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ゴジラ生誕70周年 アーティストの解釈は「この世に必要な不条理」
6月29日まで開催の「ゴジラ・THE・アート展」

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6月29日まで開催の「ゴジラ・THE・アート展」
2024年に生誕70周年を迎えたゴジラは、誕生からいまに至るまで、数々の映像作品で描かれてきました。東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開催中の「ゴジラ・THE・アート展」(朝日新聞社など主催)は、映画の枠を超えて、国内外で活躍するアーティストたちがゴジラをさまざまに表現しています。創作の経緯や作品に込めた思いを交えて、参加アーティストに尋ねてみました。あなたにとって、ゴジラとは――?
特撮映画『ゴジラ』が公開されたのは1954年。「東宝特撮全怪獣図鑑」(2014、小学館)では、この第1作ゴジラのプロフィールを、次のようにまとめています。
ゴジラは、ジュラ紀から白亜紀にかけてまれに生息していた、海に住む爬虫類(はちゅうるい)と陸上獣類の中間の生態を持つ生物。
水爆実験のために海底の安住の地を奪われたことから出現したとされます。
身長は50メートル。水爆の影響で体内に放射能を有し、口から放射能を含んだ高温の白熱光をはきます。
公開された1954年は、広島・長崎への原爆投下と敗戦からまだ9年しか経っていません。
米国は太平洋ビキニ環礁で水爆実験を行い、第五福竜丸の船員らが被曝する事件も起きました。
そのような時代に、復興半ばの東京を破壊するゴジラと、人間とが対峙(たいじ)する映画が作られ、大ヒットをおさめたのです。
日本で生み出されたゴジラの映画は70年で30作にものぼります。
若い世代にとっては、「ゴジラ」というと、社会現象ともなった『シン・ゴジラ』(2016年)や、米国の第96回アカデミー賞視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』(2023年)を思い浮かべる人も多いはず。
シリーズごとにゴジラの描かれ方は異なっており、世代によっても印象が違うでしょう。
では、「ゴジラ・THE・アート展」に参加したアーティストたちにとって、「ゴジラ」とは何なのでしょうか。
画家の福田美蘭さんは「時代を映す鏡」だといいます。
福田さんにとって、ゴジラといえば1954年公開の初代ゴジラ。本展出品にあたり、核の恐怖を具現化したゴジラが暗示する、「科学技術の進歩に現代はどう向き合うか」という問いと、改めて向き合いました。
そこで制作したのが、ゴジラの姿とともにキャッチコピーをあしらった、架空の映画ポスターです。
初代ゴジラが持つ娯楽性の中に含まれる戦慄と恐怖の物語を、現代が直面する問題と照らし合わせ、AI兵器による第三次世界大戦の危機を想定したそう。
よく見ると、ゴジラを取り囲むように描かれた男性たちはみんな、どこかで見たことがあるような面立ち。虚構の世界を表現しながらも、現代の国際社会が直面する危機を見事に映し出しています。
アーティスト・青柳菜摘さんの「時代に即したバッドでビッグなやつ」という表現も、同じ文脈で受け止めることができそうです。
青柳さんの映像作品は、ゴジラを現代に現れた「海神・龍神」と設定し、ニュース番組の形式を取ったものです。
今の時代に現れる「新しい」ゴジラは、ゴジラ自身ではなく、むしろ変わり始めている現在の「わたしたち」の見方によって作り出されるのではないか――。
シュールな映像を通じて、見る者に重い問いを投げかけています。
ゴジラを「この国のかたち」と表現するのは、彫刻家で美術家の小谷元彦さん。戦争や自然災害などの問題がある限り、ゴジラは過去や現在だけでなく、未来的な畏怖と恐怖をも内包した存在なのだと言います。
本展に向け、高さ3メートルを超える木彫の人型ゴジラを作成しました。
ぬめった肌のような質感と、壁に映し出されたシルエットとが相まって、展示室は妖しく、まがまがしい雰囲気をたたえています。
小谷さんの言う「ゴジラ」という存在が具現化されており、思わず息をのんでしまいます。
美術家の風間サチコさんは、ゴジラに見える岩を配した風景を木版画にしました。
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