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 朝日新聞社メディア事業本部

「見えない」「聞こえない」人たちとのコミュニケーションを支える

目と耳に障害のある人を「盲ろう者」といいます。アメリカの社会福祉活動家ヘレン・ケラーが有名ですが、日本には、視覚障害者手帳と聴覚障害者手帳を両方持つ方が、少なくとも1万4千人いるとされています。盲ろうの人たちはどのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか。また、障がいを超えてお互いの思いを伝え合うためにどんな支援があるのか紹介します。

一人ひとりで違う「盲ろう者」の世界

一口に盲ろう者といっても、置かれている状況やニーズはそれぞれに異なります。全く見えず聴こえない全盲ろうや弱視難聴といった障害の程度、生まれつきもしくは後天的など障害の受障時期によって、コミュニケーション方法も異なり、日常の生活内容も支援のニーズも違ってきます。

障害者手帳を基準に調べると、盲ろう者の数は約1万4千人とされていますが、目と耳どちらか片方のみ、または両方の手帳を持たない、いわば潜在的な盲ろう状態の人も多いと思われます。障害の程度が異なることや他の障がい者と比べ人数が少ないこともあり、教育や就労の機会は長く限られていました。現在、東京大学先端科学技術センター教授の福島智さんが、盲ろう者として日本で初めて大学に進学したのは1983年のこと。全国に住む盲ろう者の福祉の向上を目指して「全国盲ろう者協会」が設立されたのも1991年でした。

触る手話、指点字などで会話を支援する「通訳・介助員」

盲ろう者のコミュニケーション手段のひとつである「手書き文字」

盲ろう者のコミュニケーション手段は、見え方や聞こえ方の程度、またどのような経緯で盲ろうになったかなどで違います。主な手段としても、相手の手話を触って読みとる「触手話」、盲ろう者の手のひらに文字を書いて伝える「手書き文字(手のひら書き)」、点字タイプライターのキーの代わりに盲ろう者の指を直接たたく「指点字」など、多彩なコミュニケーション方法があります。

盲ろう者によっては、複数のコミュニケーション手段を併用する方もおられます。聴力や視力が残っていれば、音声や筆談、パソコンによる要約筆記などを併用するなど、一人ひとりの障害の程度やニーズに合わせたきめ細かい支援が必要になります。

盲ろう者の指の上を直接たたく「指点字」(左)と触って手の形を確かめる「触手話」

盲ろう者のコミュニケーションを支援するのが「盲ろう者向け通訳・介助員」です。全国盲ろう者協会では法人設立時から自主事業として「盲ろう者向け通訳・介助者(当時)派遣事業」を実施し、2000年には国の試行事業として、2009年には全都道府県において同事業が実施されるに至りました。都道府県・政令市・中核市が実施する養成研修を修了し、地域の派遣事業所に盲ろう者向け通訳・介助員として登録することで、通訳・介助員として活動することができます。手話通訳者とは異なり、コミュニケーション支援の他に、周囲の状況等を伝える「状況説明」や、移動の介助も担当するのが特徴です。

養成研修は、2013年に都道府県・政令市・中核市の必須事業となるまでは、任意事業でした。現在は、国から示された標準カリキュラムに基づいて実施されています。必修科目・選択科目各42時間、計84時間で構成されており、地域の実情に合わせて、時間数や内容を工夫しています。ゴーグルやヘッドホンをつけて視覚や聴覚を失った状態を疑似体験する科目や、様々なコミュニケーション手段を習得するための実習等があります。受講者は家族や知人に盲ろうの知り合いがいたり、テレビや映画・書籍等で盲ろうの存在を知った方など様々です。中には、手話や点字などの経験がある人もいますが、未経験者も受講しています。この養成研修は、各地で概ね年1回開講され、現在、全国で登録されている「通訳・介助員」は約6400人です。また、同協会では養成研修を担当する指導者の育成にも取り組んでいます。主に通訳・介助員や盲ろう当事者を対象に、これまで約200人が指導者研修を受講しました。

盲ろう者向け通訳・介助員を養成する指導者養成研修会の模様

各地域の養成研修は、新型コロナの拡大当初は中止、またはオンラインによる実施が多かったようです。昨今では、対面による実施を再開した地域も増えてきています。また、同協会の指導者養成研修は、2020年からオンラインにより実施されています。同協会の橋間信市事務局長は「遠隔地からでも参加しやすくなったメリットはあるが、実技や実習を主体とした講義やグループワークが難しくなった。また、講義時間外での講師との交流や、受講者同士の情報交換ができなくなったことが残念だとする声もありました」と語ります。

一人でも多くの盲ろう者に情報を届けたい

今後の課題について橋間事務局長は、数字からだけでは見えない盲ろう者の掘り起こしが必要だと、指摘します。視覚と聴覚の障害者手帳を持つ人は1万4千人いますが、全国盲ろう者協会の盲ろう会員数は約980人、通訳・介助員派遣事業を利用する盲ろう者は1年間で千人強にとどまっています。

研修であいさつする橋間信市事務局長=写真はいずれも全国盲ろう者協会提供

「この数字のギャップが示すのは、潜在的な盲ろう者は全国にもっとたくさんいるということ。この層に派遣サービスが届けば、通訳・介助員のニーズはもっと高まります」

また現状では盲ろう者の就労が非常に少ないことも影響しています。「通訳・介助員を配置することで、盲ろう者が就労できる体制をつくれれば、盲ろう者と通訳・介助員双方の就業機会を増やすことができます」

通訳・介助員派遣を利用できるという情報が届いていない盲ろう者に、少しでも情報を届けようと、全国盲ろう者協会では、さまざまな工夫をしています。

一人でも多くの盲ろう者の人たちの社会参加が進むよう、通訳・介助員派遣事業の情報を届けるためにも、誰ひとり取り残さずつながりあえる社会実現のために、意思疎通の支援について知ることが求められています。

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本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)