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三菱商事やめてバスケ界へ復帰したわけ 「今」を選び続けるキャリア
桂葵さんインタビュー【キャリア編】
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桂葵さんインタビュー【キャリア編】
バスケのエリート街道を歩みつつ、大学卒業後は総合商社への就職の道を選んだ桂葵さん。しかし「バスケが好き」という思いが募って競技へ復帰し退職。3x3のチームを発足させたり32歳で女子バスケWリーグでのデビューを果たしたりと、異色のキャリアを歩んでいます。アスリートに限らず、ライフイベントに悩みがちな30代。桂さんはどう向き合ってきたのでしょうか。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)
◇桂葵(かつら・あおい)さん◇
1992年生まれ。身長182センチ。父の転勤にともなって福岡、千葉、ドイツ、仙台、愛知、東京で育つ。小4でバスケを始め、中学卒業後は故・井上眞一コーチの誘いをきっかけに桜花学園へ進む。早稲田大で4年次にはインカレで優勝し、MVPも受賞。卒業後は三菱商事で勤務したのち、退社して3x3チーム「ZOOS」を設立。2024年にはWリーグ入りし、現在はトヨタ紡織サンシャインラビッツに所属。ポジションはパワーフォワード。
現在女子バスケWリーグでプレーする桂さんは、バスケの名門、桜花学園や早稲田大で活躍しました。
しかし、卒業後の進路に選んだのは企業への就職でした。
「バスケを続けても、選手としての成長はあっても価値観がぶっ壊れるような出会いはないだろうって思ってたんです」
就活では70人以上へのOB・OG訪問をして、総合商社など複数の企業から内定をもらい、三菱商事に入社しました。
入社後は原料の貿易や社内ベンチャーの活動、欧米の食品会社の経営管理などに携わり、3年間は完全にバスケから離れた生活を送っていました。
しかし、バスケを好きなまま競技から離れていた桂さんは「またやりたくなってきた」と当時を振り返ります。
「ただ、同じ5人制でプレーすれば過去の自分と比べてしまうし、ちょうど国内リーグが立ち上がる話が出ていたので、3x3をやってみようと思いました」
3x3とは各チーム3人の選手が従来のバスケコートの半分のサイズのコートで対戦するもので、オリンピックでは東京五輪から正式種目になりました。
「仕事をしながら世界を目指せることに魅力を感じていました。だから最初はまさか自分が会社を辞めるほどのめりこむとは思っていませんでした」
3x3のチームに所属してバスケの世界に復帰したところ、久々に感じる「成長」の感覚にやみつきになりました。
「自分がうまくなってると感じられることって、大人になってからは珍しいじゃないですか。いざトレーニングを始めたり練習量を増やしたりするとすごく成長を感じられて、自分はどこまで上手になれるんだろうとたまらなくわくわくしました」
バスケを続けても、得られるのは選手としての成長だけ――。そう考えてバスケを辞めたはずが、その「成長」に今度は魅力を感じるようになっていました。
そして3x3を始めてから4年後、7年勤めた三菱商事を退社して、2022年に3x3のチームを運営する「ZOOS合同会社」を立ち上げました。
大企業を辞めてまでチームを立ち上げたことには、いくつか理由がありました。
ひとつは3x3のチームメートだった8歳年上の前田有香さんを早く世界に連れて行きたかったこと。もうひとつは自身のライフイベントの可能性を考慮したことでした。
「当時は結婚とか出産とか全然分かりませんでした。けど、35歳からは高齢出産とも言われるなかで、もし子どもがほしくなったら33歳くらいから焦り始めるかもと思いました」
「29歳の当時の自分が何も考えずに過ごせるのはあと3年くらいだと考えていて。大げさに言うと、あと3年しか生きられないとしたらどんな生き方をするかと自分に問うたんです。すると『バスケットがしたい』っていうのが強い答えでした」
ZOOSは、2023年には「FIBA 3x3 Women's Series」の大会で優勝。チーム運営のほかにも、3x3の大会を開催したり、アパレルブランドを展開したりと幅広く活動しています。
そして今、実際に迎えた33歳で桂さんが手にした感覚はむしろ、「自分の人生がどんどん楽しくなっていく」というものでした。
「3年間の猶予を過ごし終えてみたら、年齢の区切りなどは関係なく、どんどん楽しくなっていきました。当時の私には『そんなにおびえなくても今ちゃんと楽しいよ』って伝えられます」
「出産はもちろん自分がしたいと思ってできることじゃないから楽観的に捉えているわけではないんですが、ちゃんとそれも考えて『今』を選んでいます」
ZOOSの活動と並行して桂さんは2024年、高校の先輩にあたる大神雄子ヘッドコーチの誘いを受けて、Wリーグのトヨタ自動車アンテロープスに加入。
32歳で5人制バスケに復帰し、Wリーグデビューを果たすことになりました。
「私みたいな人間がこうやってリーグに受け入れてもらえるのはすごくありがたいです」
とはいえ、「特段、こういう生き方を推奨したいわけではない」とのこと。
大学卒業後、Wリーグに魅力を感じて競技を続けていたら?あるいは海外のリーグに挑戦する選択肢も本当はあったのでは?
過去の自分の選択をそう振り返ることもあるからこそ、これからの人々の選択肢にポジティブな影響を与えたいと考えています。
「どんな年代でも新しい選択肢に出会えたり、何かが少し変わったりする中でよりよい生き方が見つかるかもしれない、というのがZOOSのコンセプトです」
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