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ドナー休暇制度、建設会社が導入した理由 「人が抜けて大変でも…」

骨髄提供を経験した専務「ちょっと大変な献血」

ドナー休暇制度を採り入れた北海道苫小牧市の建設会社の「小金澤組」。献血車を呼んで従業員に献血を呼びかけ、その時にドナー登録もあわせて呼びかけました。その時に献血をする椎名心さん
ドナー休暇制度を採り入れた北海道苫小牧市の建設会社の「小金澤組」。献血車を呼んで従業員に献血を呼びかけ、その時にドナー登録もあわせて呼びかけました。その時に献血をする椎名心さん 出典: 椎名さん提供

目次

骨髄バンクドナーは、検査での通院や数日間にわたる入院が必要で、仕事を休まなければなりません。なかには、社員が休みやすいように「ドナー休暇制度」を採り入れる企業が出てきています。人繰りの厳しい中小企業にもかかわらず、ドナー休暇制度を採用した建設会社もあります。なぜ制度を導入したのでしょうか?(withnews編集部・水野梓)

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提供に至らない理由「有給休暇がない」

日本骨髄バンクに登録し、患者さんと適合して提供することになった場合、事前の検査での通院や、提供時の数日間にわたる入院などが必要です。

ドナーのための助成制度を設けている自治体もあります。

▼骨髄バンクサイト:自治体・民間団体による助成制度
https://www.jmdp.or.jp/donation/donorsupport/assistance.html

骨髄バンクの事業報告書によると、適合したドナーのうち半数が、初期段階でドナー側の理由でコーディネートが終了。そのうち6割が健康面を除く理由で、多くが「都合つかず」「連絡とれず」だったといいます。

会社員からは「入社したばかりで、有給休暇がない」「仕事を休むと雇用が継続されなくなってしまう/収入が減ってしまう」といった声が挙がるそうです。

骨髄バンクでは、ドナー登録を呼びかけるだけではなく、ドナーへの周囲の理解や、通院・入院をサポートする社会的な仕組みの拡充が必要だと訴え、企業に向けて「ドナー休暇制度」の導入を提案しています。
▼骨髄バンクがピンチ ドナー登録者10年以内に22万人が〝引退〟も
https://withnews.jp/article/f0231011001qq000000000000000W02c10701qq000026238A

息子が白血病、自分もドナー登録へ

しかし人手不足に苦しむ業界や、社員数の少ない中小企業などでは、「人が抜けてしまうと大変」というのも実情です。

そんななか、従業員40人ほどの北海道苫小牧市の建設会社「小金澤組(小金澤昇平・代表取締役)」は、苫小牧市で初のドナー休暇制度を採り入れました。

「なぜドナー休暇制度を採り入れたんですか?」と、同社の椎名心さん(49)に聞くと、「実は、私がドナー経験者なんです」と答えてくれました。

椎名さんが骨髄バンクのドナーに登録したのは、10年前の夏、当時2歳の長男が白血病と診断されたのがきっかけでした。

「自分の息子が、まさか」という気持ちだったと振り返ります。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

「白血病の治療や骨髄バンクが誰かの善意で成り立っているということは、漫画で読んでなんとなくは知っていました。でも、自分の家族がそうなるまで詳しくは知りませんでした」と言います。

「体調が悪かったので市民病院へ連れていったら、そのまま札幌の大きい病院に緊急搬送されて、白血病と診断されたんです。確率は低いと分かりつつも一応、私と妻の白血球の型を調べましたが適合せず、ドナーを待つことになりました」

幸い、3カ月後にドナーが見つかって、移植。翌年5月末に退院したときはホッとしたという椎名さん。いま小学校6年生になった長男は、4カ月に1度だけの検査のみで、薬も必要なく元気に過ごしているといいます。

「とても運よくスムーズに回復した例だと思います。息子が入院していたときから、妻と『息子が元気になったら自分たちもドナー登録をしよう』と話していて、9年前に登録しました」と話します。

3回目の適合通知からの提供

登録してから数年後の冬、椎名さんには1回目の「適合」の連絡がありました。除雪で腰を痛めていると伝えたところ、提供にはつながりませんでした。

それから2年後、再び適合通知がきて、検査もしました。しかし、患者さん側の都合で休止に。椎名さんは「自分よりも、より適合する人がいたのかもしれません」と話します。

3回目は昨年、連絡がきて提供まで進みました。同時期に登録した妻は1度も通知の連絡がなく、「日本人に合いやすい型があるとは聞いていたので、自分はそうなのかなって思います」と言います。

「有給がとりづらいなぁ」という気持ちは多少あったというものの、上司に相談したところ、快く応援してもらったそうです。

提供の経験「ちょっと大変な献血」

職場など周囲のサポートもあり、椎名さんの中では、ドナーになることは「すごいこと」という認識ではなく「ちょっと大変な献血でした」と思い返します。

「ただ、実際に提供が決まると、患者さんは自身の免疫細胞をなくすための治療を始め、命の危険を伴うとも聞きました。自分が事故に遭ったり何かがあったりして『提供できない』となったら困るなと思って、提供時期の体調はかなり気にしましたね」

「1カ月ぐらいはお酒とインスタント食品は控えました。万全な体調で臨んで、良い状態でお渡ししたいなって」と語ります。

椎名さんの場合は「末梢血幹細胞提供」をすることになりました。手術で骨髄を採取するのではなく、白血球を増やす薬を使い血液中の造血幹細胞を採取するもので、土日をはさんで前後に2、3日の有給をとったといいます。

出典: Getty Images ※画像はイメージです

「点滴なのに不思議と腰が痛くなりました。でも鎮痛剤も渡されましたが、使用するまでの痛みではありませんでした。あとは不調もなく、退院後も問題ありませんでした」

「息子のことも思い出して『こうやって提供していただいたんだな』と感じていました。恩返しの気持ちで登録していたので、『無事に届いて、助かってほしいな』と願っていました」と話します。

会社にドナー休暇制度を導入

その後、昨年末に小金澤組の社長と同級生という苫小牧市役所の職員から「ドナー休暇制度を導入しないか」という打診がありました。

小金澤社長は「うちに提供している社員がいるし、どんな内容なのか聞いてみようか」と応じ、トントン拍子で「ドナー休暇制度導入」の話が進んだといいます。

献血バスで献血する小金澤組の小金澤昇平・代表取締役。企業として社会に貢献できればとドナー休暇制度を採り入れたそうです
献血バスで献血する小金澤組の小金澤昇平・代表取締役。企業として社会に貢献できればとドナー休暇制度を採り入れたそうです 出典: 椎名さん提供

椎名さんは「ドナーがもっと普及すれば、より救える命がある。そのために自治体でも休暇制度を採り入れてほしいんだなと感じました。社としても、その先駆けになれればという思いでした」と話します。

「建設現場に出ている社員も多いので、どれぐらい活用してもらえるかは分かりませんが、制度を設ければ、もし『やりたい』『提供したい』という社員が現れた時に、社として対応できると示せると考えたんです。ハードルは高いかもしれませんが、導入して進めていこう、と社長たちと話しました」

「社会貢献したい」企業PRにも

日本骨髄バンクが確認している「骨髄バンクドナー休暇制度」の導入企業・団体は、2023年10月13日現在で782社。北海道全体でも、導入しているのは32企業・団体のみです。

▼骨髄バンクサイト:ドナー休暇・公欠制度
https://www.jmdp.or.jp/donation/donorsupport/donorleave.html

椎名さんは「ドナー休暇制度を採り入れたことが、すぐ業績に直結するかといえば、影響はないと思います。ある意味では損失といえば損失となっちゃうかもしれません。でも、人が抜けると大変といえど、そこをなんとかフォローしていこうとみんなで考えてもらえればいいなと思います」と話します。

企業にとっても、「社会貢献したい」という会社の思いをアピールすることにつながっていると椎名さんは指摘します。

小金澤組に来てくれた献血バス。ドナー登録もその場で呼びかけたそうです
小金澤組に来てくれた献血バス。ドナー登録もその場で呼びかけたそうです 出典: 椎名さん提供

「先日、ラジオでも骨髄バンクのドナー登録者数がこの10年で22万人も減ってしまうかも、というCMが流れていました。自分は知っているので耳に入ってくるけれど、気にしていない人はどうなんだろうな、とも感じたんです」

会社にドナー休暇制度があれば、「ドナーって何の?」「なぜ必要なのか?」といった情報が多少なりとも入ってくるのではないか……と椎名さんは言います。

献血バスを呼び、小金澤組の社屋内で受付をしました。同時に、骨髄バンクのドナー登録も呼びかけたそうです
献血バスを呼び、小金澤組の社屋内で受付をしました。同時に、骨髄バンクのドナー登録も呼びかけたそうです 出典: 椎名さん提供

実際に小金澤組では、献血車を呼んで献血を呼びかけ、その時にドナー登録もあわせて呼びかけました。

「建設業へのイメージが上がればうれしいですし、大きい企業が『あの中小企業もやってるなら』と導入するきっかけになってもらえれば、輪が広がっていくと思います」

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