連載
#15 #就活しんどかったけど…
「卒業したら就職」が全てじゃない 24歳、内定蹴って〝地域興し〟
就職してお金を貯めてから、活動したら――? 自身が立ち上げた法人の活動に力を入れながら就活をして、最終的に法人の運営に力を注ぐことを選んだ24歳がいます。ファーストキャリアに悩んだ経験を聞きました。
横須賀市の地域活性化事業を展開する一般社団法人NELD(ネルド)。法人代表の三田希美子さん(24)は、大学時代から地元・横須賀を拠点に事業を続けてきました。
大学1年生の立ち上げ当時は学生団体として活動をしていましたが、2020年に「対外的な信用を得るためにも」と法人格を取得しました。
三田さんが地域活性化に興味を持ったのは高校2年生のとき。当時、地方創生担当大臣だった石破茂衆院議員の講演会を聴いたことがきっかけです。
三田さんの地元・横須賀市のある三浦半島には、人口減少や少子化で存続できない恐れのある「消滅可能性都市」とされている三浦市があります。「少子化や三浦市の消滅可能性都市について話していて、そういう地域があることへの寂しさや課題意識を感じ、『地域』に興味を持ち始めました」
その思いを抱えつつ、大学に進学。大学の学部は地域創生とは違うテーマでしたが、学生時代から活動を始めることにしました。
「高校時代から地域活性化のアイデアコンテストなどにもエントリーしていましたが、アイデアを自分の手でしっかり形にしたいと思い、学生団体を立ち上げました」
立ち上げ後は、団体の拠点作りを兼ねて横須賀市の空き家問題へアプローチすることから始めました。空き家をシェアハウスにして運営管理をしたり、商店街の空き店舗の改装事業をしたりしてきました。
事業を進めるために力を貸してくれる人たちの年代は高校生から40代と幅広く、空き家事業推進のために三田さん自身も第二種電気工事士の資格を独学で取得するなど、必要な技術も身につけてきました。
周囲から「大学生が好きなことをやっているだけ」と言われないよう、三田さんは「成績もちゃんととりました」と笑います。「活動と学業の両立は大変だったけど、自分が選んだ道だし、楽しかったです」
大学3年の秋、周囲は就活ムードになりつつありました。三田さんは、NELDで地域活性化の事業を続けていく意気込みもありましたが、就活をすることも決めたといいます。
理由の一つ目は「食わず嫌いはしない」という自身のモットーを遂行するため。
「就活というものをまったく知らないで卒業するのは嫌だった」と、ワンデーインターンに応募。コロナ禍でもあり、オンラインでのインターンでしたが、内容には物足りなさも残り、一度はNELDの活動に注力する日々に戻りました。
再び就活に「戻った」のは4年の秋。
内定を得て就活を終える人たちが多くなり、親からは「まずは企業に就職して、お金を貯めてから(法人の事業を)やったらいいんじゃない?」と薦められていた時期でもありました。「就職しなきゃいけないのかな」とモヤモヤとした気持ちが生まれていた三田さん。
「『就活をせず起業に逃げた』と思われるのがいやだったんですよね」
これが、法人代表をしながらも就活をした二つ目の理由です。
結果、社内に起業制度があるベンチャー企業から内定をもらいました。しかし先方からも「三田さん、うちに絶対入らないでしょ?」と聞かれるほど、やはり自身の法人への思いが強くありました。
「楽しいこと、わくわくすることをして生きていたいと思うんです」と、内定を辞退し、就活を終えました。
三田さんは就活を経験したことで、「『卒業したら企業に就職する』という考えを最優先にしなくてもいいんじゃないかと思えました」と振り返ります。
「就職はなにも新卒のときじゃないとできないわけじゃない。ご縁、タイミングもあると思うので、もし、また就活をしたいという気持ちになったら、そのときはやってみようと思います」
一方で、NELDは営利目的ではない団体のため、事業による収益は見込めません。三田さんは、個人事業主として、地域探究プログラムを教育現場に提供する仕事などで生活を成り立たせています。
「生活できるくらいの収入はあり、生きていけるなと思っています」と、生活への不安はありません。
NELDでは現在、これまで続けてきた空き家対策事業以外にも、横須賀市を舞台とした映画制作やファッションショーを手がけるなど、地域活性事業を多岐にわたって進めています。
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