MENU CLOSE

お金と仕事

デジタルで加速「リキッド消費」とは…サブスク?Z世代? 研究者は

Z世代だけがものすごく特殊だと思うより、「だれでも若い頃そうだったかも」くらいに。

青山学院大学の久保田進彦教授
青山学院大学の久保田進彦教授

目次

デジタル化に伴い加速したとされる「リキッド消費」を知っていますか? 2017年以降に登場したマーケティング用語です。「なるほど、サブスクとか?…てことはZ世代特有の消費行動か?」と安易に考えてしまった記者ですが、青山学院大学経営学部の久保田進彦教授によると「それはちょっと違いますね」とのこと。リキッド消費とはなんなのか。詳しく聞きました。

【PR】進む「障害開示」研究 心のバリアフリーを進めるために大事なこと

「短命性」「アクセスベース」「脱物質」

――「リキッド消費」という言葉、「最近若年層の中で広がっている消費行動」という文脈の中で見かけました。どんな消費行動を指すのでしょうか。

「最近若年層の中で広がっている」というのはそうとも言い切れません。

リキッド消費とは、20世紀からじわじわと生じている消費行動ではあるのですが、デジタル化が顕著となり、「短命性」「アクセスベース」「脱物質」の三要素が強くみられるようになりました。その具体的な現象として、ウーバーイーツやメルカリなどが支持されているんだと思います。去年より今年は強まっている、というほど急激な変化ではありませんが、5年、10年といった単位でみると確実に広がっていると思います。

――三要素が興味深いですが、具体的には。

2017年に、イギリスの研究者が「リキッド消費」(Liquid Consumption)という論文を発表しました。この概念は「短命性」「アクセスベース」「脱物質」という三つの要素で説明されます。

三つの要素それぞれについて考えてみましょう。
まず「短命性」について。
私たちの今日の生活をみると、その時々、その場その場で、価値を感じるものが次々と変わっていく傾向があります。たとえば、金澤さん(記者のこと)がいま私と話しているときに「いいな」と思ったことがあるとします。でも、夕方、お友達と会ったときには、また別の価値観を持ったりしますよね。
場面に応じて「いいもの」「好きなもの」「ほしいもの」がコロコロと変わります。人々が気まぐれになった結果、製品やサービスの魅力がはかなく短命になっちゃったわけです。

「価値にアクセスできればいい」という考え

リキッド消費とは、20世紀からじわじわと生じている消費行動。「短命性」「アクセスベース」「脱物質」がポイントです。写真はイメージです=Getty Images
リキッド消費とは、20世紀からじわじわと生じている消費行動。「短命性」「アクセスベース」「脱物質」がポイントです。写真はイメージです=Getty Images

――TPOに応じた服装選びも「短命性」にあてはまりますね。では、二つ目の「アクセスベース」というのは。

「所収しなくても、価値にアクセスできれば良い」という考え方です。
例えば、車の価値は「移動」にあるとします。すると「移動」という価値にアクセスするには、わざわざ車を所有しなくても、レンタルやシェアリングでよいことになります。
音楽もそうですよね。音楽の価値を「聴く」ということだけに絞れば、CDを持たずサブスクリプションでもよくなります。このような「所収しなくても、価値にアクセスできればいい」という考えは次第に広まっています。エアクローゼットのような洋服レンタルサービスも、アクセスベース型の消費ですね。

――次の「脱物質」にも近い考え方に思えてきました。

アクセスベースと脱物質は似ているけれども、ちょっと違うんです。アクセスベースのポイントは「所有しない」ことですが、脱物質のポイントは「物質に頼らない」ことです。
いま、ほとんどの方は写真をスマホに「データ」として持っていると思います。以前のように紙にプリントする方は減りました。データとして持っていることも、プリントとして持っていることも「所有」していることには変わりはありません。しかしデータの場合は「物質」に頼っていません。
電子マネーも同じですね。紙幣や硬貨といった物質に頼らずに、お金を所有しています。デジタル化によって、脱物質はものすごく広まっています。

写真をデータで所有するのも「脱物質」の一つ。写真はイメージです=Getty Images
写真をデータで所有するのも「脱物質」の一つ。写真はイメージです=Getty Images

消費行動の自由度が広がる

――この三つが合わさるところがリキッド消費といえるんでしょうか。

三つすべてが組み合わさる場合もありますけど、ばらばらに生じることもありますね。「ほしがるものがコロコロ変わるけれども、『もの』は持ちたがる」とか、「脱物質は進んだけど、所有欲は恐ろしく高い」とか。リキッド消費の三つの要素のすべてを満たしていないからリキッド消費ではないとはいえません。

私はリキッド消費傾向がものすごく強い人を「ピュア・リキッド」、リキッド消費傾向が少しみられる人を「セミ・リキッド」と呼んでいます。伝統的な消費行動がすべてリキッドにシフトするのではなく、消費行動の幅が広がったと考える方が自然ですよね。これまでの消費生活が完全に変わってしまうわけではありません。

「ここ数年の話ですか?」いいえ違います

――ところで、リキッド消費が提唱されたのは2017年のイギリスと考えると、デジタル化によって現れた特徴的な消費行動と考えていいのでしょうか?

「ここ数年の話ですか?」と聞かれることもありますが、もう少し長い変化だと思います。振り返ると、消費のリキッド化は1900年代からじわじわと進展してきたのではないでしょうか。しかしそうした変化が加速したのは私たちの生活にデジタル技術が浸透してから、つまり2000年代以降といわれることが多いようです。

SNSのアカウントを複数持ち、いくつもの自分を使い分けている人がいますよね。「多元的自己」というそうですが、自分が変われば価値観も変わります。これもデジタル化によって生じてきたことです。こう考えると、消費生活に対するデジタル化の影響はすごく大きいと思います。

リキッド消費はとても大きな概念であり、私たちの生活のさまざまな変化にあてはまる、パワフルな概念です。ときどきリキッド消費=「サブスク(サブスクリプション)」や「タイパ」といった具合に、リキッド消費を現象として考える方がいますが、そうすると視野が狭くなってしまいます。
「リキッド消費」という目に見えない大きな変化が生じていて、それがさまざまな具体的現象として現れている、と考えるといいと思います。

「SNSのアカウントを複数持ち、いくつもの自分を使い分けている人がいますよね」。写真はイメージです=Getty Images
「SNSのアカウントを複数持ち、いくつもの自分を使い分けている人がいますよね」。写真はイメージです=Getty Images

若い人みんながリキッドではないですよ

――リキッド消費をしている世代、年代ってあるんでしょうか。やっぱり若い人でしょうか?

そういう傾向はありますけど、若い人みんながリキッドなわけじゃないですよ。
少し前に、約2万9千人を対象に分析をしました。そして社会や生活に対しての認識、さらに消費の傾向の違いによって、「コンベンショナル」「プレカリティ」「リキッド」という三つのクラスター(グループ)に分けました。

①「コンベンショナル」……社会全体の変化を感じず、伝統的な生活を続けている人々の集まり

②「プレカリティ」……社会全体の変化を感じているが、将来に対して不安を抱き、消費活動が流動化していない人々の集まり(プレカリティとは、「将来に対    する不安」といった意味の専門用語)

③「リキッド」……社会全体の変化を感じていて、日頃の生活でも合理主義的な価値観を抱き、しかも消費活動の流動化が顕著な人々の集まり

三つのクラスターを比べると、「リキッド」クラスターは確かに若い世代で多かったです。

全体の構成比における「リキッド」は31.9%。年代別にみると、15~24歳は41.2%、25~39歳は37.8%、40~54歳は32.9%、55~79歳は25.1%

世代としての特徴だけでなく、年代の影響も

ただ、リキッドな人は全て若い人かといったら、そんなことないんですよ。確かに若い人に多く見られるけれども、40代、50代、60代にもリキッド消費傾向の強い方はたくさんいらっしゃる。だから「リキッドクラスター=Z世代」だって言いきっちゃうのは、少し違いますね。

――つまり、若い人に多い傾向だっていうところまでは言える?

はい、おっしゃるとおりです。ただ若い人が流動的な消費をするのは、ごく自然なことでもあります。私も若い頃はそうでしたし、そうだった方も多いのではありませんか?
Z世代のリキッド消費傾向が強いのは、「Z世代固有の特徴」なのかもしれませんし、「若いから」なのかもしれません。つまり世代としての特徴だけでなく、年代の影響もあると思います。Z世代だけがものすごく特殊だと思うより、「だれでも若い頃そうだったかもしれない」くらいに見た方がいいかもしれませんね。

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます