広告特集 企画・制作
 朝日新聞社メディア事業本部

手話がドイツ語、フランス語と並ぶ選択科目に~「手話言語学」の確立を目指す関西学院大学

関西学院大学(兵庫県西宮市)には、手話を言語の一つとして位置づけ、領域横断的な研究を進めることを目的とした「手話言語研究センター」が設置されています。人間福祉学部では、ドイツ語やフランス語と並び語学の選択必修科目として「日本手話」を履修することができます。手話研究・教育の分野で同大が進める情報発信や積極的な取り組みについて紹介します。

言語として、手話を研究する手話言語研究センター

「手話言語研究センター」は2015年に設立されましたが、その背景には、手話研究の国際連携を目指す香港中文大学が提唱する、アジア・太平洋の各国に研究拠点を設ける構想がありました。 2008年に人間福祉学部が創設された際、第二言語として日本手話を取り入れるなど積極的な取り組みが評価されたことが影響していたそうです。設立翌年の2016年度より日本財団の支援を受けてさまざまな事業を展開してきました。

センターの大きな目的は、手話言語の科学的・学術的研究を進め、手話を言語として学術的に位置づけ「手話言語学」を確立すること。そのために国内外の研究者、関係者とネットワークも築き、多彩な研究を展開しています。また研究成果を学内の手話教育に還元して展開すること、手話の社会的な認知度向上のため研究成果を研究会やセミナーなどを通じ社会へ還元する啓発活動のほか、ろうの映画や落語、漫才、絵画などろう文化に触れてもらうイベントなども開催しています。

松岡克尚・関西学院大学手話言語研究センター長

人間福祉学部社会福祉学科教授でもある松岡克尚センター長は、「言語を学ぶことは、言語にまつわる文化を学ぶことです。手話を言語として位置づけることで、社会における多様性の理解につなげていきたい」と、手話を通して、手話を第一言語とする人々の暮らしと社会との関わりを知ることの大切さを語ります。

手話の実技は、音声日本語を使わない「ナチュラルアプローチ」

人間福祉学部の1,2年生を対象にした、選択必修科目の「第二言語科目『日本手話』」は、講義と実技で構成されています。1クラス15名ほどで、1学年で約90名の学生が、週2回、手話を学んでいます。

NHK Eテレ「みんなの手話」の監修も担当する下谷奈津子研究特別任期制助教(右)と前川和美研究特別任期制助教

講義を担当する教員のうち、手話言語研究センターに所属する聴者の下谷奈津子研究特別任期制助教と、ろう者の前川和美研究特別任期制助教は、NHK Eテレの番組「みんなの手話」の監修もしています。関西学院大学の講義の特徴として、実技ではろう者の教員のみで教え、通訳は介さない「ナチュラルアプローチ」を採用していることがあります。英語が母語の先生が、一切日本語を使わず英語だけで授業するのと同じで、前川研究特別任期制助教は「こちらの方が、より力が身につくと考えています」と話します。

1年生では、ろう者の歴史や生活など基本的な知識や手話による自己紹介や、文法などを学びます。2年生ではより深い内容になります。下谷研究特別任期制助教は「学生たちにろう者に関するテーマを決めてもらい、インタビューやアンケートなども実施し、ろう者の実情や課題を一緒に考えながら、手話という言語を習得していきます」と具体的な授業内容を挙げました。

「日本手話」の実技を学ぶ学生たち

多彩な活動で、手話とろう文化を伝えていく

手話を学べるのは、人間福祉学部の学生だけではありません。手話を知ってもらうべく、全学部の学生を対象にした入門編的な「手話の世界」や、「手話言語学基礎」「手話言語学専門」などの専門講義科目のほか、同じく全学部から履修可能な自由選択科目の言語実技科目として「日本手話初級Ⅰ・Ⅱ」が開講されています。それらに加えて、将来ろう学校やろう児に関わる可能性のある教育学部の学生や教職課程を履修する学生を主な対象とした「ミニ講座」では、ろう文化やろう者の現状、手話の基礎知識を学ぶことができます。

手話言語学基礎の授業

これらの講座に参加する学生は、さまざまなバックグラウンドを持っているそうです。幼い頃に手話歌にふれたり、ろう者の同級生と過ごしたりした経験を、手話に興味を持った理由として話す学生もいます。また、最近では、手話やろう者が登場するドラマや映画をきっかけに関心を持った人もいるそうです。

他にも、手話言語研究センターでは、ICTを活用して手話の学習機会を高めるため、香港中文大学、Google社や日本財団と協力して、AIが手話の表現を認識する手話学習ゲーム「手話タウン」の開発に協力するといった活動にも取り組んでいます。

URL:https://signtown.org/

多様性を理解する「種まき」となることを願って

手話の普及や大学の果たす役割については、解決するべき課題が少なくありません。センター所属の専門技術員である平英司さんは、「2年生まで手話を学び、3年生以降も地域の手話サークルに参加するなど継続している学生はいるが、手話に関わる仕事をする人は、残念ながらほとんどいないと思う」と厳しい現状を語ります。

関西学院大学手話言語研究センターの平英司専門技術員

手話を継続的に学び、関連した進路を考える学生がいても、就職先が少ないのも現実です。大学で手話の授業を受講したことが、手話通訳者になる将来に直接つながるわけではありませんが、「ろう者を知ること、手話にふれたことで、日本社会の多様性と多文化共生のための種まきになれば」と松岡センター長は大学で手話を学ぶ意義を語ります。
また、前川研究特別任期制助教は、手話を教える側の指導力の向上も課題だと指摘します。「現状では手話指導方法やカリキュラムなども統一されているとはいえません。指導者の養成方法や手話指導の技術などもセンターから発信していきたいですね」

手話をカリキュラムに取り入れる大学は全国で少しずつ増えており、連携も始まっています。2月19日には、関西学院大学手話言語研究センターと群馬大学手話サポーター養成プロジェクト室との共催でシンポジウム「高等教育機関が担う次世代手話教育の可能性」を開きました。松岡センター長は「群馬大学とは手話に対してアプローチする方法論に違いはあっても、同じ志を持って取り組んでいる数少ない大学同士。今後も交流・連携を深めていきたい」と話しています。

HOME

ARTICLE

本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)