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コラム

人間観察と激しいぶつかり合い たたかう三味線が情念を表現する

PR by アーツカウンシル東京

目次

日本が誇る文化や芸能を、国内外に広く発信するアーツカウンシル東京は、
2020年に向けた文化の祭典『Tokyo Tokyo FESTIVAL』の一環として、
三味線の重要無形文化財保持者(人間国宝)・鶴澤清治さんの公演を開催する。
「鋭い」「攻撃的」とも評される太棹三味線の演奏は、世界に誇る日本の至芸。
命を吹き込まれたかのように人形たちが演じる物語を義太夫節とともに、豊かな音色で表現する。
文楽三味線
鶴澤清治さん
SEIJI TSURUZAWA
1953年四代鶴澤清六に入門、鶴澤清治と名のる(8歳)。翌年四ツ橋文楽座で初舞台。
64年十代竹澤弥七門下となる。76年から四代竹本越路大夫を弾く。
2007年重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定され、三味線弾きとしての最高格「三味線格」になる。
14年日本藝術院会員。

三味線と太夫のかけ合いが 観客を物語に引き込む

 美しい人形の繊細な心情を、三味線の音階、撥の強弱・緩急が雄弁に語る。初めて文楽を見る人は、隙なく完成された世界に圧倒され、釘付けになるだろう。江戸時代の初めに生まれた人形浄瑠璃は、人形遣い、義太夫節、三味線が「三業一体」となる総合芸術として人々に愛され、幕末に人気のあった一座の名前から「文楽」と呼ばれるようになった。その高い音楽性を担っているのは、三味線の中でも最も大きく力強い「太棹」の重厚な音色だ。単なる伴奏ではなく、そこでは人形の傍らで義太夫節を語る、「太夫」との絶妙なかけ合いが繰り広げられている。

 「僕は、太夫とは激突しなければいけないと思っています」と、鶴澤清治さんは語る。調和ではなく、ぶつかり合うとはどんな演奏だろうか。「太夫には太夫の表現があり、三味線にも独自の表現がある。どちらかが合わせにいくと、お互いを殺してしまうんです。二人が競い合って、パッとぶつかり、結果的にいい間合いのバランスが生まれるのが理想です」

 互いの力を絞り出す。その妥協しない姿勢は、30代のときに重鎮・四代竹本越路大夫さんに抜擢されて弾き、13年間、厳しさに付いていくなかで養われたという。
 「越路大夫さんの語りに少しでも合わせにいくと、まとわりつくな!という感じで否定されました。もちろん、バラバラではいけないんですが、フレーズのなかで、語りと三味線がお互いに揺れながら進んでいくことで、いい演奏になるんです」

 そのバランスの妙が鮮明に感じられるのが、人形を入れずに演奏する「素浄瑠璃」だ。太夫と三味線の間に流れる緊迫感は、心地よい間合いのズレやリズムの揺れとなって、観客を物語の世界へと引き込む。今回の演目「日本振袖始 大蛇退治の段」も然り。
 「難曲ですが構成がすばらしい。十四、五歳の時に弥七師匠の演奏を聞いて衝撃を受け、挑み続けています」
 当時を代表する名人であった十代竹澤弥七さん(72年人間国宝に認定、76年に死去)を敬い慕う気持ちが、迫力ある舞台へと向かわせている。

衝動殺人のリアリティー 心を入れる演奏から

 もう一つの演目は、現代美術家の杉本博司さんと組んだ、斬新な「女殺油地獄」。江戸時代の不良青年による強盗殺人事件を基に、近松門左衛門が脚色した世話物で、油まみれの殺人シーンがクライマックスだ。杉本さんによる舞台美術には、人形遣いの足元を隠す「手すり」がない。新たに鶴澤さんが作曲した「殺しのテーマ」のスリリングな三味線が物語の始まりを告げ、暗闇のなかでお吉と与兵衛が浮かび上がる。従来の様式にとらわれずに人間の身勝手さや衝動を描いた舞台は、初演時に文楽ファン以外の層を引きつけた。

 「近松物には知性を感じ、ひかれますね。登場人物の心の動きに飛躍がなく論理的なんです。今の人も理解しやすいでしょう。僕は、悪人の与兵衛のなかにも1%の言い分があるんじゃないかと考えています」
 そうしたストーリーの解釈、感情移入は演奏にも表れる。
 「普段から人間観察ができていないと、三味線弾きの力である〝ノリ〟や〝間合い〟は生み出せない。五線譜に何拍と書き表わせるものではないんです。技巧は練習して身につけられますが、一番大切なのはその心です」

 名人と言われた先人は次々にいなくなり、その芸を知る世代も移り変わった。未来のため、世界への発信のために受け継ぐべきものとは何だろう。
 「僕らはいつも〝筒いっぱいにやれ〟と言われました。自分の体にある力を目いっぱい出すという意味です。義太夫は格好つけて、楽に聞かせるものじゃない。無理をして力を振り絞って、ひきつるような思いをして恐れずにやるもの。僕は、それを見せるためにも、力の続く限り心を入れて弾きます」

 文楽ファンはもちろん、これまでなじみのなかった人も、魂のこもった三味線が堪能できるだろう。
 
 東京芸術祭2019 特別公演  本物の芸に酔う
近松二題 鶴澤清治の芸
 
[演目]日本振袖始  大蛇退治の段/杉本文楽  女殺油地獄
〈日時〉11月28日(木)19時開演(18時開場)〈会場〉LINECUBESHIBUYA(渋谷公会堂)〈料金〉S席5,500円、A席4,000円、学生(A席)3,000円(税込み)〈チケット販売〉イープラス https://eplus.jp ほか〈主催〉公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京〈助成・協力〉東京都
■制作・お問い合わせ NHKエンタープライズ内事務局 TEL.03-5478-8533(平日10:00〜18:00)
■公式HP https://chikamatsu2019.com
 
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