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ネットの話題

「1冊の被害を埋めるには…」鬼気迫る万引き防止貼り紙、書店の願い

「良心」に訴え絶大な反響

シンプルかつ切実な呼びかけ文で注目を集めた、とある書店の、万引き防止貼り紙の誕生背景に迫ります。
シンプルかつ切実な呼びかけ文で注目を集めた、とある書店の、万引き防止貼り紙の誕生背景に迫ります。 出典: ブックエース提供

目次

店舗の経営に甚大な影響を与える犯罪、万引き。ある書店が、予防効果を狙って手掛けた貼り紙が、ネット上で大きな反響を呼んでいます。被害対応の実態を生々しく伝え、人々の良心に訴えかける内容です。どのような経緯で誕生したのか、制作元企業を取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)

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「私たちの生活を脅かしています」

貼り紙は、福島県や関東圏に所在する郊外型複合書店、ブックエース・川又書店の全24店舗内に掲示されています。

「万引きはやめてください」。文面を見ると、そんな書き出しと共に、書籍の窃盗が絶えない現状を憂える旨がつづられています。

1冊の窃盗被害を埋めるためには、
同じ本を30~50冊売らなくてはなりません。
万引きによる窃盗被害は、
地域書店の存続と働く私たちの生活を脅かしています。

更に、万引きは犯罪であり、法律で重い刑罰が規定されているとの説明のほか、犯行に相当する行為を解説したイラストも載っています。

今年5月下旬、関連画像がツイッター上に出回ると、「これは真実」「そもそも万引きという表現をやめるべき」といった感想が相次いで上がりました。出版社勤務と思われる人々からも、支持を表明するコメントが書き込まれています。

ブックエースと川又書店の店舗内に掲示された貼り紙。万引きへの対処にかかる費用や、犯行の類型に関する説明文が載っている。
ブックエースと川又書店の店舗内に掲示された貼り紙。万引きへの対処にかかる費用や、犯行の類型に関する説明文が載っている。 出典: ブックエース提供

「お客様全体の1%未満」に届けたかった

切実な思いがこもった貼り紙は、なぜ誕生したのでしょうか。前述の書店を運営する企業・ブックエース(水戸市)の担当者に話を聞きました。

同社では2020年4月、万引きへの対策を進めるプロジェクトが発足。本を盗んだ場合、商品の代金に加えて、対処にかかった人件費などを合わせた、損害賠償を請求する方針を決定しました。

この点について利用客に周知するため、昨年1月から掲示しているのが、今回のポスターです。デザインの考案にあたっては、メッセージの伝わり方を意識したといいます。

「検討を始めた段階では、強い言葉遣いで万引きを注意する内容でした。ただ、実際に犯行に及ぶ人々の割合は、お客様全体の1%にも満たない。来店者の大多数を不快にさせるかもしれない、と気がかりでした」

「そして物を盗む人々は、強く注意されるのに慣れていて、貼り紙に目を留めないのではないかとも考えました。そこで書店員の生活が、本の販売益で成り立っていると明記し、見る側の良心に訴えかけるような構成としたのです」

貼り紙の遠景。
貼り紙の遠景。 出典: ブックエース提供

社会全体で万引き撲滅するきっかけに

ポスターに盛り込まれた情報のうち、窃盗被害額を補塡(ほてん)するために売らなければならない、本の冊数に注目が集まっています。算出の根拠をめぐって、担当者は一般論と断った上で、次のように語りました。

「一冊の本の利益構造ですが、原価に人件費、水道光熱費、クレジットカードなどの決済手数料、家賃といった販売管理費がかかります。これらを売り上げから差し引くと利益率はおよそ5%。本社コストを除けば、手もとに残るのは約2%です」

「他の小売業の方々と同様、この2%ほどの利益を得るため、日々努力しています。仮に一冊の本を万引きされると、損害を埋め合わせるためには50倍の売り上げが必要になるのです。30~50冊としたのは、利益率に幅があるためです」

警察庁の統計によると、万引きは認知件数・検挙件数とも減少傾向です。ただ担当者いわく、昨今は最低賃金の上昇などを受け、書店業界全体が厳しい経営環境にあります。一件の万引きが事業に与える影響も、年々大きくなっているそうです。

一方で近年、万引きを繰り返す人々に、精神疾患の一種・窃盗症(クレプトマニア)の当事者が含まれると指摘されています。万引き根絶のためには、罰則のみならず、医療的措置など様々な対応策が必要との声が高まっています。

「ポスターを授業で活用しているとのコメントもあり、改めて万引き・窃盗予防に徹していこうと感じています。これを機に、書店のみならず、社会全体の万引き撲滅につながるきっかけとなればうれしいです」。担当者は、そう話しました。

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