連載
#16 はたらく年末年始
「いきものに年末年始はない」けれど…推しペンギンの年賀状で年始め
多くの人が休暇をとる年末年始。その間も働き続ける人たちがいます。いきものたちの「命」と向き合い続ける水族館もその職場のひとつです。昨シーズン、初めて年末年始の水族館で働いたスタッフに話を聞きました。(withnews編集部・水野梓)
56羽(2024年12月時点)のマゼランペンギンを飼育しているすみだ水族館(東京都墨田区)。それぞれのペンギンの関係性を図にした「ペンギン相関図」で知られています。
入社2年目という飼育スタッフの山口さんは「ペンギンそれぞれの名前を覚えるのが大変じゃないですか?と聞かれることもありますが、それよりも1羽1羽の個性を知っていく方が大変でした。食べ方や性格を把握しておかないと、『普段と違うな』という異変に気づくこともできないからです」と話します。
千葉出身で、子どもの頃からいきものが好きで、全国各地の水族館に連れていってもらっていたそうです。
「最寄りの水族館では年パスを買って、入り浸ってましたね。パフォーマンスが見たいというよりも、水槽の前でずっといきものを見ているのが好きだったんです」
「そのうち、飼育員さんといきもののやりとりが気になってきて。どうしてかまれないんだろう、さわれるんだろう…と疑問が出てきて、『もっと知りたいな』と思いました」
大学で海洋生物について学び、すみだ水族館に就職。はじめは魚類チームを担当し、11月からペンギン・オットセイを担当することになりました。
山口さんは「実はペンギンのなかには新人スタッフに厳しい子もいるんです。そのうちの『きりこ』が4カ月ぐらい経って初めて愛情表現をしてくれたのはうれしかったですね」と振り返ります。
すみだ水族館は年末年始も休まず、スタッフたちは通常と変わらないシフトで働いています。
山口さんにとって2023年から2024年は、働き始めてから初めて迎える年末年始でした。大みそかと元日は勤務だったといいます。
すみだ水族館のペンギンを愛するファン、通称〝羽毛さん〟が「ペンギンおさめ」にやってきて、「よいお年を」と声をかけてくれたり、年始には「推しペンギン」が描かれた年賀状をもらったりしたそうです。
初めて迎えた「はたらく年末年始」。山口さんは「年末年始でも働いていることで、『あ~水族館の飼育スタッフになったんだなぁ』と思いました」と語ります。
「元日はスタッフと新年のあいさつをして。ペンギンたちにも『あけましておめでとう~』と声をかけましたが、『え?』という感じでした(笑)。いきものにとっては年末年始だろうと関係ないので、スタッフもいつも通りです」と話します。
やりがいがある一方、いきものたちの「命」を預かる仕事には重圧もあるそうです。
すみだ水族館にはバックヤードもあって、ペンギンたちがそこで過ごすこともあります。その場合、プールからバックヤードへスタッフが連れていきます。
水族館によると、「名前を呼んだら自分から岩に上がってきてくれるコもいますが、そうでない場合はスタッフが水の中に入ってこちらに来てもらえるように誘導します」とのこと。先日山口さんは、その誘導する役割を初めて担いました。
「その時にバックヤードに連れて行きたかったのが高齢のペンギンだったのですが、なかなか上手に誘導できず、ペンギンが予定より長く泳いでいる状態になってしまったんです。体に負担をかけてしまったらどうしよう、と怖かったです」
「最終的には陸に上がってくれたのでよかったのですが、自分の力不足を感じました」と言います。
「いきものの命を預かり健康に過ごしてもらうということは、知識だけでなく、先輩たちのように長年の経験で得たコツも積み上げていく必要があるんだなあと痛感した出来事でした」
ペンギン1羽1羽に向き合っている山口さん。最近は、ちょっとシャイな「あずま」に毎朝毎朝、声をかけているそうです。
「いつも岩の奥の方にいるシャイなあずまですが、声をかけると近づいてきてくれるようになったんです。ちょっと見づらいところにいるレアキャラなので、ぜひ探して見つけてみてほしいです」と笑います。
それぞれ個性があるので、ぜひペンギン相関図をチェックして、1羽1羽に注目してもらえるとうれしいです」と話しています。
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