連載
#4 未来空想新聞
産後ケアリゾート? 新概念のホテルがあなたの街にも当たり前に
ホテルプロデューサー・龍崎翔子さんに聞く未来のホテルと社会
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「ホテルは街と人と文化をつなぐメディアである」として、金沢のホテル「香林居」や「HOTEL SHE,」ブランドなどを展開している株式会社L&G GLOBAL BUSINESS。大学在学中に起業したホテルプロデューサー・龍崎翔子さんに、2039年のホテルと社会を想像してもらいました。
出産後の母親を心身ケアして回復へ導き、家族が自信を持って育児に取り組めるようにするための産後ケアリゾート「HOTEL CAFUNE」。これまで多くを家庭内労働力に頼ってきた「育児」にも新しい選択肢をつくり、家族にとって心地よい時間と生活をデザインしていこうと、2022年5月にサービスが開始されます。生みの親の龍崎翔子さんは、2039年には産後ケアリゾートが“当たり前”になって、全国に1000拠点展開――。そんな未来を思い描きます。
「ホテルにはメディアとしての側面があります。つまり、人がその空間の中で長時間生活することで、その人の生活をコーディネートする可能性があったり、その人が普段接しないような人やモノと出会う可能性があったりすると思っています。そのハーフパブリックな性質を生かしたホテルプロデュースをしてきました」。龍崎さんはホテルの役割についてそう話します。
そもそも龍崎さんがホテルをプロデュースしようと思った原体験は8歳のとき。父親の仕事の都合で、半年ほどアメリカに住んでいましたが、帰国時に家族で1カ月間のアメリカ横断の旅をしました。毎日十数時間、ドライブをするのは退屈で、唯一の楽しみはホテル。どんなホテルなのだろうとワクワクしましたが、どこのホテルも代わり映えしませんでした。
19歳のときに母親と起業。斬新で大胆な発想で、ホテル業界に新風を吹き込みました。「街の空気感や文化は全然違うのに、1日の長い時間を過ごす空間からはそれを感じることができない。自分が自分を楽しませるホテルをつくりたいと思ったんです」。アメリカでの原体験が龍崎さんの思いにつながりました。
龍崎さんは「自分一人だけでとは思っていなくて、同時期に活動していたホテルプレーヤーの方々とともに築いてきたこと」という前置きはありつつ、業界を二つの意味でアップデートしたと自負しています。
一つは、ホテルを楽しむ年齢層を下げたこと。それまで「ホテル巡り」を趣味とするのは、ラグジュアリーな大人たちが主体でしたが、龍崎さんは「大学生や高校生でもカフェ巡りをするような感覚でホテルを楽しめるようにしました」。
もう一つは、情報発信。OTA(実店舗を持たないインターネット取引のみの旅行会社)での集客ではなく、客自身に主体的にホテルを選んでもらいたい。そのため、SNSを駆使し、ホテルが持っている価値や届けたい体験を言葉にして、自ら紡いできました。龍崎さんが手がける「HOTEL SHE,」はその先駆け的存在だったと言えます。
龍崎さんはホテルプロデュースのやりがいをこう語ります。「世の中にあったらいいなと思うものを発見して、設計して、届けていくことが私たちの役割。私たちのサービスが誰かの新しい選択肢になったり、スタンダードになったりしていくことがうれしいですね。数年前に自分が頑張ったことが、時を経て、クラシカルなものになっていく。それはとても価値があることですし、面白いなと思います」
「HOTEL CAFUNE」もきっかけは「あったらいいな」という思いでした。「誰もが自分が子どもを産んだときにどこの産後ケアに入るか悩むことができる状態を作りたいんですよね。エリートだけでなく、社会的な支援が十分でないかもしれない人たちも含めて。結婚式を挙げるとか、テーマパークに行くくらい誰でも当たり前にとれる選択肢として、産後ケアが普及していてほしい」
龍崎さんは「家庭内労働で担ってきた産後ケアや子育てを、より良いサービスをホテルが提供することで代替させたい」と話します。さらに、ホテルの持つ「ハーフパブリック」な性質を引き出し、「ご近所さん」といったかつて地縁共同体が果たしていた役割を「ホテル」の新たな姿として見据えます。
「まだ妄想段階ですが、『泊まれる児童館』も考えています。どちらも学校の先生みたいに定期的に会えるような」。共同体の再構築――「箱ビジネス」を超えたホテルの将来に、龍崎さんの夢は広がります。
龍崎さんが、これからの未来を担う子どもたちに伝えたいことは「自分をよく知ること」です。「自分自身が何に喜び、何に悲しみ、何をイケてると思い、何をダサいと思うか。その自分の感覚を客観的に理解することを大切にしてほしいです。自分自身を救うことが、回り回って世の中の人を救うことにもつながると私は思うので」