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エンタメ

芥川賞作家、綿矢りさと村田沙耶香が妄想とリアルの恋を語り尽くす

提供:ファントム・フィルム

目次

 第30回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品され観客賞を受賞した映画『勝手にふるえてろ』。恋愛経験のない主人公が憧れの恋と現実の恋に悩み暴走する姿を映画初主演の松岡茉優さんが演じたスピード感あふれるラブコメディーだ。原作者の綿矢りささんと綿矢さんの友人であり、原作の大ファンだという作家の村田沙耶香さんが妄想と現実の恋、映画と小説それぞれの魅力について語った。

痛くてヒリヒリしてそしていとおしい主人公

 村田 主人公ヨシカのつらくて苦いヒリヒリとした思いとその恋の「痛み」に強いインパクトを受けました。りさちゃんの小説の中でも大好きな作品です。映画では、私の好きな、そんなヒリヒリ感が生きた上で、原作にはない明るさがあると感じました。
 綿矢 登場人物の多い小説ではないので、映画化のお話をいただいたときに、正直どうなるんだろうという思いはありました。でも、原作には登場しない街の老若男女、片桐はいりさんのオカリナさんや古舘寛治さんの釣りおじさんがヨシカとヨシカを取り巻く世界を明るくしていて、すごくすてきだなって。
 村田 ヨシカがずっと思い続けている「イチ」への切実な片思いって、誰でも「わかるわかる」ってなるんじゃないかな。ただみんな、ヨシカほど純粋じゃない。だから、年齢を重ねていろんな恋愛をして、それが肉体や生理的なものとリンクしてくると、心で崇めていたヨシカにとってのイチ、つまり神様のような存在もぼんやりしてきて、そのうちに封印しちゃう。
 綿矢 小説では、ピュアなまま腐ろうとしている痛い片思いの、ネガティブな部分を描いたのですが、松岡茉優さんの演じるヨシカは、すごく生き生きとしていて。私の中にいたヨシカから、面白さとかわいらしさを引き出してくれていて、うれしかったです。
 村田 あと、原作の中のヨシカより映画のヨシカは「毒」の部分が印象的でした。嫌な時はあからさまに嫌な顔をして啖呵を切る。見ていてスカッとします。生理的嫌悪感を表現するのに、指の先まで演技できる女優さんってすごいなと魅了されました。

恋の魔法=突然の発作 甘さも痛さも突きつける

 綿矢 少女漫画では「憧れの人」と「好きでいてくれる人」の間で心が揺れる設定って鉄板ですよね。でも現実にはすごくモテる人でない限り、そんな状況がゴロゴロ転がっているはずもなく──。実体験はほとんどないけど、ヨシカの実感は、90%くらい私の実感だと言えます。
 村田 小学校の頃の私には、ヨシカにとってのイチみたいな人がいて「きっとずっとこの人を好きでい続けるんだ」と信じていたことがありました。
 綿矢 その他大勢だった人を、どんなきっかけでそこまで思えるようになるの?
 村田 発作みたいなものだよね。私の場合は小学校3年生くらいの時に指で輪ゴムを飛ばす遊びがうまくできなかった時に、後ろからハグするようにそのコツを教えてくれた子がいて、その瞬間、その人の全部が好きになっちゃった。靴ひもがほどけていても、寝癖がついていても、何もかも好き、みたいに。
 綿矢 わかるなあ。恋すると瞳孔が開くのか、好きになった人が本当にキラキラ輝いて見える。でも、私は沙耶香ちゃんみたいに好きな人を全肯定することがなかなかできない。好きだけど、ここは譲れないなって。面倒臭い人間なんです。
 村田 肯定すればいいってものでもないと思うよ。りさちゃんの恋愛観は、大人なんだと思う。
 綿矢 でも全部肯定して、その気持ちにザブンと浸れたら、気持ちいいのかなって。
 村田 恋愛の快楽という意味では、好きになった人を神格化して、架空の部分を見ているだけの方がラクだし、気持ちいいのかもしれない。でもこの作品は、妄想の楽しさと現実の痛さを両方突きつけてきます。ものすごい勢いで。
 綿矢 いま恋をしている人も、これから、突然発作を起こすかもしれない人も、絶賛脳内片思い中の人も、作品を見てハッとして、見た人それぞれが違う何かを受け取ってくれたらうれしいです。
 わたや・りさ/1984年京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒業。2001年『インストール』で文藝賞受賞。04年、早稲田大学在学中に『蹴りたい背中』で芥川賞受賞。ほかに『かわいそうだね?』『夢を与える』『ひらいて』『大地のゲーム』など。
 むらた・さやか/1979年千葉県生まれ。玉川大学文学部芸術学科卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞優秀作。16年『コンビニ人間』で芥川賞受賞。ほかに『しろいろの街の、その骨の体温の』『マウス』『星が吸う水』『殺人出産』『消滅世界』など。

『勝手にふるえてろ』STORY

 24歳のOLヨシカは中学の同級生「イチ」へ10年間片思い中! そんなヨシカの前に、突然、暑苦しい会社の同期「ニ」が現れ告白される。「人生初告られた!」とテンションがあがるも、ニとの関係にいまいち乗り切れないヨシカ。ある出来事をきっかけに「一目でいいから、今のイチに会って前のめりに死んでいこうと思ったんです」と思い立ち、同級生の名を騙り同窓会を計画。ついに再会の日が訪れるのだが・・・。
 “脳内片思い”と“リアル恋愛”の2人の彼氏、理想と現実、どっちも欲しいし、どっちも欲しくない・・・。恋愛に臆病で、片思い経験しかないヨシカが、もがき、苦しみながら本当の自分を解き放つ!! ラブコメ史上最もキラキラしていない主人公の暴走する恋の行方を、最後まで応援したくなる痛快エンターテイメントがついに誕生!!

映画『勝手にふるえてろ』公式サイトです。12月23日(土)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー。

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