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話題

つぶされないためにバカなことしよう 国内最古・京大吉田寮のお祭り

「吉田寮祭に密着してみた」前編です

「仮装決起」出発前
「仮装決起」出発前

目次

京都大学の吉田寮をご存じでしょうか。1913(大正2)年に建てられ、築112年。国内に現存する最古の学生寮とされています。今も100人ほどが暮らすこの寮でのありのままの生活を知るべく、寮祭に密着しました。鴨川の「中」を2.3キロほど激走したり、仮装して大学構内を闊歩したり、キテレツな企画が盛りだくさんです。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)

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毎日企画が盛りだくさん

吉田寮は寮生たちの「自治会」によって運営される「自治寮」で月2500円ほどの寮費で暮らすことができます。

老朽化を理由に一部寮生へ建物の明け渡しを求める大学側が裁判を起こしていますが、一審京都地裁では寮生側が一部勝訴する判決が出ました。

訴訟は現在大阪高裁で和解協議の進行中。寮生たちが守りたい寮での暮らしをのぞいてみましょう。

9日間ぶっ通し

寮祭は5月24日から6月1日の9日間ぶっ通しで開かれました。寮にとっては年に一度の一大イベントです。

私は5年前に京大を卒業しましたが、学生時代吉田寮に立ち入ったのは卒業直前に寮内ツアーに参加したときの一度きり。

寮祭の存在は当時から知っていましたが、寮生に知り合いがいなくて縁遠く感じており、足を運んだことはありませんでした。

寮祭を知らせる立て看
寮祭を知らせる立て看

吉田寮祭を運営するのは寮生や、寮に住んではいないものの普段から寮の活動に関わっている「寮外生」たち。さらに、企画をつくったり参加したりするのは寮生や寮外生でなくても問題なし。誰だって楽しめます。

多い日には10ほどの企画が展開されます。多くの寮生は夜型なので、ほとんどの企画が昼過ぎから深夜に設定されています。

企画一覧はこちら

バカな場所を残したい

寮祭の幕が開くのは24日深夜0時。寮の前に急造された特設ステージへ、寮祭実行委員長の奥山朱凜さん(総合人間学部3回生)たちが上がります。

集まったおよそ100人以上が0時までを大声でカウントダウン。24日を迎えると奥山さんがあいさつしました。

「バカなことをがんばってやらないと、つぶされちゃうんですよ!このバカな場所吉田寮、つぶされそうになってますよね。でも私たちはあらがおうとがんばっている。残そうという気力があるからです!」

奥山朱凜さん
奥山朱凜さん

会場からは「そうだ!」と合いの手が入りつつ、続いて寮祭名物のシュプレヒコールが始まります。

「寮祭、貫徹!自治寮、防衛!在期、粉砕!闘争、勝利!」

「在期粉砕」とは1980年代、「在寮期限」を設定して吉田寮の廃寮をめざした大学側と対峙し、存続を勝ち取った出来事に由来しています。現在ではさらに、寮生たちに退寮を求める近年の大学側に対する姿勢を指しているそうです。

目玉企画「ヒッチレース」

さて、寮祭の目玉企画とされるのが「ヒッチレース」。シュプレヒコールの終了後、「ヒッチレースの参加者の方はこちらに来てください」とアナウンスが聞こえました。

ヒッチレースとは、数十人のドライバーたちが、参加者たちを全国各地に「飛ばし」、参加者らはヒッチハイクなどで寮への帰還を目指すという企画です。

ヒッチレースについてはここでは書き切れないので、別の記事で詳報します。

「どこに飛ばしますか?」「僕は福島で考えてます」とドライバーどうしが会話する
「どこに飛ばしますか?」「僕は福島で考えてます」とドライバーどうしが会話する

研究計画を添削

吉田寮の南にある京大の楽友会館(国登録有形文化財)では寮祭特別協賛企画として「吉田寮と京大」をテーマにした公開学習会が開かれていました。

主催は「21世紀に吉田寮を活かす元寮生の会」。卒寮生である近畿大・冨岡勝教授らを事務局長にすえたこの会は、寮のことを広く世の中へ伝えるべく2017年から活動しています。

京大の総合人間学部(元教養部)につながる「旧制第三高等学校」の寄宿舎の材木が転用されて吉田寮になったことや、現在の吉田寮は元は「吉田東寮」で対をなす「吉田西寮」があったことが説明されました。

公開学習会を開いた近畿大・冨岡勝教授(左)たち
公開学習会を開いた近畿大・冨岡勝教授(左)たち

続いてのぞきに行ったのは「学振添削会」。

学振とは「日本学術振興会特別研究員」のこと。採用されれば研究費の助成が受けられます。

学内の申し込み締め切りが迫っていたこの日、院生4人ほどがおたがいの研究計画などを添削し合っていました。こういうまじめな企画もあるんです。

仮装姿で練り歩く

2日目、25日。ヒッチレース参加者が続々帰還し、インタビューを重ねていたらあっという間に時間が過ぎました。

3日目、26日。こちらも目玉企画の「仮装決起」。寮祭の開催を学内で広く知ってもらうべく、思い思いの仮装で構内、さらには教室の中へまで練り歩きます。

この日はピカチュウにロシアの妖精「ヴォジャノーイ」、ひとつ目小僧に韓国の女性アイドルグループ「NewJeans」を意識したY2K(2000年代)ファッションなどの面々が集まりました。

かつてはゲリラで授業にも突撃していたものの、近年は事前にアポが取れた授業におじゃましているのだそう。

ロシアの妖精姿で教室に入った寮生
ロシアの妖精姿で教室に入った寮生

仮装の一行が歌い続けるのは、「わーいわーい楽しいな吉田寮祭」という耳に残る一節。

行進する様子を、大学の見学に来たらしい小学校高学年くらいの団体はものめずらしそうに見つめていました。その後子どもたちが「わーいわーい」と歌いながら帰っていき、この曲の伝染力を感じました。

仮装決起はこの後の寮祭期間でも2回行われました。

夜には食堂でごはんを食べてみました。食堂と言っても吉田寮の食堂は1986年に休業とされ、以降建物は多目的に使用できるイベントスペースとして使われています。

寮祭期間はこの食堂の調理場で毎日異なる人たちが異なるジャンルの料理を提供する「バラバーラ」が開催されていて、この日は台湾料理でした。魯肉飯が絶品でした。

左が魯肉飯
左が魯肉飯

鴨川を、走る

4日目、27日。これまた名物企画の「鴨川レース」。文字通り鴨川を走ります。ただし河原ではなく、川の「中」を。

三条大橋から鴨川デルタまでのおよそ2.3キロを、観光客らの視線を受けつつ水をかき分けながら進みます。

場所によっては肩あたりまで水につかったり、1メートルほどの段差を乗り越えたりとなかなかハードな障害物競走といった様相。

鴨川を駆ける参加者たち
鴨川を駆ける参加者たち

今回の参加者は51人。午後1時13分に出発して、1位の走者は午後1時34分にゴール。

1位の方は一昨年に続いて2度目の出場で2度目の優勝の猛者。サイクリング部の方で陸上経験者でもあるとのこと。いわく、川底のぬめりに足を取られないように走るのがポイントなのだそう。

鴨川レース上位3人の猛者
鴨川レース上位3人の猛者

撮影しながら河原を併走している途中で、お上品なご夫婦に「これは何ですか?」と尋ねられ、「京大吉田寮祭の企画で鴨川を走る鴨川レースです」と説明。「楽しそうね、いいねえ」との京都マダムの返答は素直な感想なのか、それともいけずなのか分かりません。

鴨川レースのあとは飛び石の上でポーカーをしたり麻雀をしたり。ポーカーのチップがなかったので川の石を拾って代わりに使う遊び心がすてきです。

鴨川デルタの飛び石で麻雀
鴨川デルタの飛び石で麻雀

寮祭、折り返し

5日目、28日。寮の玄関を通りかかると、寮内の各所の蛇口の水を飲み比べる「吉田寮水質調査」が開催中でした。


寮内各地の蛇口から収集された水
寮内各地の蛇口から収集された水

この日の夜にはヒッチレース帰還者らによる「お土産話会」がありました。「ティラノサウルスになって帰還した人」「ヒッチレースの神の予言にしたがった人」などさまざまなエピソードは、別の記事でお伝えします。

9日間の寮祭も折り返し地点。後半のエピソードは記事後編に続きます。

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