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本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)
広告特集 企画・制作
朝日新聞社メディア事業本部
自動車メーカーのマツダ株式会社(本社・広島市)は、人づくりを進める経営理念を掲げ、約15年にわたってダイバーシティをはじめとした社会課題に取り組んできました。そのなかでも、障がいのある人とない人が、互いに理解しあい、協力して、課題にチャレンジしていくことを大切にしています。そんな「共育(ともいく)」環境をつくる上で、手話通訳が果たす役割について、人事部に所属する手話通訳士、西尾香月さんと勝丸孝子さんにうかがいました。
マツダ株式会社(以下、マツダ)では、経営理念として、7つの考えからなる“Mazda Way”(「誠実」「基本・着実」「継続的改善」「挑戦」「自分発」「共育」「ONE MAZDA」)を掲げています。その中で「共育」とは、成長と活躍に向けて、自ら学び、自ら教え合うことを目指している理念です。
マツダでは、以前から障がい者の雇用を進めてきましたが、Mazda Wayの導入や共生社会・ダイバーシティ(多様性)に向けた社会の取り組みを踏まえ、障がい者と共に働く意味についても問い直したそうです。障害者雇用促進法では、企業の規模に応じて障がい者の雇用が義務付けられていますが、マツダでは、法律の基準を満たすためではなく、障がい者雇用は新たな気づきや仕事を生み出すチャンス、と位置づけることになりました。
障がいのある社員をサポートするために、マツダ人事本部では、2008年7月から、「フィジカルチャレンジサポートデスク」を始めました。「共育」の考え方に基づき、障がいのある社員の悩みの相談を受け付け、仕事上の課題解決を目的としています。職業生活相談員資格を持つ社員を配置し、障がいのある社員の勤務上の悩み、就業環境の整備、雇用推進の整備、労務管理の相談など多岐にわたる課題に対応しています。障がいのある社員に、障がいのない社員同様にいきいきと働いてもらうための取り組みです。
この取り組みの中で、障がいのある社員にアンケート調査をしたところ、明らかになった課題がありました。聴覚障がい者への情報保障が不十分であり、そのためコミュニケーションに齟齬(そご)が生じていたのです。
当時、マツダには約280人の障がいを持つ社員が勤務しており、そのうちの約140人が聴覚障がい者で、工場や開発部門で勤務していました。障がいのある社員の上司からも、障がいのある社員からも、互いの意思を伝えるコミュニケーションがうまくいかないために、信頼関係を築くのが難しいと指摘がありました。
そこで、それまで外部からの派遣スタッフで対応していた手話通訳を、マツダが嘱託雇用する手話通訳士が担当するよう変更しました。常駐することで派遣よりも柔軟な対応ができ、専門用語や社内文化も理解した上で、より正確な通訳が可能になると考えたためです。その結果、2013年4月に西尾香月さんが採用され、2014年11月には勝丸孝子さんが加わり、嘱託雇用の手話通訳士が社内に2人配置される体制となりました。正社員として採用した場合、勤務形態など処遇がマッチしない恐れがあるため、専門性に特化し、期限を定めない雇用になっているそうです。
現在、西尾さんと勝丸さんは、各部署からの手話通訳依頼に日々対応しています。開発に関連した部署からの依頼では、会議の手話通訳が多くを占めていますが、工場からは、研修や資格取得のための勉強会、実技の練習など技能の向上を目指す場での依頼も多く、手話通訳を必要とするシーンは部署ごとに異なっています。また、オンラインでの手話通訳も普及し、現状では手話通訳依頼の約半数がオンライン対応に。遠隔通訳も可能になり業務の効率化につながっています。
西尾さんは、「言語の違う人達の間にたって意思疎通をサポートし、互いに通じ合っている瞬間を見られる」ことが、手話通訳のやりがいだと語ります。会話のなかで笑いが起きるシーンで聴覚障がいのある社員が一緒に笑うためには、適切なタイミングで正確な手話通訳が必要です。難しいことですが、それができれば、聴覚障がいのある社員も健常者と同じ空間にいる実感を持てます。「そんな瞬間に立ち会えるとうれしいです」
また、勝丸さんは「筆談やチャットでは伝えきれなかった気持ちを伝えることで、コミュニケーションが改善され、昇格試験に合格したり、上司との打ち合わせが円滑になったりするなど業務に効果があったと聞いたときは、『助けになれた』と感じます」と語りました。
手話通訳士を常駐配置することで、社内ルールも変わっていきました。以前は社内規定により、外部から派遣される手話通訳士には、会議の資料などを事前に渡せませんでした。その結果、不十分な情報で通訳しているにもかかわらず、聴覚障がいのある社員にもしっかり伝わっているはずだと上司が認識してしまうケースがありました。手話通訳士が常駐する体制になってからは、1週間前から事前に資料を読んで準備できるようになりました。これにより、聴覚障がいのある社員にも、正確な情報が届いていったのです。
変わったことはそれだけではありません。それまで人事本部が中心となって、障がいのある社員に関する情報発信や対応を進めていたのが、それぞれの部署で聴覚障がいのある社員だけでなく、他の障がいのある社員が働きやすいように考える動きが増えていきました。
手話通訳士が社内で信頼を得るにつれて、最初は渋られた秘密情報が多い開発関係資料の事前提供も、聴覚障がいのある社員への情報保障のためには当然のことだと認識が変わっていきました。社内で作成する動画やイベントでも手話通訳をつけてほしいと依頼が来るようになったり、社内のサークル活動で手話を学ぶ社員が増えたりといった新たな動きも生じています。
西尾さんは、聞こえる人と聞こえない人の相互理解を図るため、業務時間内に「聞こえない人とのコミュニケーション講座」を2015年から開催してきました。これまで延べ二千人近くが参加し「聴覚障がい者への理解が次第に深まり、入社当初よりも多くのシーンで手話通訳を依頼されるようになるなど、社内の認識の変化を感じています」と話します。
一方で、社会においては手話通訳=福祉という考えが根強く、他言語の通訳であるとの認識が薄いこと、マツダのように手話通訳に報酬をしっかり支払えるケースが少ないといった課題も指摘します。
手話通訳士を採用すれば、聴覚障がいのある社員への情報保障の課題がすべて解決するわけではありません。手話以外のコミュニケーション手段を用いる聴覚障がい者もいます。現在、マツダには約400人の障がいを持つ社員が在籍しており、他の障がいを持つ社員にも、対応していく必要があります。DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の観点から、障害を持つ社員も持たない社員も、性別や年齢を問わず一人ひとりの社員が力を発揮できる企業を目指しています。
最後に今後の手話通訳や手話を学びたい人に向けて、西尾さんと勝丸さんからメッセージをいただきました。
西尾さんは「フランス語や中国語と同じく、手話は一つの言語だと認識した上で、楽しく学んで欲しい」といいます。そして、手話通訳士を目指す人には「手話で会話できることと、手話通訳ができる技術は違います。手話通訳は聴覚障がい者と聴者双方向のコミュニケーションに責任を持つというプロ意識と誇りをもって伝えてほしい」
勝丸さんは「オンライン会議の普及などで、手話通訳の求められる場所は多様化してきています。手話通訳は聴覚障がい者のためだけではなく、周りの人にとっても必要なもので、対象者は多いです。多様性を大切にする時代になっていくにつれ、手話通訳の現場や対応方法なども変化していくので、チャレンジしてほしいですね」
本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)