連載
#160 ○○の世論
「マイナ保険証」賛成? マイナンバーカード利用拡大、根強い不安感
世論調査を分析、男女や世代で違い
マイナンバーカードを使った証明書交付サービスでの誤交付や、マイナンバーカードと健康保険証を一体化させる「マイナ保険証」で別人の情報がひもづけられた誤りが明らかになるなど、マイナンバーをめぐるトラブルが相次いでいます。朝日新聞社が6月17、18の両日に実施した全国世論調査(電話)では、マイナンバーをめぐる質問を3問準備しました。すると、有権者の根強い不安感があらわになるとともに、世代間や性別での受け止めに違いがあることが浮かび上がりました。(朝日新聞記者・大崎浩義)
マイナンバーをめぐるトラブルが相次ぐ中で、政府は6月9日に、マイナンバーカードの推進策などを盛り込んだデジタル施策に関する「重点計画」を閣議決定しました。
そうしたなか、健康保険証を来年秋に原則廃止し、マイナ保険証として、マイナンバーカードと一体化することについて賛否を尋ねると、全体の数字は「賛成」が38%なのに対し、「反対」が56%と上回りました。
一方、男女別でみると、男性は、「賛成」47%、「反対」47%と並びました。女性は、「賛成」30%、「反対」64%と差がありました。
年代別でみると、「賛成」が最も高いのは、18~29歳の58%でした。30代と40代は各43%、50代は39%。最も低いのは、60代の27%でした。
70歳以上は28%で、世代が上がるほど、「賛成」が低くなる傾向がみられました。逆に「反対」は、世代が上がるほど、高くなる向きがみられました。
厚生労働省の2020年患者調査によれば、特定の調査日について医療機関を利用した推計患者数は、入院と外来を合わせると、女性が474万人で、男性の361万人を上回っています。
年代別にみると、20代34万人、 30代48万人、40代72万人、50代87万人、60代128万人、70歳以上377万人で、年代が上がるにつれて増えていきます。
こうした状況は、健康保険証の利用機会を示しているとも考えられます。
6月の世論調査とあわせてみると、健康保険証を利用する機会が多いとみられる層と、一体化反対の割合が多い層が、重なっているかのようにみえます。
もちろん、調査結果だけでは因果関係は分かりませんが、その理由が気になるところです。
政府は健康保険証だけでなく、運転免許証や母子健康手帳などもマイナンバーカードとの一体化を進める計画を示しています。
そこで、マイナンバーの利用範囲の拡大に対して、期待と不安のどちらが大きいかについても聞きました。
結果、全体は「期待」が23%で、「不安」は73%と大差がつきました。
男女別でみると、男性は「期待」が33%に対し、「不安」は64%、女性は「期待」が13%に対し、「不安」は82%。男女とも、「不安」のほうが高い割合でしたが、不安感の強さは、男性よりも女性のほうが顕著に表れていました。
同様に年代別にみた場合、「期待」は、18~29歳が最も高い39%で、30代が32%、40代が24%、50代が26%、60代が14%、70歳以上が13%と、下がっていく傾向でした。
一方で、「不安」は、18~29歳が55%で最も低く、30代が64%、40代が75%、50代が73%、60代が84%、70歳以上が80%と上がっていく様子が分かります。男女差、年代差は健康保険証との一体化の賛否と同様の傾向でした。
次々と明らかになったマイナンバーをめぐるトラブル。これまでの政府の対応は適切だったのかどうか。これも世論調査で尋ねました。
全体は、「適切だった」が19%、「適切ではなかった」が72%と、厳しい見方をしているようです。前出のふたつの質問と同じような男女差、年代差がはっきりと表れました。
調査後の6月21日、岸田文雄首相は記者会見で、相次ぐトラブルについて「重く受け止めている」と陳謝。来年秋の健康保険証廃止については「国民の不安の払拭(ふっしょく)が大前提」としつつ、スケジュール通りに進める考えを示しました。
政府はトラブルを受けた「総点検」を始め、まずは中間報告を8月上旬にまとめるとしています。調査で明らかになった不安感を打ち消す内容となるのでしょうか。
これからも調査を通じて注意深く見つめていきたいと思います。
1/75枚