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 朝日新聞社メディア事業本部

手話との出会いが自分を変える~知ることで「世界が広がる」白山市の取り組み

石川県は県内の7割を超える自治体に手話通訳者が配置されています。厚生労働省のデータ(令和2年度)によれば、全国の都道府県内で7割以上の自治体に手話通訳者が配置されているのは7府県だけで、石川県は手話に関する取り組みが進んでいる地域のひとつです。中でも白山市は、1998年に県内で初めて手話通訳士を正職員として採用するなど、積極的な施策を進めてきました。手話通訳士として健康福祉部障害福祉課課長という管理職もつとめる堀口佳子さんと、同じく手話通訳士で市職員の長谷川智美さんに、手話通訳事業の成果などについて、お話を伺いました。

市民にも手話を知ってもらう取り組み、駅前あおぞら手話講座

石川県の県庁所在地である金沢市の南西部に位置する白山市は、2005年に1市2町5村の合併により誕生しました。日本海から手取川上流の山間部まで広がる県内最大の面積を有する市です。手話への取り組みは、1998年、旧・松任(まっとう)市が地元の聴覚障害者団体の要望に応える形で、手話通訳士を採用したことから本格化しました。正職員としての採用は、全国的にも早い取り組みだったそうです。

――現在、白山市では手話通訳士のみなさんはどのように働いているのでしょうか。

堀口課長(以下、堀口):手話通訳士の資格を持つ職員は正職員3人、会計年度任用職員が2人おります。手話通訳士は手話通訳の専門職ではなく、一般職の採用なので、手話通訳以外の業務も担います。日常業務の中で聴覚障害に関する仕事は2割程度です。

――手話通訳に関して、どのような事業を行っていますか。

堀口:まずは、1999年から始まった市議会本会議での手話通訳ですね。議会開会中は3名で手話通訳し、地元のケーブルテレビ局で中継しています。また、手話講座を開催しても、手話に興味のある方以外はあまり来ていただけないこともあり、広く市民の方にも手話と接してもらおうと、多くの人が行き交う駅前で「駅前あおぞら手話講座」を年に1~2回開催しています。聴覚に障害のある方に講師になっていただき、市内の金城大学手話サークルの学生さん達にも協力してもらい、手話にふれる機会を作っています。

――聴覚に障害のある方々の支援だけではなく、市民のみなさんにも手話を広める活動をされているんですね。

堀口:ほかにも市民団体や学校から依頼を受けて、手話講座を開催することもあります。小学校の総合学習の一環で行う場合が多いです。

庁内や議会での理解を得て、「あさがおハウス」開設へ

――手話通訳士が市職員であることで、手話通訳事業にどのような影響がありますか。

堀口:手話通訳士が職員としていることで、市のサービスを受ける際に合理的な配慮ができるほか、支援時に関係各所と迅速な連携ができます。また、障害福祉課では毎朝朝礼で手話のミニレッスンをしており、手話通訳士以外の職員も手話で簡単な応対ができるようになっています。その上で、市職員で手話通訳がいることで庁内での理解が進む、聴覚障害に関する施策を立てやすくなるなどのメリットが生まれています。その結果、2021年10月に聴覚に障害のある方を対象にした地域活動支援センター「あさがおハウス」を開設することができました。ここでは生活訓練や創作・レクリエーション活動ができるほか、困りごとを相談することも可能で、聴覚に障害のあるみなさんの居場所、憩いの場となっています。ほかの障害を持つ方にも広げていけないかと考えています。

白山市健康福祉部障害福祉課課長の堀口佳子さん

手話通訳の必要性を感じ、手話通訳士を目指した

――堀口さんと長谷川さんが手話に関わったきっかけや、仕事のやりがいをお聞かせください。

堀口:最初は要約筆記に興味があり、講座を修了して、ボランティアとして活動していましたが、手話も習得したいと思うようになりました。活動の場では、ろう者が多く、手話がわからないとコミュニケーション自体が難しかったからです。資格取得後、白山市が手話通訳士の募集をしているのを知り、応募しました。ボランティアとしてできる支援には限界があります。市職員になって、課題解決のための施策に関わり、聴覚に障害のある人の生活や手話通訳の業務環境を整備し、理解を進めていく仕事もできるようになりました。「あさがおハウス」の利用者の笑顔や、職員の手話スキルの向上を目にしたときは、うれしく思います。

長谷川さん(以下、長谷川):以前、幼稚園教諭をしていたとき、聴覚障害のある園児と出会い、手話の必要性を実感し、手話サークルに通い始め、後に手話通訳士を本格的に目指しました。白山市の手話通訳士の募集を目にしたとき、45歳だったので正直迷いました。しかし、手話通訳士は基本的に人手不足であることを知っていたので、思い切って応募しました。職員となってからは、聴覚に障害のある方々に支援できることが増えたので、やりがいを感じています。

手話で応対する長谷川智美さん

――手話通訳事業における課題について、教えていただけますか。

堀口:手話通訳士のなり手が少ないことですね。手話は一つの言語なので、習得は当然難しく、資格試験の難易度も高い。高い専門性を求められるのですが、それに見合った報酬とはいえないこともあり、手話通訳士を目指す人が少ないのが現実です。白山市の手話通訳士公募も年齢制限を引き上げて対応しているのが実情なので、やはり手話通訳士を目指せる環境作りが必要だと感じています。

手話を第2言語として、世界が広がる楽しさを知ってほしい

――最後に、手話を学びたいと考えている方、手話通訳士に興味のある方へ、メッセージをお願いします。

堀口:手話を習得すれば、自分にとっての第2言語となります。それにより、新しい世界を発見できます。私自身も手話に出会ってから、自分自身が変わっていったという実感があります。そのような経験を若い人達にもぜひ体験してほしいです。

長谷川:手話を習得することで、今まで自分が知らなかったことをたくさん知る機会ができます。そういった出会いによる刺激は大きいので、ぜひ手話通訳士を目指してください。

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本事業は、意思疎通支援従事者確保等事業
(厚生労働省補助事業)として実施しています
(実施主体:朝日新聞社)