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本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)
広告特集 企画・制作
朝日新聞社メディア事業本部
北部、東部、西部の3方を京都市、南部を長岡京市に接する京都府向日(むこう)市は、全国3番目に面積の小さい市ですが、1970年代から、手話通訳者を正規職員として採用するなど、先進的な取り組みを進めてきた自治体のひとつです。市役所内の各職場に手話リーダーを配置し、啓発につとめているほか、マンガや動画を使って市民向けに手話情報を積極的に発信しています。こうした情報発信に取り組む手話通訳士の宮川圭美(みやがわ・たまみ)さんにうかがいました。
向日市では、1978年に初めて手話通訳者が正規の職員として採用されています。これは全国的にも早い動きでした。2016年には「古都のむこう、ふれあい深める手話言語条例」を制定するなど、情報保障に取り組み、現在は正規職員3人、会計年度任用職員1人、計4人の手話通訳士や手話通訳者が市の職員として業務にあたっています。
正規職員の一人である宮川さんは、2016年に採用されました。大学生時代に手話に出会い、手話サークルの先輩たちが手話通訳者の資格を取得していくのを目にしていて、「いつかは自分も」と思うようになったそうです。
夫の転勤で手話通訳ができる人の少ない地域を転々とする中、登録派遣での手話通訳をしていましたが、地元の通訳者でなくても安心してもらいたいと考え、手話通訳士の試験に挑戦、合格しました。
子育てをしながら手話通訳を続け、宮川さんは出身地の京都に戻ることになりました。今までの経験が活かせる仕事を探していたところ、向日市での正規職員の手話通訳者募集があり、採用試験に合格、入職しました。
「正規職員の採用なので、仕事は手話通訳だけではないことがわかっていました。実際その通りでした」と宮川さんは入職当時を振り返ります。
市の業務のため、聞こえない方の命や財産に関わる重要な内容を扱うことも少なくありません。行政の手話通訳には、日常的に手話を使用する聞こえない方の人生を左右しうる内容を扱う難しさやプレッシャーも伴います。しかし、向日市では、宮川さんの他に4人の手話通訳者が働いていて、うち1人は管理職でもあるので、情報を共有して連携しながら業務にあたることで、乗り越えることができました。
「聞こえない方に信頼されているなと実感できたときや、正規職員として、市の施策に手話通訳者の視点が反映できたときに、やりがいを感じます」と宮川さんは語ります。
また、向日市では市役所のすべての課に「手話リーダー」が配置されています。「手話リーダー」になった職員は、毎週一つ、手話の挨拶を覚え、朝礼のときに紹介しています。リーダーは毎年変わることもあり、聞こえない方と接する機会の少ない部署でも手話による情報保障を意識する姿勢が広がっているそうです。
他にも、手話通訳者ではない職員にも手話技術に留まらず、聞こえない方の暮らしの課題も学ぶ研修を開催しています。
自治体にとっては、聞こえない方に向けた意思疎通支援も大切な業務ですが、市民に手話や聞こえない方のことを知ってもらうための情報発信も、欠かせない業務です。
向日市では、2019年にマンガ学部がある京都精華大学(京都市)と協力して、マンガ「HELLO むこうの私-手で心をつないで-」を作成し、市役所やインターネットで販売しています。この作品は、ろう者、難聴者、手話通訳を学び始めた人をそれぞれ主人公にした3章で構成され、聞こえない方の暮らしや手話通訳の仕事の内容を、マンガでわかりやすく紹介しており、市民が手話や聞こえない方のことを知るハードルを下げるのに一役買っている活動です。
また、手話や聞こえない人の生活を市民に身近に感じてもらおうと、担当職員が動画の製作や配信も手掛けています。手話は動きがあるので、写真よりも映像の方が伝わりやすいそうです。市役所の職員による「チャレンジ つながる手話」のほか、買い物や病院といった日常的なシーンを題材に、聞こえない人の困りごとやインタビューの動画などを60本以上を配信しています。
また、新聞やテレビで見る文字と手話の意味が結びつきにくい場合もあります。特に新型コロナウイルス感染拡大期には、「三密」など新しい用語もたくさん登場しました。そのため職員が出演して感染対策を訴える手話動画を急きょ作成し、活用したそうです。
「聞こえに障がいのある方だけでなく、全ての人々がお互いを尊重し、分かり合い、心豊かに安心して暮らすことができるふるさと向日市」――これが向日市の目指すまちの姿。宮川さんは手話通訳士として、向日市職員として、これからも障がい者支援に取り組み続けたいと、考えています。
「習い事の一つであったり、聞こえない方と話してみたいと思ったりすることが、手話を学ぶきっかけになると思います。手話を通して、聞こえない方の生い立ちや経験が人それぞれであることや、いまの社会が抱えている課題などを勉強していくことになります。そうした経験を通して、聞こえない方に関わる仲間が一人でも増えていけばうれしいですね」
本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)