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コラム

古典から現代に聞こえてくる 『平家物語』を生きた人々の魂の声

提供:アーツカウンシル東京(東京都歴史文化財団)

目次

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

 平家の鎮魂のために琵琶法師たちが語り継いだ『平家物語』の冒頭のフレーズを知らない日本人はいないだろう。

 800年を超えてなお愛される物語の魅力を、琵琶、講談、舞踊という異なるジャンルから光を当てて読み解くことで、それぞれの『平家物語』に出会えるはずだ。

物語に登場する人々の思いを 時代を超える表現で伝えたい

尾上流 四代家元
尾上菊之丞さん
KIKUNOJYO ONOE
1976年、東京都出身。2歳から父・尾上墨雪に師事し、5歳で初舞台。90年に尾上流・尾上青楓の名を許され、日本舞踊家として活動を開始。歌舞伎の振付を行い、ラスベガス歌舞伎、アイス・スケート歌舞伎を手がけるなど、古典芸能を現代に生かすことに力を注ぐ。

平家の雅と滅びの美しさを 琵琶の音色で届けられたら

薩摩琵琶奏者
友吉鶴心さん
KAKUSHIN TOMOYOSHI
1965年、東京都出身。3歳から日本舞踊をはじめ、様々な伝統芸能を学ぶ。薩摩琵琶の発展を志し、鶴田錦史に師事。文部大臣奨励賞、NHK会長賞他、多数受賞。NHK大河ドラマなどで琵琶指導、出演、芸能考証などを手がけ、様々なジャンルの音楽とのコラボレーションも行う。

美しくもの悲しい登場人物の声と魂

 平家一門の栄華から滅亡までを描いた『平家物語』には、日本の歴史の中に実在した人物が多く登場する。親子、主従、恋人、敵味方などの人間関係やそこから生まれる生と死、愛と別れの物語は、日本人の心を捉え、古典芸能の名作を生み出してきた。
 そんな『平家物語』を題材に、琵琶、講談、舞踊における旬の演者が一堂に会し、それぞれによる『平家物語』が表現されるのが、年明け1月17日(木)に世田谷パブリックシアターで開催される「『平家物語』の世界〜日本人の心をうつす古典芸能〜」だ。
 時代を超えてなお人の心を捉えてやまない物語の魅力を、日本舞踊尾上流四代家元の尾上菊之丞さんと薩摩琵琶奏者の友吉鶴心さんはこう語る。

 

菊之丞さん

「『平家物語』は源氏と平氏の戦いの話なので、命の奪い合いや生きるか死ぬかの瀬戸際が書かれている場面も多いです。しかし、そこから読み取れるのは人間の生と死の生々しさだけではなく、どこか奥ゆかしい魂の声が聞こえる。日本人の美意識を肌で感じることのできる作品なのではないでしょうか」

 

鶴心さん

「菊之丞さんがおっしゃる、魂の声とは、まさにその通りだと思います。『平家一門でない者は人間でない』と時忠が述べたほど、栄華を極めた平家がわずか20年ほどで源氏に追い立てられて滅んでいく。滅んだ平家への鎮魂と滅びの美しさが今も私たちの心を打つのです」

 口承文学の源流に位置している『平家物語』は、琵琶法師が琵琶の音に乗せて語り、その無常の物語に、武士や貴族はもちろん、文字を読めない民衆も耳を傾け、登場人物たちに思いを馳せてきた。

 

鶴心さん

 「琵琶というシンプルな楽器と人の声だけで物語を歌うことで、琵琶法師たちは聴く人々の想像力を搔き立て、物語の中に生きた人々とその情景を目の前に蘇らせてきたのでしょう。私も師匠に教わったことを忠実に表現し、平家の末裔として、先祖と対峙しながら演奏しています」

それぞれの芸から見る『平家物語』の魅力

 今回の公演では、この日のために菊之丞さんと鶴心さんにより作られた舞踊と琵琶の新曲「忠度(ただのり)」も披露される。平忠度は、清盛の弟で和歌の名手。平家滅亡への大きな鍵となった「一ノ谷の合戦」で戦死するが、戦に赴く際にわざわざ引き返して藤原俊成に自分の和歌を預けていく。戦場に向かうこと、そして自分の和歌が勅撰和歌集に残るもそれが読み人知らずとされていることへの無念が琵琶と舞踊で表現される。

 

菊之丞さん

「『平家物語』は、どのエピソードを抽出しても芸能になり得ます。登場人物の一人ひとりはもちろん、その後ろにいる父母や兄弟、恋人や結婚相手など、全ての人に物語があります。忠度の物語も、友吉さんの琵琶に身を預けて、舞踊ならではの佇まいや所作で目の前に死があるというその刹那的なもの、そこにある広がりや奥行きを表現できたらと思っています」

 

鶴心さん

「『平家物語』には和歌がたくさん登場し、平家が貴族の名残であり、和歌を詠む雅な心を大切にしていたことがうかがえます。その代表的な存在が忠度なのではないでしょうか。彼は戦場でも鉄漿(かね)で歯を染め、公達であることに誇りを持っていました。そんな忠度の雅な心と悲しい運命とを菊之丞さんの舞踊で見ることができるのを私も楽しみにしています」

 日本の伝統芸能を背負って立つ、旬の若手が競演する本公演は、『平家物語』の世界を、それぞれの芸の世界観から触れることができるのも魅力だ。

 

菊之丞さん

「『静と知盛』を踊る尾上右近さんは歌舞伎界で注目の若手です。20代の彼は、今肉体的にも精神的にも右肩上がりで華があります。歌舞伎とはまた違った彼の魅力を見てもらいたいですね。私は、伝統芸能を今の時代に、面白い、かっこいいと思ってもらえるような入り口を作ったり、ナビゲートしたりすることも、これからの大切な役割だと考えています」

 

鶴心さん

「講談師の神田松之丞さんも非常に勢いのある演じ手ですね。きっと『平家物語』の世界へ、お客様をぐいぐいと引き込んでくれると思います。今回のプログラムでは、講談ならでは、舞踊ならでは、琵琶の演奏ならではの『平家物語』を味わえるだけでなく、伝統芸能の ”今”を感じていただけるはずです」

華麗な競演は、どんな『平家物語』を見せてくれるのか──。一夜限りの物語に期待が高まる。


〈主な出演者〉
友吉 鶴心(薩摩琵琶奏者)
神田 松之丞(講談師)
尾上 菊之丞(日本舞踊・尾上流四代家元)
尾上 右近(歌舞伎俳優)
『平家物語』の世界〜日本人の心をうつす古典芸能〜

『平家物語』の登場人物たちの生と死、愛と別れの物語は日本人の心に響き、古典芸能の名作が数多く生まれている。琵琶、講談、舞踊の分野で今最も旬な古典芸能の実演家が『平家物語』の世界へと誘う。

〈日時〉2019年1月17日(木) 19:00開演
〈会場〉世田谷パブリックシアター(東京都世田谷区太子堂4-1-1)
〈料金〉一般:4,000円、学生:3,000円(全席指定、税込み)
 ※前売券(一般・学生)は完売いたしました。当日券情報については、公式サイトをご覧ください。
〈主催〉アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
〈助成・協力〉東京都

■お問い合わせ NHKエンタープライズ内事務局
TEL.03-5478-8533(10:00〜18:00、土・日・祝日を除く)
■公式ホームページ http://heike2019.com
 
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