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#41 小さく生まれた赤ちゃんたち

「小さく生まれたことは壁でない」20年前542gで誕生、男性の今

大学で映像を学んでいるそうです

20年前、22週542gで生まれた赤ちゃんはいまーー。
20年前、22週542gで生まれた赤ちゃんはいまーー。 出典: 林英美子さん提供

目次

小さく生まれた赤ちゃんたち
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20年前、22週6日で生まれた林太陽さん。542gの「超低出生体重児」でした。現在は大学に通い、映像の勉強をしています。「小さく生まれたことはそこまで壁になっていない」と話す太陽さん。いま思うことを聞きました。(聞き手:withnews編集部・河原夏季)

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「小さく生まれた」と思われる怖さ

<2004年7月、太陽さんは妊娠22週6日542gで生まれました。「体は小さく生まれたけど心は大きく育ってほしい」。名前にはそんな思いが込められています。小さく生まれたことについてどう思っているのか、これまで大人たちから聞かれることも多々ありました>

小さく生まれたことについて、自分の中ではそこまで壁になっていません。良い意味であまり気にすることなく、今まで生きてきました。

隠しているわけではありませんが、「小さく生まれた」と自分から友達に話すことはありません。

特に小中学校では、生まれたときの体重やどういう状態で生まれたのか、あまりオープンにしていませんでした。「小さく生まれた」と思われることにちょっとした怖さがあって。
 
<小さく生まれた赤ちゃんは「低出生体重児(2500g未満)」と呼ばれます。さらに1500g未満は「極低出生体重児」、1000g未満は「超低出生体重児」とされています。また、妊娠37週未満に生まれた赤ちゃんは「早産児」と言われています>

小さく生まれたことは、悪いわけではありません。

でも、僕が生まれたときの写真はなかなか印象が強いので、「2分の1成人式(10歳を祝う行事)」とかで出すのはどうなのかと思いましたし、マイナス面はちょっと意識していました。

メディアの影響もあって、社会には「未熟児や障害児はかわいそう」というイメージがあると感じていたような気がします。だから自分も「かわいそう」と捉えられてしまうんじゃないかと思っていました。

 
20年前、542gで生まれた林太陽さん=林英美子さん提供
20年前、542gで生まれた林太陽さん=林英美子さん提供
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どんな人とも仲良くなれる

<母・英美子さんが立ち上げた、小さく生まれた子どもや障害、病気がある子ども・家族のコミュニティ「がんばりっこ」の集まりに、何度も参加していた太陽さん。そこでは「小さく生まれた子」と紹介されていました>

小学2、3年生くらいから「がんばりっこ」の集いに参加していましたし、それ以前から「僕は小さく生まれたんだ」と認識していました。

小さいときから聞いていたので、家族から「小さく生まれた」と紹介されることに違和感はなく、何も感じることはありません。

いろんな人とふれ合ってきたので、小さく生まれたことや障害のあるなしに偏見や差別もありません。どんな人がいても仲良くなれるし、人とのかかわり方は「がんばりっこ」があったからこそ培ってきたものかもしれません。

小中学校のときは、クラスになじめない子がいたらその子を誘ってほかの子と遊んでいました。

なぜそうしていたのか、自分でもよく分かりません。

もしかしたら、その子には何かいいところがあって、自分や周りの子と仲良くなれるんじゃないか、仲良くなれるきっかけを作れるんじゃないかと思って話しかけていたのかも。

単純に話してみたい、遊んでみたい、仲良くなりたいという子どもながらの感情が動くスイッチになったんじゃないかなと思います。

 
NICUに入院していた頃の林太陽さん=林英美子さん提供
NICUに入院していた頃の林太陽さん=林英美子さん提供
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前向きな姿勢の裏にあった家族の言葉

<何事にも前向きな太陽さんですが、母・英美子さんからはいつも「その瞬間を楽しむ」ように教えられていたといいます>

どこかに出かけたときや誰かといるとき、その先のことを考えるのではなくて、その一瞬一瞬でしか味わえないことを大切に、楽しく過ごすように言われていました。

だから、基本的に前向きな姿勢になったんだと思います。

考えたり悩んだりすることはありますが、小さく生まれたことや障害があることを気にせずやっていけたほうが、楽しく過ごせるかもしれません。

小さく生まれたり、障害があったりする方も、自分が抱えていることに振り回されないで、自分のやりたいことをやっていってほしいです。

 
幼い頃の林太陽さん=林英美子さん提供
幼い頃の林太陽さん=林英美子さん提供

映像の道で生きていきたい

<太陽さんは、幼いころから映像の道に進みたいと考えていました。いまは大学で映像を学び、作品作りに熱を注いでいます>

中学3年生のとき、NHKの朝ドラや大河ドラマが好きで、自分でも撮ってみたいと思って友達数人とiPhoneで撮り始めたのが僕の映像のきっかけです。

映像で表現することが楽しく、映像監督として生きていきたいと思っています。

小学校のときからお話を作ることも好きで、簡単な小説を書いていました。

撮影や編集の仕方は独学でした。YouTubeを見て模索したり、撮りながら感覚的に身につけたりしています。

高校入学のお祝いに両親から買ってもらった一眼レフで、世界が変わりました。スマホでは見えない世界が見え、さらに欲が出てプロが使うカメラで仕事をしたいと思いました。

僕の人生は映像と写真に捧げたいと思っています。

◇  ◇  ◇

林太陽さんの作品はこちら:https://taiyouhayashi.myportfolio.com/

林太陽さんのインスタグラム:https://www.instagram.com/taiyo__hayashi/


 
 
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取材を終えて

なんて客観的に自分のことを語れるのだろう。

太陽さんにインタビューしながら、私はそう思っていました。

物心ついたときから自身の誕生について見聞きし、「がんばりっこ」でも様々な家族とふれ合ってきたからこその感覚なのかもしれません。

母・英美子さんは、太陽さんが生まれた当初から成長記録をブログにつづっています。

小さく生まれたことを自らは発信しない太陽さんなので、何か思うことがあるのでは? 尋ねてみると、こう話してくれました。

「幼い頃からのことなので、特に何か思うことはありません」

「強いて言うなら中学に上がったとき、自分のことが何年もつづられている恥ずかしさはありましたが、多くの人が見て励みにしてくれたり、僕のことを目標にしていると耳にしたりして、なんてことないと思うようになりました」

映像監督を目指し、将来に向けて着実に自分の道を進んでいる太陽さんの姿はとても堂々としていました。

医療の発展に伴い救われる命は増えていますが、22週で生まれる赤ちゃんの死亡率は低くありません。障害とともに生きる方もいます。

私の息子は、23週で生まれました。SNSなどのおかげで、最近小さく生まれた赤ちゃんの様子はほぼリアルタイムで知ることができます。

しかし、成長したその後を聞ける機会はほとんどありません。小さく生まれた赤ちゃんはその後、どう成長しているのか、どんな悩みや思いがあるのか。直接伺いたいと、太陽さんに取材のお願いをしました。

太陽さんは、小さく生まれた赤ちゃんのその後の一例です。

今回、記事を読んだ方へ太陽さんの言葉がまっすぐ伝わるように、語り口調で構成しました。

太陽さんの話に何を感じたか、ぜひみなさんの感想をお寄せください。

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低出生体重児に関する情報・サポートがあります

◆「低出生体重児 保健指導マニュアル」(厚生労働省・小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査 研究会) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000592914.pdf

◆早産児育児ポータルサイト「Small Baby」 https://www.small-baby.jp/

◆「はじめてのNICU」 https://www.nicu.jp/

◆日本NICU家族会機構(JOIN) https://www.join.or.jp/

◆母子手帳サブブック「リトルベビーハンドブック」に関して NPO法人HANDS
https://www.hands.or.jp/activity/littlebabyhandbook/
 
 

日本では、およそ10人に1人が2500g未満で生まれる小さな赤ちゃんです。医療の発展で、助かる命が増えてきました。一方で様々な課題もあります。小さく生まれた赤ちゃんのご家族やご本人、支える人々の思いを取材していきます。

みなさんの体験談や質問も募集しています。以下のアンケートフォームからご応募ください。
【アンケートフォームはこちら】https://forms.gle/dxzAw51fKnmWaCF5A
 

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