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24時間人工呼吸器が必要な次男、長男は不登校 父「復職ほぼ諦めた」
心が休まる時間は…
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心が休まる時間は…
子どもに障がいがあったり、医療的ケアが必要だったりする家庭では、働きたくても働けない親や、在宅・時短勤務などを組み合わせつつどうにか働いている親がいます。中には夫婦どちらかが仕事を辞めざるを得ないケースも。妻が退職して、自身も休職中の男性(35)は、24時間人工呼吸器が必要で意思疎通の難しい次男を介護し、気が休まらない日々を送っています。
鼻から胃に通したチューブで1日4回栄養を入れ、1日に何十回とたんを吸引するーー。千葉県に住む小学校教諭の男性は、24時間人工呼吸器が必要な医療的ケア児の次男(6)と妻(46)、小学2年の長男(7)と暮らしています。
次男は予定日より約4カ月早く、妊娠23週のときに570gで生まれました。
たまった髄液が脳を圧迫する水頭症となり、新生児集中治療室に1年入院。3歳のときに気管切開の手術をし、生活には7種類の医療機器を使っています。
泣いたり動いたりすることはできず、意思疎通も難しい状態です。
保育園に入園を希望しましたが、安全面を理由に受け入れ先は見つからず、中学校教諭だった妻は3年育休を取った後に退職しました。
夜、男性は次男の介護ベッドのそばに布団を敷いて眠りますが、睡眠時間は計4時間ほど。午後9時にその日最後の栄養を1時間かけて注入し、片付けます。
常夜灯の下、夜中に数回、次男の体位を変えたり、アラーム音で起こされたり。次男は生活リズムが整わないため、未明に目覚めることも多いといいます。
「『毎日これでは生きていけない』と気がおかしくなりそうになることもあった」と振り返ります。
一時的に施設に預ける一時休息(レスパイト)サービスはありますが、預け先で体調を崩して入院したことがあり、その後は利用を控えているそうです。
急な高熱などで体調を崩しがちな次男は、2カ月に1度は入退院を繰り返します。
妻が育休中だった当初、日中は妻、夜は男性が仕事後に病院に直行して泊まり込みました。入院すると短くても半月はそんな生活が続きます。昨年11月にも次男は入院し、男性が付き添っていました。
次男の誕生後、男性は勤務先の学校で、通常学級から受け持つ児童が少ない特別支援学級の担任に変えてもらったそうです。
職場の同僚たちは「お子さんのことを大事にしてね」と気遣ってくれました。休暇制度は整っていて申請しやすいものの、担任は1人しかいないため、休みにくさを感じていたといいます。
児童の登校時間に合わせて午前8時前に出勤し、翌日の準備や会議で残業が必要でも午後6時には職場を離れるようにしていました。
授業の準備には万全を期していましたが、限界もありました。寝不足のあまり、休み時間に机に顔を伏せて寝たり、児童下校後の保健室で仮眠を取ったりしたこともあったそうです。
さらに暮らしを大きく変えるきっかけが、長男が一時不登校になったことでした。
再び学校に通い出したものの、妻は長男に付き添い、日中は学校で過ごしています。男性は次男の面倒をみるため、昨春から介護休業を取りました。
以前は家族4人、同じ部屋で寝ていましたが、夜中も急に鳴る医療機器のアラーム音が長男の睡眠を妨げ、負担になっていたのではないかと気づき、寝室を別にしました。
次男ばかりに気が向いていたわけではありません。ただ、働いていた頃は長男の相手をする余裕がなく、今思えば「長男は満たされない気持ちがあったのかもしれない」と振り返ります。
来年度、小学生になる次男は、長男と同じ小学校の特別支援学級に通うことになりました。
次男の就学先を決める際、男性は何度も行政側と話し合いを重ねたそうです。
地域の小学校にも親の付き添いは必要ですが、車で片道1時間の特別支援学校に通学するよりは負担が軽くなります。
それだけでなく、長男が再び学校に行けなくなった場合でも、同じ小学校に通っているほうが教育機会や親の就労を継続したまま臨機応変に対応できます。
男性の懸念は家族のことばかりではありません。気が休まらない日々の中で持病が悪化し、家族の負担を増やすことにならないか、常に不安を抱えています。
リラックスしたり1人になったりする時間はほぼありません。週1回、児童発達支援の事業所に次男を連れていった帰りにショッピングモールで飲む1杯のコーヒーが、気持ちのリフレッシュにつながります。
「来春復職したとしても、仕事とケアを両立しつつ、入院時は付き添うという生活がいつまでできるのか分かりません」と話す男性。多忙な教員生活を思うと、「復職はほぼ諦めている」といいます。
今後については、ウェブデザインの勉強をして在宅で働くなど、あらゆる可能性を考えているそうです。
「育児や介護と両立できる柔軟な働き方を模索していきたい」。男性は前を向いています。
医療的ケアが必要な子どもは、全国でおよそ2万人いるとされます。
厚生労働省の「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査報告書」(2020年)によると、生活上の悩みや不安について最も多かったのが、「慢性的な睡眠不足」(71.1%)でした。
「いつまで続くかわからない日々に強い不安を感じる」と答えた家族も70.4%と多く、60%近い家族が「きょうだい児がストレスを抱えているように感じる」と答えました。
日々の生活では、90%近い家族が「希望する形態で仕事につく」ことを望んでいるのに対し、そのうちの約80%が「行えていない」としています。
自由回答では、「医療的ケアが必要な子どもが産まれたことで仕事を辞めなければならなくなった。その事で家計が圧迫され、将来にとても不安を感じている」(母親)、「自分一人の収入しかない上に入院、手術、付き添い費などがかかり家計を圧迫している」(父親)という意見が寄せられました。
障がい児や医療的ケア児を育てる親の労働環境について、佛教大学社会福祉学部教授の田中智子さん(障がい者福祉)は、「十分な収入が得られないことは、将来の低年金など、親の高齢期の暮らしにも関わります」と指摘します。
「子どもに優先的に支出し続け、親自身の老後資金の準備ができないまま高齢期を迎える例もあり、深刻です」
親が仕事を辞めざるを得ない背景には、障がい児のケアを家族に依存しすぎている状況があります。
田中さんは、公的な支援は家族によるケアを前提としているため、親を「含み資産」として組み込んでいると説明します。
「学校教育に関わるサポートは本来、親頼みではなく公的に保障されるべきです。学校に親が付き添えなければ教育を受ける権利が保障されないのは、問題があります」と強調します。
日々の介助、サービスの利用調整、学校の調整、付き添い――。
田中さんは「子育ての範疇(はんちゅう)を超えた役割を課され、親たちは消耗しています。ケアの家族依存という構造は、ケアを他者に託すイメージが持てないことで、親子双方にとっての『親亡き後』への強い不安にもつながります」と話します。
「障がいのある子どもの親が生き生きと働ける職場のあり方を考えることは、心身の不調を抱えていたり、親の介護中だったりする人たちも含め、すべての人の働きやすさにつながります。障がい児の親の就労問題への対応は、将来の社会のありようを示す試金石になると考えています」
※この記事は、withnewsとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。
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