我が子も大好きな保育園のプール遊び。子ども時代の夏らしい楽しみの一つですが、近年は「当日に急な中止の連絡が入った」という声がSNSに投稿されることも多くなっています。この中止の理由は、親の世代としては意外に感じる人もいるようで――。プールで熱中症になる理由や対策、プールが中止になる基準など、親になるまで知らなかった、子どものプール事情について調べてみました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
水遊びが大好きすぎて、保育園でプールに入った日は、幼さ以上に奇行3~4割り増しの変なテンションになる我が子。夏生まれとしては、やはり感じ入るものがあるのでしょうか。
保育園での行動を親に知らせてくれる連絡帳アプリでは、お友だちと水をバシャバシャしながら満面の笑みを浮かべる写真が送られてきて、思わずこちらもふふっと笑ってしまう、なんてこともよくあります。
しかし、最近は当日になって、急に「プール中止」という連絡が入ることも頻ぱんに起きるようになりました。そんなときはガッカリしてしまうので、なだめるのも一苦労です。
そんなプール中止ですが、最初にその理由を聞いたとき、びっくりしたことを覚えています。自分が子どもの頃と、理由が真逆であるように感じたからです。
どうやら同じようなことを考える親も多いようで、SNSでプール中止を嘆く声が多く聞かれる中、よく見かけるのが“令和と平成の対比”です。
<平成初期の小学生の私は「寒くてプール中止」が多々発生したが、令和初期の小学生の子供は「暑くてプール中止」が多々発生している…>
<私が小学生の時は30℃を越える日の方が珍しく「水温が28℃以下なのでプール中止」ってこともよくあったのに、今では「熱中症アラートが出ているのでプール中止」だよ>
そう、最近のプール中止の理由は「気温が高く熱中症になるリスクがあるから」。私が子どもの頃は、ぶるぶる震えながらプールに入った日もあったというのに……。
そんなことはさておき、「プールでも熱中症になる」というのは大事な注意喚起です。なぜプールで熱中症になるのか、プールでの熱中症を防ぐにはどうしたらいいのか、どんな基準でプールが中止になるのか、調べてみました。
環境省の『熱中症環境保健マニュアル2022』では、<水の中では汗をかかないと考えがちですが、水中でも発汗や脱水があります。>とした上で、その理由をこう説明しています。
まず、「水温の上昇とともに発汗量と脱水量が増加」します。しかし、「水泳プールでは飲食が禁止となっていることがあり、水分補給ができません」。
また「屋外プールには日よけがないことが多く、直射日光による輻射(ふくしゃ)が大きく、加えて、裸体であるため輻射熱を遮ることができません」。そのため、プールでも熱中症が起きるのです。
そもそも熱中症とは、気温が高いことにより生じる健康障害の総称です。体内の深部体温が異常に高くなることで、複数の臓器が障害され、その結果、意識障害を引き起こして死に至る危険性があります。
国立成育医療研究センター救急診療部統括部長で医師の植松悟子さんを取材しました。植松さんは「子どもは大人よりも熱中症になりやすい」と指摘します。
「子どもは大人と比べて自ら熱を作りやすく、環境からの熱の影響を受けやすいのに、それらの熱を放出しにくいという傾向があります」
植松さんによれば、子どもはもともと体重あたりの熱産生が成人と比べて多い一方、幼児は体重に対して体表の面積が大きいため、外からの熱を吸収しやすいそう。
また、子どもは汗をかく能力も成人より低く、汗をかいて体温を下げることをしにくい、と植松さんは説明します。
大人よりもなりやすい子どもの熱中症。熱中症の重症度分類では、その症状として「四肢や腹部などの筋肉の痙れん」「脈拍や呼吸数が多くなること」「大量の発汗」「口の渇き」「吐き気・嘔吐」「頭痛」「疲労感」「めまい」「失神」「『受け答えが遅い』など少し混乱した状態」が挙げられています。
子どもは、遊びに夢中になったり、うまく症状を言葉にして伝えられなかったりするので、本人が症状を自覚する頃には、すでにかなり熱中症が進行している可能性があり、このような訴えがある前に、対策をすることが必要です。
予防法として、植松さんは「こまめな水分補給と、環境への配慮が必要」だと指摘します。
「高温・運動時の水分補給については、もともと脱水がない状態であれば、9〜12歳では100-250mLを20分毎、思春期では1時間で1-1.5Lの経口補水が目安になります。補給するのは電解質などが含まれたイオン飲料が望ましいでしょう」
また、気温ばかり注目されますが、「例えば湿度による影響はかなり大きいですし、直接日光に暴露されるかどうかも影響を与えます」と植松さん。
「熱中症リスクの判定には、気温や湿度、地面や建物・体から出る輻射熱を考慮した“Wet Bulb Globe Temperature;WBGT(湿球黒球温度)”などの指標が用いられます。運動を実施するかどうかには、こうした条件を踏まえ、総合的な判断が求められます」
独立行政法人日本スポーツ振興センターの独立行政法人日本スポーツ振興センターの『学校屋外プールにおける熱中症対策』パンフレットによれば、センターが災害共済給付(医療費のみ)を行ったもののうち、小・中学校の災害でのプールでの熱中症の発生件数は2013~2017年度の5年間で179件でした。
こうした理由で、近年は施設側が熱中症対策を理由に、プールを中止にする場合もよくみられるようになりました。
その基準として普及しているものとして、一つは「気温35度以上、WBGT(暑さ指数)31度以上は原則運動中止」があります。これは公益財団法人日本スポーツ協会の『スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック』(2019)で示されている運動の指針です。
もう一つが、近年、一般的になりつつある、「水温+気温が65度以上の時には(プールは)適さない」というもの。我が子の通う保育園でもこの基準で中止になることがしばしばありますが、その根拠はどこにあるのでしょうか。
複数の自治体がこの基準の参考として紹介しているのが、日本水泳連盟の『水泳指導教本』にある「水温+気温が65度以上の時には適さない」とされていますが、前述したように、熱中症のリスクは水温と気温だけで判断できるものではなく、エビデンス(科学的根拠)が強い基準とは言えないことには注意が必要です。
「プール中止」は酷暑を示すニュースとして社会的な関心を集めるようになりましたが、子育ての当事者になってみると、単に「残念だったね~」では済まない影響があることがわかります。
その一つが、「プール中止になるくらいの環境下では、外遊び自体ができない」ということです。気温も水温も30度以上になるような日、長時間、子どもを外の環境にさらすという判断をする保育園はまずないでしょう。
そうするとどうなるかというと、子どもは疲れません。目一杯、遊んで、電池残量がゼロになって初めて昼寝や夜にしっかり寝ることができるタイプのうちの子は、元気が有り余った状態で保育園から帰還するため、夕方以降に親がしっかり相手をしてあげないと、寝不足になってしまいます。
家の中で駆け回る我が子を「そっちはダメー!」と追いかけながら、地球環境に思いをはせる夏になっています。