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本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)
広告特集 企画・制作
朝日新聞社メディア事業本部
聴覚に障害を持つ人の活躍の場が広がるにつれ、手話通訳が必要とされる分野も多様になってきました。また特別支援学校の教員やソーシャルワーカーといった専門職には職業上、高度な日本手話スキルが求められます。群馬大学では、聴覚障害者の教育、生活、職業を支える支援人材の育成に力を入れています。ろう者と手話で流暢にコミュニケーションがとれることは職業実践の上で必要不可欠です。第二言語として日本手話を学び、また手話通訳の資格取得を目指すことができるカリキュラムを展開している群馬大学の取り組みについて紹介します。
群馬大学手話サポーター養成プロジェクト室が提供する手話関連の演習授業は全部で11あります。1年目の「言語としての日本手話IA・IB・IIA・IIB」は、教養教育として行っているので、所属学部に関係なく誰もが履修できます。この授業では、日本手話の基本的な文法を身につけ、日常会話レベルの話題について手話でやりとりすることができるようになります。
2年目以降は、共同教育学部の専門科目の授業となります。2,3年次で履修する「日本手話と日本語の違いを学ぶI・II・III」では、さまざまな言語活動と通訳トレーニングを通じて、日本手話と日本語両方の力をさらに高めていきます。
これらの授業は、厚生労働省の手話奉仕員・手話通訳者養成カリキュラムの基準を満たしていますので、「言語としての日本手話IA・IB・IIA・IIB」を終えると手話奉仕員の資格、「日本手話と日本語の違いを学ぶI・II・III」を終えると手話通訳者全国統一試験の受験資格を得ることができます。もちろん、手話通訳士試験へのチャレンジも可能です。2017年の開講以来、これまでに計48人の学生が手話通訳の資格試験に必要なカリキュラムを修了しました。
また、4年次では、教員養成課程の授業で身につけた専門知識と日本手話のコミュニケーションスキルを融合させた実践力を磨く「SDGs総合演習:日本手話を活用した聴覚障害児支援の実践」のほか、ろう重複障害児者の支援技術を学ぶ「聴覚障害教育C」、盲ろう児者の支援技術を学ぶ「聴覚障害教育D・E」(盲ろう者通訳・介助者資格取得が可能)が開設されています。
学生たちは、ただ手話や手話通訳のスキルを身につけるだけではありません。受講生たちからは様々な声が寄せられています。
「ろう学校の教育実習では手話を学んできてよかったと実感しました。手話が信頼関係を築くための一つのきっかけになっていたと思います」というように同じ言葉で通じ合えることの大切さ、「日本手話を学ぶことでろうの世界という新しい世界に出会うことができました。いろいろな人とつながることができてわくわくします」 「実践的なトピックを通して、手話の表現だけでなく、ろう者の文化や生活についても学べました」というようにろう者の文化的・社会的背景を知ることへの大切さにも目が向けられていきます。そして「卒業後は特別支援学校の教員になる予定です。通訳の授業で学んだ、文全体の意味を捉えて短い文にしたり具体的に表現したりするスキルを他の障害種別の特別支援学校での指導にも活かしていきたいです」 「将来、手話通訳士の試験にチャレンジしたいです」 「この経験をこれから専門科目で医療を学んだり、将来医師として働いたりする上で、どのような形で活かせるかと考えさせられます」など、自身の将来の職業上の実践に日本手話や手話通訳のスキルをどのように活かしていくか模索しながら成長していきます。
聴覚に障害がある人たちが手話や手話通訳を必要とする場面は、教育、医療、公的サービス、職業、法律、金融など大変多岐にわたっています。近年では高等教育機関で学ぶ聴覚障害学生への情報保障、公共インフラである電話リレーサービスなど手話通訳のニーズがさらに広がる一方、手話通訳者のスキル不足が指摘されています。
これらの問題を解決するには、手話教育の段階で日本手話のスキルをしっかり高めておくことが大切です。プロジェクトリーダーの金澤貴之教授(共同教育学部)は「大学のなかに手話教育を根付かせ、短期間で日本手話のスキルを高められるように学問的な英知を結集するかたちで取り組んでいます」と話します。「たとえば、周到に準備された指導計画のなかで学習者の母語である日本語を活用すれば、日本手話と日本語が混じり合うことなく、日本手話の力を高められることがわかっています」。また、手話言語教育の国際的動向だけでなく、音声言語の第二言語教育の最先端事例を取り入れてカリキュラムや指導法に反映しているそうです。そして、コロナ禍のオンライン授業で培った知見も生かし、全国どこでも受講できる遠隔手話教育システムの構築にも取り組んでいます。
「たとえば、医師が手話を使えたら、聴覚障害者の患者さんとのコミュニケーションは非常にスムーズになります。しかし、医師になってから手話を身につけるのは難しいのが現実。そこで、医学部の教養課程の段階で、『手話奉仕員』レベルのスキルを取得できるよう制度化してはどうでしょう。医療職に就く人たちがこのレベルのスキルを持てれば、世の中の状況はかなり変わってくるのではないでしょうか」と金澤教授は話します。
また、群馬大学では一般市民向けの公開講座等、大学以外での手話・手話通訳教育にも力を入れています。
2022年度からは聖光学院高校(福島県伊達市)で毎週、手話教育の授業をしています。また、地方自治体や企業の研修にも、大学から講師を派遣しているほか、厚生労働科学研究として、電話リレーサービスのオペレーター研修カリキュラムも作成しました。
最新の取り組みとして、2023年度から社会人を対象とした「日本手話実践力育成プログラム」をスタートさせます。プログラムはすべてオンラインで実施されるので、居住地域を問わず受講することができます。ベーシックコース(120時間)を修了すると手話奉仕員の資格、アドバンスコース(90時間)を修了すると手話通訳者全国統一試験の受験資格を得ることができます。金澤教授は、「このプログラムが、手話通訳者の絶対的な不足と高齢化の問題を改善する突破口の1つになるのでは」と言います。また、本プログラムは文部科学省職業実践力育成プログラムの認定を受けており、さらにベーシックコースについては厚生労働省教育訓練給付制度の認定も受けています。「社会人向けの手話通訳者養成を、文部科学省と厚生労働省の制度を活用して実現させたという点で画期的といえます」と金澤教授。
日本手話の普及のために大学が果たすべき役割として、金澤教授は、対象者別に3つのカテゴリに分けて日本手話教育の拡大を構想しています。
1つめは手話や手話通訳に関心を持つ人たち。2つめは、ろう教育に携わる人たち。現在の特別支援学校免許のカリキュラムでは、聴覚特別支援学校の現場で教科指導を行える手話スキルの習得が担保されていないため、特別支援学校の聴覚障害の免許を取っても、手話ができるようになりません。特別支援学校免許に関する専門外の授業なども含めて、手話のスキルを磨くことができるようにしたい、といいます。3つめは、聴覚障害者がサービス対象の1つとなるその他の専門職の人たち。例えば心理職、福祉職、医療職といった専門職は、聴覚障害者にとって意思疎通を図りやすい方法でコミュニケーションを取れるようになることが理想的です。そうした専門職に向けて手話教育の機会を広げていくことも視野に入れているそうです。
また、聴覚障害者が医師、弁護士、研究者といった高度専門職に就くことも増えてきました。彼らが職業上必要とするやりとりの手話通訳では、専門的な内容を正確に訳出することが求められます。専門的であるかどうかにかかわらず、正確な通訳の基礎となるのは、日本手話の言語知識をしっかり持つことです。そのためには体系だったカリキュラムを通してスキルを身につけることが大切であり、そのうえで、手話通訳を担当するうえで必要な専門的知識とはなにか、それを事前準備としてどのように行っていけばよいのかといったことを学べる仕組みづくりが必要だと金澤教授は指摘しました。
本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)