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連載

#14 気候変動を考える「1.5℃の約束」

「とりあえず行動しとこ?」長谷川ミラさんの気候変動との向き合い方

「見たくない」気持ちも分かるけれど…

社会課題について発信するモデルの長谷川ミラさん。同世代が気軽に社会課題を語り合えるよう、東京・六本木にコミュニティカフェ「um(アム)」をオープンしました=2022年11月、瀬戸口翼撮影
社会課題について発信するモデルの長谷川ミラさん。同世代が気軽に社会課題を語り合えるよう、東京・六本木にコミュニティカフェ「um(アム)」をオープンしました=2022年11月、瀬戸口翼撮影 出典: 朝日新聞

目次

オススメのアクションは、気候変動の解決へ向けて取り組む人を応援すること――。モデルの長谷川ミラさん(25)は、サステナブルファッションのブランドを立ち上げたり、SNSやメディアを通じてさまざまな社会課題について発信したりしています。気候変動対策を話し合う国連の会議「COP27」が開かれているなか、なかなか「自分事」にしづらい大きな社会課題との向き合い方を聞きました。

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長谷川ミラ(はせがわ・みら):1997年生まれ。父は南アフリカ、母は日本出身。モデルとして活動するかたわら、2017年にジェンダーフリーのブランド「JAMESIE」を立ち上げ、現在はサステナブルブランド「Jam apparel」をプロデュースする。SNSやYouTubeで社会課題についても発信する

1.5℃の約束※クリックすると特集ページに移ります。

連載「1.5℃の約束」:世界各国は昨年11月、平均気温上昇を「1.5℃に抑える約束」を表明しました。気温上昇は異常気象や生物多様性の喪失、食糧不足・貧困といった影響をもたらしています。withnewsでも、さまざまな視点から「気候変動」を考えます。

社会課題をインタラクティブに話す

――ミラさんは2017年の英国セントラル・セント・マーチンズ進学をきっかけに、環境問題といった社会課題に関心を持ったそうですね。発信し始めたとき、まわりから「意識高い」などとは言われませんでしたか?

めちゃくちゃ言われましたね。でもひねくれているので、「あなたが低いだけです」って思ってました(笑)。

日本にもそういう時代が絶対にくるという自信があったんです。

――今年1月に始まったポッドキャスト「Tokyo Young Boss」では、歯に衣着せぬミラさんの発言が共感を呼んでいます。私も大好きです。

社会課題をもっとインタラクティブに話したいと思ったんです。意見が違っても、オチがなくても、もっと話していいんだって思ってほしかったので、友人のマクニッシュ玲子と始めました。

でもこれって、玲子とカフェやごはんに行って話している内容そのままなんですよ。

世間的には、私と玲子は英語を話せる帰国子女〝枠〟で、同じようなジャンルの人と見えているかもしれません。それでも意見が違うこともあるっていうのが面白いんです。自分たちに意外と残っている「昭和っぽさ」について話すこともあります。
――相手とは違うかもしれない自分の意見を、ハッキリ言うことが怖いなって思ったことはありませんか?

自分の意見を言うのが怖いという感覚は全くないんですよね。ポッドキャストを始めて、やっと言える場ができたという感じです。

もともと、テレビやラジオ、自分のSNSなど、それぞれの媒体で「発信の仕方」を変えています。

たとえば、偶然つけていて目に入ってくる視聴者もいるテレビ。短い尺しかないことが多いので、込み入った表現はせずに、シンプルに「楽しそう」というフックで社会課題に興味を持ってもらうこともアリだと思っています。インスタも「おしゃれ」でいいと思っていて。

ポッドキャストはバランスがとれていない、個人的な意見を言う場だと思っているんです。恐れずに意見を言える媒体を自分で作ったというイメージが近いですね。
モデルの長谷川ミラさん。保護団体から迎えた愛犬エルくんとともに=2022年11月、瀬戸口翼撮影
モデルの長谷川ミラさん。保護団体から迎えた愛犬エルくんとともに=2022年11月、瀬戸口翼撮影 出典: 朝日新聞

「ひとりの力の大きさ」を感じにくい?

――いま気候変動対策を話し合う国連の会議「COP27」が開かれています。この問題への意識は、世代によって差があると感じますか?

さまざまな社会問題について、知識量は上の世代の方があると思います。ただ、気候変動については、危惧している人や自分事化している人たちが若い世代に特に多いと思いますね。

でも世界と比べたら、日本の若い世代の興味関心やアクションは、まだまだ少ないんじゃないかと思います。

――世代を問わず、気候変動の問題を自分事化するのが難しいのはどうしてだと思いますか?

気候変動という問題が、ちょっと膨大すぎると感じるのかも。どう生きていけばいいのか、どうアクションを起こせばいいのか。データを見ずに、気候変動を信じない人もいるわけですから。

それに、「ひとりの力の大きさ」を感じにくいトピックでもありますよね。

たとえばジェンダー問題や性的少数者へのアクションは、その声が届いて少しずつ制度も変わってきています。

でも気候変動は、ひとりの声の効果がなかなか見えないし、長期的な問題でもあります。私自身も、取り組んでいて「先が見えない」とつらい時期もあったので、その気持ちはよく分かります。
出典: 2022年11月、瀬戸口翼撮影/朝日新聞
――ミラさんにもそんな時があったんですね。「つらいな」と思ったのはどんなシーンでしたか?

環境問題に興味を持ち始めてすぐの頃や、コロナ禍で使い捨て容器が増えたときも感じましたね。

のめり込むほど「人間は死んだ方がいいんじゃないか」と絶望してしまって。でも、そんなわけにはいかないですよね。

落ち込むことがあっても、ノートに書いて吐き出して、3日で元気になります。原点に返って、ハッピーに生きつつ、どう社会課題を変えていけるのか、楽しく発信していくしかないって思っています。

「興味のある6割」へ向けて

――気候変動に対して「何もアクションを起こしていないな」という負い目があると、その話題が出ただけでシャットダウンしてしまう人もいますよね。

私は2割、6割、2割で層が分かれているなって思っているんです。

まずは興味を持って活動している人が2割。6割は、興味はある・知っているんだけど、何も動いていない人。あとの2割は、情報をシャットダウンしちゃう人です。

わたしはシャットダウンしてしまう2割の人ではなくて、6割の「なんとなく知ってはいるけどアクションを起こしていない」人に向けて情報を発信して、アクションを起こす2割の方に押し上げていきたいって思ってるんです。

それに社会の潮流が変われば、情報をシャットダウンしていた2割も、意外ところっと行動を起こしたりするんじゃないかな? って思っています(笑)。
出典: 2022年11月、瀬戸口翼撮影/朝日新聞

まずは取り組んでほしい

――ミラさんが社会課題の発信を始めてから、「世の中が変わってきているな」って実感することはありますか?

イベントを開催しても感じますし、社会課題にまつわる企業からの仕事が増えていることでも感じますね。
SDGsがテーマのCMを出す企業も増えてきました。これって社会課題に取り組むことが企業のイメージアップになるって考えているということですよね。

うわべだけの環境配慮をさす「グリーンウォッシュ」という言葉もありますけど、私は「まずはグリーンウォッシュでもいいから取り組んで」って思っています。何もやらないよりも「やる偽善」のほうがマシ派です。

数年経ったら「次はグリーンウォッシュをなんとかしよう」って変わっていくと思うんです。

また、日系企業の中には、社会課題に取り組んでいても声を大にして言わないところもあるんですよね。「言わない美学」なのかな。

社会に良いことをやっている企業は、どんどんそれをアピールしてほしいです。それが同じ業界への良いインパクトにもなると思います。

困っていることに気づいていない?

――同世代に「選挙に行こう」って呼びかけていたこともありましたね。投票も大事なアクションだと考えていますか?

私は子どもの頃から、父や祖母と、政治やニュースについて話してきたんです。

祖母はニュースをしっかりチェックして、社会の変化や価値観のアップデートを楽しめる人です。その祖母の影響は大きく受けているかもしれません。

だから選挙権を得たときは本当に嬉しくって。「やっと投票に行ける!」って思ってたんですけど、ふたをあけてみたら投票率が低くて、「あれ? 喜んでいるのって私ぐらいかも」って驚いたんです。

応援する政治家を表明したり、「GO VOTE」と呼びかけたりする海外のアーティストを見て育ったので、私にとっても、それが当たり前なんです。

ただ、伝え方は大切だなと思っています。
「1票の大きさ」と言うと、同世代の子の中には「社会を変えてしまうのが怖い」って感じる子もいるんです。

だから「そんなに変わらないから大丈夫」「みんな行くもんだよ! 気軽に行きな!」って言うようにしています(笑)。

日本って、幸せな平和ぼけをしているのかもしれないですよね。例えば隣の韓国では、徴兵制やジェンダー問題など社会や政治への不満がたまっていて、若い世代の投票率がかなり高い。日本の若者は「変えたい」「困っている」と思うことが少ないのかもしれません。

でももしかしたら、困っていることに気づいていないだけなのかも。「実は困っていることってあるよ」といかに気づかせられるか、今取り組んでいる最中という気がしますね。
 

「数十年後も生きている予定なんだから」

――本来は気候変動も、遠くの島国が沈んでしまうだけではなくて、大型台風の被害を受けている日本の話でもあります。全く他人事ではないですよね。それがあまり自分の話につながっていない、気づけていないのかなと思いました。

地球温暖化によって大型の台風が増えると言われていますよね。台風の被害を大きく受けた静岡へ取材に行くんですが、持続的なボランティアの数が足りていないと聞いています。

大きな社会課題を「見たくない事実」と感じるのもすごく分かるんです。

でも、来年や再来年の大きな台風は防げなくても、私たちってきっと20~30年後も生きている予定なんだから、「とりあえず行動しとこ?」って思います。

発展途上国へのしわ寄せにもしっかり向き合わなきゃいけないとも思います。

――若い世代にとって気候変動によって引き起こされることは、本当に数十年後に起こりえることなんですよね。

「社会課題について何かアクションを起こしたい」という人も、その「場」がない、どうしたらいいのか分からないという人が多いんだと思います。

そのアクションの一つが「投票」なんですけどね。それ以外にも、カフェで社会課題について話をしたり、災害時にボランティアに行ったり……そんなこともアクションだと思います。そして何より、それを続けることが大切だと思います。
出典: 2022年11月、瀬戸口翼撮影/朝日新聞
――ミラさんのように、みんなが自分の意見を発信していくのはやはり難しいでしょうか。

意見を言う教育を受けていないので、なかなかハードルが高いですよね。だからオススメしているのは、社会課題の解決に向けて行動している人を応援するアクションです。

自分のSNSに、活動している人の投稿を載せたり、「いいね」したり、コメントをしたり、イベントに参加したり。

メディアだって反響が大きければ「そのトピックをもう一度やろう」と動きます。だから番組や記事をしっかり見たり読んだりして、SNSなどで意思表示することは大きな力になると思います。

社会課題の解決に向けては、企業やメディアの責任もあるし、そろそろ政府も動いてねって思います。「まだ国民の声が足りない」というなら、じゃあどんどん私たちも声を上げようって思います。その繰り返しが大きな動きになっていけばいいですよね。
 

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