連載
#35 小さく生まれた赤ちゃんたち
早産で生まれた赤ちゃん、「出産おめでとう」へそれぞれの受け止め方
11月17日は「世界早産児デー」です
日本では、およそ20人に1人が早産で生まれています。家族会などの調査では、9割を超える家族が「子どもが早産で生まれて不安や悩みを抱えている」と答えました。しかし、赤ちゃんや家族へのサポートは十分とは言えません。11月17日の「世界早産児デー」を前に、東京都庁で啓発イベントが開かれ、当事者家族の状況について語られました。
※世界早産児デーとは:早産の課題や負担に対する意識を高めるために、2008年にヨーロッパNICU家族会や提携する家族会によって制定された記念日です
「実際に知らないだけで、小さく生まれた赤ちゃんは皆さんの周りにもたくさんいるのではないかと思います」
11月16日、都庁で開かれた「世界早産児デー啓発イベント2024」。当事者家族のゴーウィンかおりさん(44)が、参加者へ呼びかけました。
日本では、多くの赤ちゃんは妊娠37~41週(正期産)で生まれ、平均出生体重は約3000gです。一方、22~36週は早産で、厚生労働省の人口動態調査によると、2023年は約4.2万人。生まれてくる赤ちゃん全体の約5.7%でした。
早産の場合、2500g未満で小さく生まれることもあります。2500g未満の赤ちゃんは「低出生体重児」と呼ばれ、より早く小さく生まれるほど、命の危険や障害、病気のリスクが高くなります。
ゴーウィンさんは2019年、予定日より約2カ月早く854gの長男を出産しました。
「出産直後、小さく未熟に産んでしまった罪悪感と自責の念にさいなまれました」。ゴーウィンさんは、「この先どうなるのだろう、もう笑うことができないかもしれない」と追い詰められていたといいます。
長男が退院した後も、ときには不安な気持ちが怒りとなって爆発してしまうことがありました。
「不安定な精神状態で育児をしているので、支えてくれる家族や支援者からの『頑張れ』という励ましにも『もう頑張れない』と怒ってしまいました。関係を良好に保つことに苦労しました」
NICUに入院した子どもと家族、全国の家族会をつなぐ「日本NICU家族会機構(JOIN)」が、ベビー用品大手のピジョン(東京都中央区)とともに、2023年10月、早産を経験した家族を対象に出産・育児に関する調査しました。
すると、9割超が「子どもが早産で生まれて不安や悩みを抱えている」と答えました(有効回答数249人)。
特に目立ったのは母親の「自責の念」や、子どもの発育や発達といった「今後への不安」です。
「後遺症や障害がどのくらい残るんだろうと申し訳ない気持ちでいっぱいでした」(出生時28週、体重1020g)
「こんなに小さく産んでしまったのは自分のせいだとかなり気落ちしました」(31週、732g)
早産になると自分を責めてしまう母親は多くいますが、早産の理由ははっきり分かっておらず、予防法も確立していません。
調査では、支援の窓口となる行政や幼稚園、保育園においても知識や理解が不十分だと感じるというコメントも寄せられました。
「早産で生まれても保育園などの集団生活では実月齢のほうが重視されるため、保育士らとの認識の差があり、同じクラスの子と比べられてしまった」(23週、583g)
「自治体の保健師さんが、なぜか低体重児に関しての知識があまりなかったようです。出生届を出しに行った際に、『37週までおなかに入れておいてねってお話しましたよね』と言われてつらかった」(30週、1302g)
行政や地域の支援について「不十分だと感じたことはありますか?」という質問に対しても、約6割が「よくある」「時々ある」と答えました。
小さく早く生まれた子どもを育てていても、家族が抱いている気持ちはそれぞれ同じではありません。
当事者家族のゴーウィンさんは、JOINが集めた家族の声から、「おめでとう」と祝福されることへの感じ方を紹介しました。
「なかには、小さく未熟に産んでしまって自分を責めていたので、とても『おめでとう』と言われる状況ではないと受け止めている方もいました」
一方でゴーウィンさんは、入院中に緊急帝王切開になったため、誰も「おめでとう」と言ってくれないだろうと寂しさを感じていたといいます。
「でも、看護師さんが来て『おめでとうございます』と言ってくれたときには、『私もおめでとうと言ってもらっていいんだ』と、すごくうれしかったことを覚えています」と振り返ります。
ゴーウィンさんは、「このように、一つ一つの声かけに正解はありません。私たち家族も様々な思いを抱えています。『当事者家族』というひとくくりの対応ではなく、その家族にとって何ができるかを考えていけるとうれしいです」と話しました。
今回のイベントには、慶應義塾大学医学部小児科の医師でJOIN代表理事の有光威志(たけし)さんと東京都助産師会の会長・宗祥子さんも登壇しました。
有光さんは、小さく早く生まれた赤ちゃんの現状について説明し、「医療者、家族会である私たちの想いはひとつ。子どもを救いたい、家族を支えたい」と話しました。
宗さんは、赤ちゃんがNICUで治療を受けた家族への産後ケアや取り組みについて紹介しました。
「小さく生まれた赤ちゃんやご家族を、私たち医療者や地域の人、行政で支える社会になってほしい」と呼びかけていました。
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