視から、12歳で全盲になる。南山短期大学を卒業し、1997年に社会福祉法人「名古屋ライトハウス」 に入職。2019年に開設された「日々のくらし相談室」視覚総合相談室で相談員係長を務める。

申請書提出から保育園の連絡帳まで 多岐にわたる読み書きのニーズ

正面を向いて話す藤下さん
大学時代、教材の点訳を「名古屋ライトハウス」に依頼したことが、この道に進むきっかけになったという藤下直美さん

藤下直美さんは現在、名古屋市熱田区にある「日々のくらし相談室」職員として、視覚障害者の生活相談や福祉サービスのコーディネートなどを担当しています。

相談室では、市から委託を受け、代筆・代読支援員の派遣事業を行っています。2020年度から始まった意思支援疎通事業の一環で、文字どおり、視覚障害者の読み書きを代行するサービスです。

代筆・代読支援は、全国の自治体でも実施されていますが、多くは調理や掃除など家事を援助する「居宅介護」と、外出時に同行する「同行援護」の枠内で提供されています。しかし、居宅介護では掃除など家事の支援もあるため代筆や代読の時間がとりにくい、同行援護では自宅内での代筆・代読支援は対象外など、当事者にとっては使いにくい点もあります。

「名古屋市の制度は代筆・代読支援として独立しているため利用しやすく、さらに2023年度からは居宅介護・同行援護との併用も可能になり、利用件数は前年度の3倍強(約280件)に増えました。障害者手帳の有無にかかわらず利用できることも画期的な点です」と藤下さん。名古屋市の代筆・代読サービスは、全国的にも先進的な取り組みだそうです。

パソコンを前にした藤下さん

見えない人にとって、代筆・代読のニーズは多岐にわたります。役所に提出する申請書や健康診断の問診票への記入、家に届く郵便物の仕分け、電化製品の取り扱い説明書や食品の消費・賞味期限の読み取りなど、生活全般にかかわります。藤下さんの場合、お子さんが保育園に通っていたとき、連絡帳のやりとりに悪戦苦闘したそうです。

一般的には家族や友人、知人らに代筆・代読を依頼するケースが多いそうですが、知られたくない個人情報を扱う場合もあり、公的な代筆・代読の支援サービスは不可欠です。

「最近はスマホで印刷物を撮影すると、音声で読み上げてくれるアプリも普及していますが、内容は把握できても書き込みはできません。ICT化が進んでも、読み書きのハードルがすべて解消できるわけではないのです」

見えない不便さも学ぶ支援者養成講習

代筆・代読支援員として活動するためには、どうすればいいのでしょうか。

名古屋市の場合、名古屋ライトハウスが支援員の養成講習を開催しています。期間は2日間。視覚障害者の基礎知識を学ぶ講義と、ロールプレイング形式の演習が用意されています。

「視覚に障害があると、何が不便なのか。どのようなサポートが必要になるのか。その理解を深めるのが、演習の目的です。受講者同士がペアになり、支援者役と視覚障害者役に分かれて、封筒の宛名書きやテイクアウトメニューの読み上げなどを実践します」と藤下さん。

代筆・代読支援者養成講習のようす
アイマスクをした「見えない人」役の受講生に、支援者役の受講生がチラシの内容を代読して伝えるロールプレイング演習(名古屋ライトハウス提供)

「視覚障害者は、無言が続くと不安になります。大切なのは『今から封筒を開封しますね』『窓口で3枚の書類をもらいました』『半分ほど書き終わりましたから、もうしばらくお待ちください』など、作業のプロセスを言葉にして伝えることです。演習ではアイマスクを装着して、見えない感覚や不便さなども体感してもらいます」とも。

評価項目が一定レベルに達すると修了証が授与されます。支援員として名古屋市に登録すると、有料ボランティア(報酬は1時間につき1500円)として利用者の自宅や外出先に派遣されるそうです。

「見える人も見えていない」代読・代筆の難しさ

電話相談に応じる藤下さん。視覚総合相談室紹介動画「ある日突然、目が見えなくなったら、あなたの生活、ご家族の生活はどうなるのでしょうか?」から

養成講習には、毎回定員を上回る応募があるそうです。アンケートによると、志望動機でもっとも多いのは社会貢献。「お世話になった社会に恩返しがしたい」といった意見が目立ちます。

「受講者は50~60代が中心ですが、30代前後の方もいらっしゃいます。実際に支援を体験すると、“人の役に立てた”という達成感よりも、人とのつながりから喜びや満足感を見いだされている方が多いようです」

「読み書きが好きだから」と、支援員をめざす人も多いそうですが、養成にかかわるうちに、藤下さんはある気づきを得たといいます。

「視覚障害者からすると、晴眼者(見える人)はすべて見えていると思ってしまいがちです。でも意識して見ようとしない限り、晴眼者も見えていないことが多い。視界には入っても、情報取得に結びつかないのだと知りました」

例えば、両面印刷の資料は裏面を見落としがちで、文字が小さい注意事項などは読み飛ばす。書類を手にしたとたん、いきなり住所や氏名を書き始める傾向。全体に目を通さないため、生年月日に和暦・西暦の指示があってもスルーして記入ミスが発生するなど、ありがちな行動パターンもわかってきました。

「養成講習では、こうしたトラブル事例の対策も盛り込まれています。代筆・代読は読み書きができれば、特別なスキルは必要ありませんが、『自分はこんなに読めていなかったのか』と感じる受講者さんは少なくないようです」と藤下さん。

さらに「支援者は、視覚障害者の意思決定や判断をサポートし、当事者の自己実現のお手伝いをする仕事です。『障害がある人』ではなく、『その人の個性として障害がある』という捉え方をして欲しい。晴眼者と視覚障害者の間で一方通行の支援にならないよう、双方の『見え方』を理解することも大事になると思います」

人にしかできないサポートがある

事務所の入り口に立つ藤下さん
事務所の入り口に立つ藤下さん

長年、視覚障害者の支援にかかわってきた藤下さんは、仕事のやりがいについて次のように話してくれました。

「時に迷いや戸惑いも生じますが、それでも人の優しさや温かさに触れ、『世の中は捨てたものじゃないよね』と、実感する経験も重ねてきました。支援によって、当事者ご本人の能力が発揮され、その人の生活や人生が変わるきっかけになることもある。そこに価値を感じます」

最後に、コミュニケーション支援に関心がある人へメッセージを寄せていただきました。

「性格や考え方が一人ひとり異なるように、視覚障害者にもさまざまな人がいます。できる・できないにも個人差はありますが、“見えない”“見えにくさ”をクリアできれば、自分で判断や意思決定ができます。代筆・代読は目の代わりになって、情報を提供するサービスです。技術がいくら進化しても人間にしかできない支援、人間だからできるサポートがあります。あらゆる世代の皆さんが、できることから一歩踏み出してもらえればと、願っています」

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本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)