ARTICLE
本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)
広告特集 企画・制作
朝日新聞社メディア事業本部
製薬大手の塩野義製薬株式会社では、“聴覚などに障がいがある人が医薬品にアクセスする際の壁をなくそう”というビジョンを掲げ「コミュニケーションバリアフリープロジェクト」を展開しています。活動は社内にとどまらず、医療機関も協力し、「聞こえない方、聞こえにくい方の困りごとを解消したい」という大きなスケールで広がりを見せています。このプロジェクトのきっかけを作った聴覚に障がいがある従業員の野口万里子さんの思いを紹介します。
医療機関でのコミュニケーションには健康に関わる情報が多く含まれます。その中でも、医薬品は正確な情報に基づき、適正に使用しなければなりません。聴覚障がいのある患者さんにとっては、専門的な内容の伝達・理解の困難さに加え、コミュニケーションをとること自体がハードルとなることがあります。塩野義製薬株式会社の「コミュニケーションバリアフリープロジェクト」は、聞こえない・聞こえにくい患者さんが医療機関で円滑にコミュニケーションできるようにするため、医療従事者へ障がいの特性について伝えるなど、啓発活動を中心に展開しています。
「医療機関にて、聴覚障がいの当事者と医療従事者のコミュニケーションで生じる困りごとを解消したい」「全国に2,000万人いると言われる聞こえない方・聞こえにくい方を支えたい」という思いのもと、2016年に全社でプロジェクトを始めました。経営層がプロジェクトオーナー、アドバイザーを務めるほか、部署内での啓発を担うプロジェクトサポーターが90人、メールマガジン購読で理解を深めるファンクラブ会員1154人が参加するなど、全社を挙げて活動しています。
社内だけでなく、取り組みは社外にも広がっています。聴覚障がい者の医療機関での困りごとと、その対応方法をまとめた漫画冊子を制作し、医療系学生に配布するために立ち上げたクラウドファンディングでは、約500万円の支援金を集めました。また、SHIONOGIグループの一般用医薬品を販売しているシオノギヘルスケアとは薬の情報や開封方法を視覚的・触覚的に伝えるユニバーサルパッケージへの変更に取り組みました。製品の説明を多言語に翻訳し、音声読み上げで理解を助けるQR Translator技術を利用した「アクセシブルコード」を、デボス加工を施して印刷し、高齢者や視覚障がい者、外国語を主に使用する方々にも使いやすい仕様にしています。
プロジェクトのきっかけは2015年、当時海外事業本部に所属していた野口万里子さんの呼びかけで聴覚障がいについて学ぶために有志で集まった従業員で開いた勉強会でした。
野口さんは生まれつき聴覚に障がいがあり、耳が聞こえません。相手の口の動きを目で見て内容を理解し、自分も言葉を話して伝える「口話」という方法で、コミュニケーションを取っています。医師だった祖父の影響を受け、製薬会社への就職をめざしたそうです。
勉強会で、野口さんはこんなエピソードを紹介しました。
座薬を処方された聴覚と視覚に障がいがある子どもが薬局で、「座薬をもらったので、座って飲みました」と話したというのです。この話に衝撃を受けた従業員たちは、医療現場での困りごとを解決していかなければならないと発足当時に強く認識したといいます。今はインターネットやSNSなどの発達によって情報へのアクセスは向上してきていますが、緊急時の電話連絡など苦労する場面もあるようです。勉強会の内容を見た上司は、「勉強会でとどめておくにはもったいない、社内での普及啓発活動につなげよう」と提案、翌年に社内プロジェクトが発足しました。
プロジェクトでは、聴覚障がいのある人とのコミュニケーションをより良くするための手段は何か検討を重ねた結果、「UDトーク」を導入することになりました。UDとは「ユニバーサルデザイン」のこと。音声認識と音声合成機能を使って、会話をリアルタイムでテキスト化するアプリです。1対1だけでなく、大人数での会話や会議でも活用することができます。
また、聴覚に障がいがある人について、医療関係者にも理解を深めてもらうための取り組みもしています。聴覚障がい者が病院などでコミュニケーションを取りやすいように、カードにメッセージを書いた「しおりカード」や、聴覚障がいがある子ども向けに、服薬についての知識や情報を提供するポスターなどを作成しました。ほかにも、お年寄りや子ども、外国語を話す方々にも聴覚障がいについて理解しやすいように、マンガやイラストを活用したパンフレット製作や、YouTubeの動画コンテンツにバーチャル社員「シオノギカナデ」の手話歌を配信するなどして、幅広く知ってもらうための工夫を続けています。
障がいの当事者でもある野口さんは、「聴覚障がいにも聞こえない人、先天性難聴、中途難聴などさまざまな障がいがあり、困難の程度や必要なコミュニケーションはそれぞれ違い、ニーズや対応方法は一様ではありません」と言います。「でも、『コミュニケーション環境を良くしたい』という思いは、どのケースでも共通している。正確な対応をしようとするあまり一歩踏み出せないことよりも、勇気を出して一歩踏み出しましょうと、従業員のみんなには伝えています」
プロジェクトは大きな広がりをみせるとともに、さまざまなシーンで人々に影響を与えています。
聴覚障がいがある人たちからは「病院に行ったとき、『しおりカード』があったおかげで助かった!」、医療従事者からは「聴覚障がいがある方たちとのコミュニケーションがうまくいった」などの声が届きました。医療現場で医療従事者と接する営業職の従業員も、医師などからヒアリングすることでしおりカードのアイデアを思いつくなど、現場の声を活かし、医療従事者とともに課題解決に向かっています。
プロジェクトの意義は、聴覚障がいのある人だけのためではありません。「わかりやすく伝えること」、それはすべての人を助けることでもあります。
たとえば「胃バリウム検査」のポスターは、当初は聴覚障がい者用に、検査の流れを伝えるため作られました。でも、検査についてよく知らないのは健常者も同じ。検査中どのようなポーズを取ればいいのかなどが、ポスターのおかげでわかりやすくなったという感想が、健常者からも寄せられたといいます。一般用医薬品のパッケージデザイン開発にも「わかりやすく伝える」発想が生かされるようになったほか、日常の従業員同士の会話でも早口や略語の使用を控えるといった変化も起きたそうです。「聞こえない/聞こえる」でくくるのではなく、コミュニケーションをサポートすることによってバリア解消、バリアフリーが実現できるのです。
もちろん、課題はまだあります。たとえば、UDトークなどで会話をテキスト化する「情報保障」が図られたとしても、ニュアンスなどのこまかな雰囲気までは伝わりにくいのが現状です。野口さんは会議などの後、ニュアンスや雰囲気を確認するなどの努力をしているそうです。
「このプロジェクトに関われて楽しい」。野口さんは目を輝かせて言います。「今までは聴覚障がいがあると、人間関係の範囲が狭くなってしまいがちだったが、これからはコミュニケーションツールなどを使ってやりたいことを提案したり、発信したりしていきたい」。聴覚にハンデがあっても、周囲の理解と支えがあればコミュニケーションに壁はない――プロジェクトの活動を通じて、野口さんがそのことを示してくれています。
野口さんは「今後はコミュニケーションバリアの解消を通じて、障がいのある人の心理的バリアもなくしていきたい」と話します。また日本で学んだノウハウをいかして、欧米に比べてバリアフリーが遅れている途上国でバリアフリー活動を普及させていきたいという展望を語ってくれました。
同じ聴覚障がいがある人に向けて、野口さんはこうエールを送りました。
「あきらめないで。現在(いま)の環境が厳しいとあきらめがちになってしまうけれど、自分がしたいこと、できることを、周囲の関わりや協力を得ながら、一歩一歩前進していってください」
本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)