話題
不登校の子が自信を取り戻し…民間出身の校長が変えた先生のマインド
「民間から来た」でうまくいくと思うな…陰口をたたかれても

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「民間から来た」でうまくいくと思うな…陰口をたたかれても
小中学校で不登校を経験した子どもたちの高校進学率が平均97.5%に――。そんな実績のある八王子市立高尾山学園(東京都)は、不登校の子どもが特別なカリキュラムで学べる「学びの多様化学校」(不登校特例校)として全国で初めて発足した学校です。この春まで12年間、校長を務めた民間出身の男性に歩みを聞きました。(朝日新聞記者・上田学)
小中一貫教育の高尾山学園は2004年、全国に先駆けて不登校の子どものための学校として開校しました。
3代目の校長を務めたのが黒沢正明さん(63)で、元は大手メーカーのエンジニアでした。
息子を通じてのPTA活動や、被災地でのボランティア活動のリーダー役などの経歴も買われて公募で採用されました。
新年度の人事発表で、黒沢さんが退任すると知り、記者は出勤最終日の前日にインタビューさせてもらいました。
黒沢さんに、これまでの12年間の話を聞くと、生徒たちだけでなく、先生たちの意識も変えていたことが分かりました。
学園では、不登校だった子どもたちに無理強いせず、一人ひとりに合わせた指導で自信を付けさせました。
それまで目標としていた「とりあえずは家を出て登校」という雰囲気から一歩進め、高校進学に目を向けられるよう環境を整えました。
その結果、不登校を経験した子どもたちの高校進学率は平均97.5%に達し、ほとんどの生徒が全日制や定時制、通信制に進み、大学や大学院に進学した卒業生もいます。
黒沢さんは、「教員文化に染まっておらず、しがらみは一切なかったから、忖度(そん・たく)なしに改革に取り組めました。一部で取り入れた会社経営の手法は、先生方にも新鮮だったのではないでしょうか」と振り返ります。
しかし、当初は「教員のことを知らないから何も分かっていない」「民間から来たからといってうまくいくと思うな」と教員仲間から陰口をたたかれたり、生え抜きの教員らから「民間出身でできるわけがない」と強い拒絶反応に遭ったりしたそうです。
自身がやりたいと思っていた教育活動に取りかかるまで4~5年かかったといいます。
「一般の学校でエース級と言われる先生でも、ここで通用するとは限らない」とも明かしてくれました。
机に座って授業をおとなしく聞くというスタイル自体が苦痛で耐えられない子もいるからです。
「ねばならない」から脱却し、先生のマインドを変える必要性を強調していたのが印象的でした。
黒沢さんは今年度、豊島区が独自に設けた「不登校対策スーパーバイザー」に就きました。
多様化学校の利点を生かした地域の学校のあり方を模索し、不登校を減らす取り組みに着手する。新境地をめざす新たな挑戦が楽しみです。