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ばあちゃんは「荷物」ではない 高齢化で懸念の世代対立、ほぐすには
人口減少、少子高齢化が進み、2040年には主な働き手となる現役世代が現在の8割となる「8がけ社会」が迫っています。高齢化に人手不足が重なれば、1人ひとりにのしかかる負担は大きくなります。悲観的になりがちな未来とどう向き合うか。8がけ社会を取材した中山直樹記者が考えました。
筆者(29)は小学生のころ、授業で現役世代が高齢者を支えるイラストを見せられ、こう説明されました。
「いまの社会では2~3人の現役世代で騎馬戦のように1人の高齢者を支えています。でも、みなさんが大人になるころには、たった1人で肩車のように1人の高齢者を支えることになるでしょう……」
おそらくあのときから、私たちの世代は高齢者を「負担」と捉えるようになってしまいました。
医療費や年金の話題について、SNS上で「高齢者の負担を増やせ」という過激な発信が増えていることも、そんな意識が根底にあるのかもしれません。私自身、負担が増していく将来に不安がないと言えばうそになります。
「8がけ社会」が到来すれば、現役世代はますます余裕がなくなり、世代間対立がより先鋭化しかねません。
「なぜ自分たちだけが苦労しなければならないのか」「昔はいい時代だった」……。しかし、嘆き続けていても社会はどんどん後ろ向きになります。
そんな社会を回避するにはどうすればよいか。ヒントを探すための取材を続け、見えてきたことがありました。
東京大学を卒業後、福祉施設で働いた御代田太一さんは、人手不足が深刻な福祉の現場であえて、仕事の合間に入所者の人生についてじっくりと話を聞きました。そして気づいたそうです。
どんな人の生き様も魅力的で、尊いのだと。支える側の職員と支えられる側の入所者という立場を越えて、人と人とが向き合うことが福祉の本質である。
だからこそ、そんな仕事が社会には必要不可欠なのだと、同世代の彼は私に話してくれました。
介護施設と有償ボランティアのマッチングサービス「スケッター」を取材した際には、印象的な出来事がありました。
マッチングを経て、施設でクリスマスに向けた飾り付けの業務を手伝っていた60代の女性は、涙ながらにスケッターに参加する理由を話してくれました。
かつて母の介護を一人で担い、仕事も辞めてボロボロになりながら看取った。そのとき、周囲からは「えらいね」とは言われたが、感謝はされなかった。
でもスケッターを始めて、施設の入所者や職員から「ありがとう」と言われた。「まだ自分にもできることがある、生きてていいんだって思えたんです」
ぼんやりと顔の見えない「高齢者」「若者」をイメージするのではなく、目の前の人のために自分ができること、やりたいことをする。対立を解きほぐすヒントがそこにあると気づかされました。
本気で世代間対立をなくそうと動き出している人にも出会いました。高齢化が進む福岡県の山間地域で、あえて高齢女性を社員として登用する会社「うきはの宝」を立ち上げた大熊充さんは、社会の高齢者への目線を変えたいと言います。
「なぜ、ばあちゃんたちを『荷物』だと思うんですか、僕たちにはないすごい力を持っているのに」
職場に行くと、70~80代の「ばあちゃん社員」が、ものすごいスピードで果物の皮を包丁を使ってむいていました。そんな作業をしながらスイーツやおかずの作り方、保存の仕方などの知識を次々と教えてくれました。
長く生きてきたからこその技術と知恵であり、小学生の頃、イラストで現役世代から背負われていた「高齢者」とはまったく異なる姿が、そこにはありました。実際に働くことでばあちゃんたちの健康状態が良くなっている傾向もあるそうです。
2040年に向けて、高齢者は増えて現役世代が減る「未来」は必ずやって来ます。これまでのようにはできないことが増え、1人ひとりの負担も重くなるでしょう。悲観的になるのは簡単ですが、それでは何も変わりません。
世代や立場をめぐって対立するのではなく、それぞれが尊重し合い、助け合えるところを探っていく。「今の社会、悪くないね」と思える16年後の未来に向けて、できることはまだあります。
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