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本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)
広告特集 企画・制作
朝日新聞社メディア事業本部
長崎純心大学は10年ほど前から、正規のカリキュラムとして全学科の学生を対象に手話講座を開講しています。今年度からは厚生労働省の「若年層の手話通訳者養成モデル事業」にも選ばれ、手話通訳士の資格を持つ長野秀樹教授とろう者の原田育子講師の二人が一緒に教える形で手話の普及啓発に取り組んでいます。大学が手話通訳者育成に果たす役割などについて、うかがいました。
聞こえる人が手話を学ぶ機会として、地域の手話講座がありますが、近年では手話を学べる大学も出てきました。その一つが、長崎市にある長崎純心大学です。10年ほど前から、日本文学を研究している長野秀樹教授が中心となって、正規のカリキュラムとして、手話講座を開講しています。
手話通訳士の資格も持つ長野教授は、言語としての手話を学べる講座を開きたいと考え、福祉に関連する学科の学生のみではなく、全学科の学生が受講できる講座を始めました。それ以前にも、福祉の観点から聞こえない人の抱える問題を学ぶ講座はありましたが、長野教授が始めた講座は、手話によるコミュニケーションにより力を入れたものとなっています。
この講座は、2022年度から、厚生労働省の「若年層の手話通訳者養成モデル事業」に選ばれました。それを機に、今まで長野教授一人で教えていた講座に、ろう者として手話の普及につとめてきた原田育子講師が加わり、さらに充実した内容になりました。
原田講師が加わるまで、長野教授が一人で手話講座を教えていました。長野教授は手話通訳士の資格を持っているものの、手話を第一言語としているネイティブではありません。「日本語が母語の人が英語を教えているようなものですね」と一人で教えていた頃を振り返ります。
講座では、手話を使うろう者である原田講師とのコミュニケーションを重視しています。これにより、学生は、自分の手話が聞こえない人にちゃんと伝わる、もしくはうまく伝わらない実体験や、ろう者の文化や生活、ろう者独特の経験を知る機会を得られるようになりました。「手話を使う人と話せるようになりたい」と思うきっかけをつくることで、言語習得のモチベーションを高めています。
聞こえる長野教授と、ろう者の原田講師によって講座が進んでいく形は、長崎純心大学の手話講座の特長といえます。二人で教えることにより、言語としての手話、そしてろう者の経験にしっかりふれられる講座を作り上げているのです。
手話講座は、単位が取得できる授業として正規のカリキュラムに位置づけられ、ろう者の文化や生活に関心を持つことや、手話で日常的なコミュニケーションが取れるようになることを目標としています。
シラバスを読むと、初めての言語にふれるときに少しずつ覚えていく身近な話題を表現できるように講座が構成されていることがわかります。授業を通し、音声や文字を使う言語で育ってきた学生が、視覚言語である手話独特の文法や表現を知っていくことができます。
受講するのはどんな学生なのでしょうか。長野教授によると、福祉に関する学科の学生、保育士を目指す学生、言語として手話を学びたい学生など、理由は学生により多様なのだそうです。また、「手話を学べるからこの大学に入学した」という学生やCODA(コーダ:聞こえない/聞こえにくい親のもとで育った聞こえる子ども)で、手話ができる学生が受講することもあるそうです。
東京オリンピック・パラリンピックで手話を意識する機会が増えたことや、ドラマ「silent」(フジテレビ、2022年)が話題になったこともあり、2023年度は受講希望者が増えることが予測されています。2022年4月は定員20名の講座に約60名の受講希望があり、定員を30名にして対応しましたが、長野教授は「受講意欲があるのに受講できない学生がいたことは残念」と考え、対応策を練っています。
一方で、手話通訳者を養成する上での課題は少なくありません。長野教授と原田講師からは、手話通訳者になるためのルートが確立されているとはいえないことや、なった後のキャリアアップの問題、専門性を持つ手話通訳者の必要性などが挙げられました。
長崎純心大学の手話講座は約半年、週1回の頻度ですが、それでは手話通訳者になるには足りないため、地域の手話サークルや講習会などに参加して、ろう者とコミュニケーションを取る経験を積む必要があります。長野教授は「地域と大学教育の連携は難しいが、大事な課題です」とし、よい連携の方法を探っています。
現在は手話通訳者の絶対数が少ないこともあって、医療や行政、福祉など生活に直結する分野から、暮らしを彩る音楽や演劇などの分野まで、一人の手話通訳者が幅広く手掛けるケースも少なくないそうです。しかし、それでは適切な通訳ができない場合もあるので、それぞれに専門性を持った手話通訳者の養成も課題だといいます。
「手話の専門性を高めるには、手話ができる人に専門知識を持ってもらう方法と、専門知識を持った人に手話を覚えてもらう方法があります。分野や状況に応じて、専門性の養成方法も使い分ける必要もあるでしょう」(長野教授)
また、原田講師は「中学高校、専門学校、大学などそれぞれの過程で手話のレベルをステップアップさせて手話通訳者講座につなげていくルートや、大人になってから学び直して手話通訳者講座につなげていくルートなどをつくり、キャリアアップしながら手話を学んだ人が手話通訳者になれる環境を整えるのが大切です」と指摘します。
長野教授は、全国手話検定試験や手話通訳者全国統一試験の講習会の席で、受講者に「あなたが試験に合格した時に喜んでいるろう者はいますか」と聞いているそうです。ろう者の友人がいることが、手話通訳者を目指すきっかけになることも多く、話したい相手がいることは言語習得のモチベーションを高めるからです。
「手話は視覚言語なので、今まで皆さんが知っている言語とは大きく異なります。だからこそ、英語やフランス語を学ぶのとはまた別の、世界の広がりがあります。手話を学んで、世界が広がる体験をしてほしい」と手話の魅力を語ります。
原田講師は、「“手話を学びたい”という気持ちを大事にしてほしい。学んで終わりではなく、聞こえない人たちと交流したり、一緒に時間を過ごしたりしてみるといいと思います。ろう者と友達になって話した経験を将来に生かしてほしい。言語を複数話すことができれば、人生はより豊かになると思います」と手話に関わる人が増えることを願っていました。
本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)