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本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)
広告特集 企画・制作
朝日新聞社メディア事業本部
メールやチャットでの日常のやりとりが普及してきましたが、「即時性」と「双方向性」を持つ“電話”の重要性は、今も昔も変わりません。2021年7月にスタートした「電話リレーサービス」は、聴覚障害者などの“聞こえない人”と、“聞こえる人”とを「通訳オペレーター」を介してつなぎ、常時リアルタイムでの通話を提供する公共サービスです。バリアフリーを保証するこの制度の概要や今後の課題について、運営を担当する一般財団法人日本財団電話リレーサービス理事長の大沼直紀さんと専務理事の石井靖乃さんに話を聞きました。
“聞こえる人”にとっては当たり前にできる電話は、聴覚障害者、難聴者、発話困難者などの“聞こえない人”にとっては、大きな壁です。
スマートフォンの普及によりメールやチャットが一般化していますが、緊急通報をはじめ、急な予定変更などの際に電話は必要不可欠な存在です。
そこで役立つのが即時に双方向につながることができる「電話リレーサービス」です。聴覚や発話に困難のある人(以下、聞こえない人)と聞こえる人との会話を「通訳オペレーター」と呼ばれるスタッフが、24時間365日対応し通訳します。
この電話リレーサービスは、世界25カ国で公的な制度として提供されています。G7の国のうち日本は唯一の未実施でしたが、2021年7月に公共インフラとしてスタートしました。
聞こえない人がサービスを利用する際には登録が必要で、アプリまたは郵送で手続きをします。インターネット回線を通して通訳オペレーターと手話や文字チャットでの会話をするため、パソコンやスマートフォン、タブレット端末の準備が必要になります。聞こえる人は、電話回線で通訳オペレーターとやり取りをします。
緊急通報をはじめ、病院の予約、仕事の相手先との連絡、日常会話などを手話や文字、音声によって、オペレーターが要約や交渉をせずに会話の内容をそのまま訳します。
利用料金は、電話をかけた人が負担をする体制。聞こえない人の登録は必要ですが、聞こえる人も発信できます。聞こえない人は月額料の有無があり、それにより料金が異なります。
「現在の電話リレーサービスの利用状況は、1カ月3万通話あり、そのうち緊急の案件が60件ほどです。聞こえない人の登録者数は2023年2月現在で約11,800人です」
そう話すのは、一般財団法人日本財団電話リレーサービスの大沼直紀理事長です。同法人は2021年に、総務大臣から「電話リレーサービス提供機関」として指定されました。
その発端となったのは、2020年9月に「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」が制定され、同年の12月1日に施行となったことです。この法律により、電話リレーサービスは公共インフラになりました。
「私たちは“交付金”と呼ばれる資金で事業を運用しています。その交付金は、電話契約者の方がKDDIやドコモ、ソフトバンクなどの通信会社に支払っている料金の一部です」と大沼理事長。
2021年7月から、固定電話や携帯電話の明細に記載されるようになった「電話リレーサービス料1円」の文字。1つの電話番号につき、約半年間、月額1円ほどが徴収されています。電話におけるコミュニケーションの平等性を、利用者で支え合う仕組みになっています。
サービスが開始して間もない電話リレーサービスですが、大沼理事長は主に二つの課題を感じていると話します。一つは認知度の低さです。
電話をかけた際、会話の前に電話リレーサービスの説明を一からする必要があったり、セールスの電話と勘違いされてしまったり、電話オペレーターの立場を誤解されてしまったりすることもあると大沼理事長は言います。
「物事を調整したり、内容を要約したり、相手を説得してほしいと言われたりと、通訳者ではなく“支援者”を思われてしまうことも。私たちの役割は、あくまでも、聞こえない人が電話を使えるようにするためのアシストです。すべての通話の相手先が、聞こえない人と接点がある訳ではないので難しい点ではあるのですが、せめて『聞いたことがある』程度の認知度にはしたいと思っています」
二つ目は本人確認の問題です。例えば、金融や保険、不動産関係の手続きをする際、「本人が肉声で話してください」と求められることがあるそうです。
「発話困難な方が利用しているので、そういった要望に応えることは難しいのが現状です。サービスのことは理解してもらったとしても、利用者が本人かどうかだけでなく、通訳オペレーターが本物かどうかを問われることもあります。聞こえない人や発話困難な人の場合、通訳者を使わざるを得ず、その点を理解して、聞こえる人と同等の扱いをお願いしていますが、本人確認のあり方は引き続き検討が必要であると感じています」
今後のサービスの方向性として、石井靖乃専務理事は二つの目標を挙げています。
一つは、手話通訳で生計を立てていくことの出来る職場を作ることです。「手話通訳のみで経済的自立を図ることが厳しい中、電話リレーサービスの通訳オペレーターは毎月生活するに足る水準の給料を安定して得ることができる職業となっています。今後は若い方々が職業として手話通訳者を目指す社会にしていきたいです」
日本財団電話リレーサービスには、現在手話通訳士であるオペレーターが25人在籍をしています。そのうち正社員は3人で、契約社員の方々の多くも144時間/月の勤務時間を選んでおり、24時間365日対応できるようなローテーションを組んでいます。「手話通訳は疲労の度合いが高い業務です。法人内に休憩や仮眠スペースなども設けて、休憩時間はリラックスできるような環境を整備しています」
もう一つは「重要なインフラである電話に、誰もがいつでもアクセスできること。そのためにAI技術による自動翻訳の可能性検討も必要だと感じています」と石井専務理事。ただし、手話の場合、手の形や場所、動く方向、速さ、さらに顔のパーツごとの動きや全体の表情、体の向きなどが素早く動く手話映像を正確に認識することに加え、認識された手話映像を正しい日本語に翻訳する必要があります。そのために必要となる機械学習用の映像元データが非常に少ないため、初期投資に莫大な費用が必要になるであろうとのこと。そのため、「AIでの代替は課題が多く、実用化はまだまだというのが現実です。一方でアニメーションを使って日本語を手話表現する取り組みなど、研究が進められている面もあり、常にアンテナを張っておくことが必要だと考えています」と述べました。
聞こえる人も、聞こえない人も、誰もがコミュニケーションの平等が保証される世の中へ。今後、ますます電話リレーサービスへの期待は高まっていきそうです。
本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)